000000 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

In My Lifeは誰の曲か

Science Fridayのポッドキャスト(2018年8月10日)に、ビートルズのIn My Lifeは誰が作ったか?というエピソードがあった。(ポッドキャストの頁)作曲者はジョンなのかポールなのか、確率統計の手法を使って推定したとかで、ビートルズ・ファンの一人としては聴き逃せない。

In My Lifeは、1965年発売のアルバムRubber Soul(日本では1966年発売)に収録されていたバラードで、オールタイム・ベストの上位によく選ばれる曲だ(23位、Rolling Stone誌のGreatest Songs of All Time、2004年初版、2010年にアップデイト)。

ビートルズの曲の多くは著作権上レノン=マッカートニーの共作ということになっているが、実際には二人の役割分担比率は様々であり、ジョン(レノン)とポール(マッカートニー)を含めた関係者の書き物やインタビューから、その実相はかなりわかっている。ところが、関係者の間で記憶の食い違いがあり特定できていないものがいくつかあり、その一つがIn My Lifeだそうだ。

作詞の方はほぼジョンで間違いないだろう。ジョンの所持品の中からこの曲の詞の原型になったと思われるThere Are Places I'll Rememberと題された断片も見つかっているし、完成した時の手書きの紙片にはJohn Lennonという署名もある。問題は曲・メロディーの方で、この点で二人の記憶には大きな違いがある。

1980年頃のジョンの話では、In My Lifeは自分がメロディーを書いた、中間部8小節はポールの助けを借りた、となっている。中間の8小節とはAll these places have their moments、With lovers and friends I still can recall・・・の部分を言うのだろう。

ところが、ポールの記憶では、メロディーは自分が付けた、その時曲のイメージとして描いたのはSmokey Robinson and The MiraclesというグループのYou've Really Got A Hold On Meだった、とある。ポールのこの記憶は、1980年の自著「Many Years From Now」にも書かれているし、その後のインタビューでも繰り返されている。ちなみに、You've Really Got A Hold On Meは、ビートルズがカバーして1963年にリリースしている曲で、確かにイントロも全体的な雰囲気も似ているものがある。

ここで登場するのが冒頭で紹介したポッドキャスト。ビートルズ好きの数学者たちが、In My Lifeはジョンとポールのどちらの作品群に近いかの確率を推定した。ポッドキャストで説明された限りで、彼らの方法はざっと次のようなものだと思う。まず、1962年から1966年までのビートルズの70曲を調べて、149個の音の流れとコードおよびコード進行の特徴的要素を抽出する。作曲者のわかっている一曲一曲について、149の要素をチェックする。例えば(以下は推測も交えているが)、ジョンのHelpとポールのMichelleを比べてみると、149の要素の一つでジョンに特徴的な<音の動きが少ない>はHelpに当てはまり(When I was younger、so much younger thanの部分はずっと一音で全く動いていない)、別の要素でポールに特徴的な<音が大きく跳ぶ>はMichelleに見られる(I love you, I love you, I love youの部分は完全5度開いている)。またコード進行で見ると、Helpはハ長調で言うとCからAmへの進行がジョン的で、Michelleの長調と短調を行き来する凝ったコード進行はポールの好み、と言えるだろう。

こうしてできた70の曲の要素データから、ジョン的なものとポール的なものの確率モデルを作り、そのモデルにIn My Lifeの要素値を代入し、どちらの作品なのかを推定した、と考えられる。(実際には、もう少し複雑だが論文そのものが手に入らないので、少々端折った。)

In My Lifeがポールの作曲である確率は、モデルの推定によると0.018だそうだ。つまり、ほぼジョンの作曲だということになる。しかし、彼らの作詞モデルによると、歌詞の方はポールの作だという結果が出たそうだ。

さて、このモデルは信頼に足るのだろうか。僕の貧しい音楽感覚でもIn My Lifeは全体的にジョンの作曲だとは思うが、ジョン自身が指摘しているように、中間部のうち特にWith lovers and friends I still can recallにはポール色が濃く漂っている(コード進行に工夫がみられる)。部分部分でどちらかが主導権を取った場合があるだろうから、作者の推定をするにあたって、4小節あるいは8小節単位に取り扱った方がいいのではないだろうか。作詞者に関しては、草稿などの状況証拠から、作詞はポールではなくジョンであるという方に信憑性がある。モデルの信頼度が低いように思う。真実は永遠に知られることはないのだが・・・


© Rakuten Group, Inc.
X