テーマ:最近観た映画。(40235)
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僕は映画「レオン」がとても好きでオフィスでよく話題にしたことがあるのだが、普通のアメリカ人には通じないテーマのようで、あるいは話相手の年代が悪かったのか「ぺドフィリア(小児性愛)の映画じゃないか」と馬鹿にされたことがある。見当違いもいいとこで、年齢に関係のない愛情交換(の幻想)はロマン主義の変種である。
「マイ・ボディガード」(Man on Fire)は、そんな僕の感性に共鳴した作品だった。道を見失って彷徨する男の魂が世代を超えた愛情で生きる場所を与えられる、という感じのテーマがメキシコで頻発する誘拐、被害者の70%は生きて戻らないそうだが、のストーリーに埋め込まれて語られる。 意外さはそれ程なくだいたいが予想できてしまうのだが、ぶれを多用した斬新な(人によっては目にきつい)映像、青を貴重にした暗い色調、弦楽、生ギター、ピアノ、ラテン、ロックを混在させた音楽、トニー・スコット監督は冴えてると思った。批評家の受けはあまりよくなかったようだが、心に残る作品に批評家の後ろ押しは要らない。 映画の導入部の出来が秀逸だ。荘厳な弦の響きに伴われてメキシコ市の俯瞰映像、スモッグの所為か霞んだ空気に黒くたたずむ前近代の建物たち。カメラは街中の描写に移り群衆の中を若いカップルが幸せに歩いている。教会の鐘とともに字幕がラテン・アメリカ諸国の誘拐事情を告げ、音楽が唐突にラテン・ロックに変わり、誘拐が起こる。再び弦に戻った音楽が家族の悲しみを映し、誘拐特捜班の待機する中誘拐犯からの電話が入る。「家族が全てだろう?(Family is everything, no?)」という比較的ピッチの高い誘拐犯の声が身代金引渡しの方法を告げる。この3分ほどの映像で背景がすべて語られる。 ここで映画の配役などの紹介が終わり朝焼けの空の映像とともに生ギターが物悲しいメローディを奏で、髭面の主役クリーシー(ディンゼル・ワシントン)がタクシーの後ろの席で、陽の光で自分の過去の罪が暴かれるとでも言うようにサングラスに隠れた暗い表情で登場する。徐々にロックのリズムが加わりメタルの容器からウイスキーを煽るクリーシーを映す。エルパソに住む旧友レイバーン(クリストファー・ウォーケン)を訪ねてきたのだ。 バーベキュー・パーティのテーブルでクリーシーはレイバーンに訊く。「どうだろう、神は俺達のしたことを許すと思う?」二人とも自分達のしたことは絶対に許されないことはよくわかってる。海兵隊の反テロリスト活動の中でたくさんの人を殺してきたのだ。荒んだ心がクリーシーをアル中に駆り立てる。 ワシントンの演技はいつものことながら余りの職人芸にただ感嘆するばかりだが、少女ピタを演じるダコタ・ファニングの演技はこの映画のもう一つの要だ。ピアノレッスンを終えた彼女がクリーシーの撃つ拳銃の音に反応する時の表情の流れが見事だ、どうやってあんな演技が出来るのだろうと思う。クリストファー・ウォーケンという俳優は不思議な人で、彼の演じる悪役は限りなく憎たらしく、この映画のような役になるとどこからとも無く温かさを醸し出してくる、それが巧さなのだろうが。 映画の後半で誘拐犯がもう一度口にする「人生で一番大事なのは家族だろう」という言葉でトニー・スコット監督は何を言いたいのだろう。誘拐と言う家族を引き裂く行為をする者にこういう言葉を言わせる、もちろん殆どの人がこの言葉を信じているからこそ誘拐がビジネスとして成り立つのだが。家族を守るクリーシーには家族はいないと言う逆説。スコットは、家族愛ほど利己的な愛はないんだという逆説を言いたいのかもしれない、と思うのは深読みにすぎるんだろうな。 2時間26分の長さはそれ程気にならなかった。前半と後半が違うテーマを描いているのだが、僕の好みは前半で、後半はまあ無くてはならないとは言えもし時間を短くしたいのならここでカットするしかない。 kaoritalyさんも書いていたが、音楽の組み込まれ方がとても巧みでサントラ盤は買う価値があると思う。グラディエーターでも歌っていたリサ・ジェラール、キューバのシンガー・ソングライター、カルロス・ヴェレラが映画の終盤の感動を盛り上げる。 もう一つ、(この曲はサントラ盤には入ってないようだが)もう覚えている人は余りいないだろうけど、リンダ・ロンシュタットがまだロックを歌っていた頃の「ブルー・バイユー」はこの映画の隠れたテーマでもある。 ピタがクリーシーに訊ねる、「クリーシーはどこへ行くの?」 「俺も家に帰るよ、ブルー・バイユーにね」と答えるクリーシー。 それがどんな戦であれ、「戦士達」はいずれ還っていくのだ、ブルー・バイユーという象徴的な場所に。日本ではそれは多分故郷とでも呼ばれるのだろう。 Saving nickels, saving dimes, Working till the sun don't shine, Looking forward to happier times on Blue Bayou. 小銭をためるために夜遅くまで働いた いつかブルー・バイユーに戻って幸せなときを過ごすために I'm going back someday, come what may, to Blue Bayou, Where the folks are fine, and the world is mine on Blue Bayou. Where those fishing boats with their sails afloat, If I could only see That familiar sunrise through sleepy eyes, how happy I'd be. 何があってもいつかブルー・バイユーに帰るんだ 人も風景も全部僕に馴染み深いブルー・バイユー 釣り舟が湾に浮かんでいる 眠気まなこをこすってあの懐かしい朝陽を眼にしたら 死ぬほど幸せだろうな お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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