冤罪を晴らすことを雪冤といい、「雪」はすすぎ清める意だそうです。英語では名詞でexoneration、動詞だと be exonerated となります。
ミシガン大学のロースクールの研究チームが、アメリカの雪冤の件数と内容を、殺人、強姦、その他の暴力犯罪、麻薬所持、などの重い犯罪に限定して調べました。1989年から2003年の15年間で、328件あったそうです。この研究リポートから、幾つか興味ある統計を拾ってみました。
1. | DNAによる雪冤が、アメリカで最初に認められたのは、1989年イリノイ州でした。
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2. | 328件の内、145件(44%)の雪冤はDNAの鑑定によって決定されました。
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3. | DNA鑑定によって冤罪の晴れた145件のうち、105件(72%)は強姦の罪で有罪とされていました。
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| <DNA鑑定による雪冤の大部分が強姦というのは、強姦の場合にはDNAによって犯人ではないことが特定できるからです。もしも、強盗などの容疑者にも、DNA鑑定と同じように識別力のある技術が導入されれば、もっと雪冤が増えることは間違いありません。>
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4. | 一方、DNA鑑定によらずに冤罪の晴れたケースは183件で、そのうち159件(87%)は殺人で罪に服していました。
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| <つまり、根拠がDNAかどうかに関わらず、殺人、強姦以外の雪冤はほとんどないと言うことです。何故強盗などの雪冤がないかというと、それは強盗などの場合は、検察側も弁護側もそれほど注意を払わないからだろうと推測されます。逆にいうと、強盗などの冤罪もたくさんあるに違いないのです。ただ、表面化しないだけです。>
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5. | この研究では考慮されていない、雪冤のケースがたくさんあります。(a)警察側の偽証の発覚などにより、大量に雪冤が起きたケース、(b)軽度の犯罪のケース、(c)まだ係争中のケース、(d)託児所、保育園などでの幼児虐待のケース。
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6. | 件数だけによれば、イリノイ、ニューヨーク、テキサス、フロリダ、カリフォルニア、マサチューセッツが上位を占めている。 |
7. | 殺人の罪が雪冤された場合、冤罪の理由は、49%が証人の誤認、57%が偽証、21%が自白を強要された、となっています。(一つの冤罪に理由は一つと限らないので、パーセントを合計すると100%以上になる。)
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8. | 強姦罪が雪冤された場合、冤罪の理由は、88%が証人の誤認、24%が偽証、8%が自白を強要された、となっている。 |
9. | 人種別には、黒人が全体の55%を占め、白人31%、ヒスパニック13%と続きます。
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| <ここで注目すべきは、間違って強姦罪に問われたケースのほとんどが証人の誤認によること、そして罪に問われた人の多くが黒人だと言うことです。更に、そのときの被害者の多くが白人なのです。どういうことかというと、多くの場合、白人の女性は、一人の黒人の男性を別の黒人の男性から区別できないと言うことです。これは白人-黒人に限ったことではありません。人種間での個体の識別は難しいのです。そして、まだ人種差別の残っているアメリカ社会で、この生物学的な困難が更なる悲劇を起しているということなのでしょう。>
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2003年7月現在、全米31の州で、起訴された犯罪者からのDNAサンプルの採取を義務つけています。カリフォルニアでも、来月の選挙でこの提案の賛否が問われます。DNAサンプルが採取され、データベースが出来れば、雪冤数は更に増えるでしょう。
参考文献
Exonerations in the United States, 1989 through 2003