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ジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」(2000年 草思社)は、ヨーロッパやアジアの文明が先発し、アフリカ・アメリカ・オーストラリアなどの文明が何故それを追い越せなかったか、という世界史の疑問に進化生物学や地理学の膨大な知識を駆使して一つの答えを提出した、余りにも単純化された推論が眉唾的だが、刺激的な著作だった。
これは僕の勝手な意見だが、進化生物学、進化心理学、進化云々学というのがどうも現状をもとにしてそこから遡って進化の理由をこじつけていくという、屁理屈中心なのがいかがわしい。いや、僕はこの方法が比較的好きなのだが。何しろ自分勝手な理屈をこねくり回して文化論や性差論をぶちかますことが出来るのはとても便利だ。日本では竹内由美子がよく知られているのでは? 例えば、これはいずれ詳細を紹介したいのだが、レナード・シュレイン(Leonard Shlain)という人の「セックス・時間・権力」(Sex, Time, and Power)という進化生物学系の本があって、彼の推論によると、ホモ・サピエンスの胎児が何らかの変異により大きな大脳を持つことになり、二本足の歩行による身体的変化と相まって、女性の出産による死亡率が著しく高まった。この死の恐怖によってホモ・サピエンスの女性はセックスに対してノーと言える動物に進化したというのだ。更に、女性が拒否権を手に入れたことが今度は種族の絶滅の可能性に繋がり、それを回避する形で女性のオーガズムの強度が「考案」された、という嘘かホントか証明しようの無い理屈である。女性の拒否権と自己中に振り回される男性はどうするかといえば、ポルノグラフィーとレイプを発明するというわけだ。この二つの余りに人間的な文化形体では、女性はいつも男性の思うがままになる、現実には味わえない幻想を消費することになる。 ジャレド・ダイアモンドはこれよりは数段説得力があると思う。ダイアモンドの考える文明発展の要素はまず第一に農耕定住を始めること、これは無難な要因だろう。農耕定住により出産率が高まり人口が増加する、蓄積ができることで階級差が生じ専門官僚やプロの兵士が出現する。狩猟民族は物量で負けることになる。 ダイアモンドは次に栽培可能な穀物と家畜化できる動物の種類の豊富さを文明発達の要因としてあげる。東西に長いユーラシア大陸は穀物と動物の種が伝播し多様化するの最適な地形だった。南北に長いアフリカ大陸やアメリカ大陸は気候的地形的障害により伝播が阻害された。オーストラリアは地理的に孤立しすぎている。 農耕に従事し家畜類と接触することでさまざまな伝染病に対する免疫力も進化した。ヨーロッパ人がアメリカ大陸の原住民を制圧できた最大の理由は、伝染病だった。免疫を持っていなかった原住民の90パーセントがこの「武器」にやられたという。 ダイアモンドが世界史の大問題に若干無謀ともいえる方法で答えを出した理由は、多分彼が南カリフォルニア在住のリベラルだからだろう。文明の発達が西欧人の優秀さによるものではなく、地形、気候、環境などに起因することを証明しようとしたのだ。アメリカにはまだまだ多くの人種差別主義者がいる、白人優位主義者がいくらでもいるのだ。そういった輩をやっつける理論武装の意味合いがあるのだろう、と推察する。 さて、このジャレド・ダイアモンドが新作を出した。「崩壊」(Collapse)というタイトルで今度は文明の衰退、滅亡を扱っている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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