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一語楽天・美は乱調の蟻

自由ってさ、なにも失うものがないこと

たとえばアメリカ大陸の真ん中を突き抜けるフリーウエイをサンダーバードかなんかのオープンに乗って旅してるとする、カーステから流す音楽はどんな曲が合うだろう?走っても走っても周りは禿山とトウモロコシ畑だ。助手席には風に巻かれる茶色の髪に見え隠れする相棒が麦藁帽子を右手で押さえているかもしれない、いないかもしれない。六月だろうか九月だろうか、真夏ではないはずなのにじりじりと肌を焦がす太陽。乾いた空気と単調な道路の果てに浮かぶ蜃気楼、しっかりとした青の深さは僕の眠気を誘って、今晩の宿まで後どのくらいだろうと推し量る気力もない。

こんなシーンで僕がどうしても思い浮かべる曲は、Me and Bobby McGee だと思う。クリス・クリストファソンがまだシンガーソングライターだった頃に作った、シンプルで退廃的で美しい曲。最近ではジェニファー・ラブヒュイットやフェイス・ヒルなど数多くのカバーがある。今手元にあるのは、ジャニス・ジョップリンの最後のアルバム「パール」から。

Freedom is just another word for nothing left to lose

という一節はポピュラー音楽の長い歴史の中でも確実にトップ50に入ると思う。覚えやすく、コンセプトがわかりやすく、癖になる。メロディも複雑でない分飽きがこない。この一節が、アメリカの荒野を走るオープンカーには絶対合う。

「自由って言うのはさもう何にも失うものがないって言うことだよ」

団塊の世代には泣きたいほどよくわかる退廃の哲学だ。もっとも僕も含めて殆んどの団塊君たちは、こういうフレーズを口ずさんだだけで、アメリカのヒッピーのような徹底した退廃に沈むことはなかったのだが。僕たちの自由は、何も失うものがないほどにすべてを投げ出したことなんかない、甘ったれた「自由」だった。

Busted flat in Baton Rouge, waitng for a train
When I was feeling near as faded as my jeans
Bobby thumbed a diesel down just before it rained
That rode us all way to New Orleans

フロリダのバトン・ルージュでタイヤが破裂しちゃって、汽車待ってたんだけど、あたしもう気分落ち込んで色褪せたジーパンみたいだったわよ。雨が降り出すところでボビーがトラックを止めてくれて、そのトラックの運ちゃんがニュー・オリンズまで乗せてってくれたの。

Freedom is just another word for nothing left to lose
Nothing don't mean nothing if it ain't free
Feeling good was easy, Lord, when he sang the blues
Feeling good was good enough for me, me and Bobby McGee

自由ってつまるところは何もなくすものがないって言うことよ。もし自由じゃなかったら、すべて無意味になっちゃうのよ。ボビーのブルースを聴いてるだけで気分がよくなるの、ほんと、あたしとボビーの二人でいるとそうやってごきげんな気分になるだけで十分だったわ。

One day near Salinas, I let him slip away
He'slooking for that home and I hope he finds it.
Well I'd trade all of my tomorrows for one single yesterday
To be holding Bobby's body next to mine

或る日ね、モントレーの近くのサリナスというところでボビーが行っちゃったの、あいつさ結局どこかに落ち着きたかったのね。見つかるといいけど、どうかな。でも、ボビーと一緒だった昨日を一日でもいいから取り戻したいわ、その為だったらもう明日なんか一生なくてもいい、ボビーの体にぴったりと寄り添ってさ。

退廃をそのまま人生にしたジャニス・ジョップリンが麻薬の打ち過ぎで死んだのが1970年10月、27歳だった。死後5ヶ月経って、見事に荒みきった名曲 Me and Bobby McGee はナンバーワンになった。「Don't compromise yourself, it's all you have」(絶対自分を妥協しちゃ駄目、自分が一番大切なのよ)というジャニスの口癖に似合った死だった。


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