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2005.03.31
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1958-59年のボビー・フィッシャーの世界への初挑戦は、チェス界の予想を大きく上回ったものの挑戦者ラウンドで5位に終わった。上位4人は旧ソ連の棋士が独占した。

1962年、次の世界選手権サイクルのインター・ゾーン・トーナメントでフィッシャーはトップを勝ち取ったが、挑戦者ラウンドではまたも4位に終わり世界チャンピオン挑戦の夢は果たせなかった。

この敗戦の痛手は大きかった、と同時にフィッシャーは、この大会でも3位までを独占したロシア(ソ連)の棋士達への疑いをいよいよ膨らませた。フィッシャーはこう推測する、「挑戦者ラウンドに出場するロシアの棋士達は前もって引き分けること決めている、それも心理的、肉体的スタミナをセーブするために短時間のうちに引き分けることを」(Sports Illustrated誌、1962年8月20日記事より要約)。

フィッシャーの被害妄想なのかそれともソ連の陰謀は本当にあったのか?

1962年の挑戦者ラウンドの結果を見てみよう。8人の挑戦者はラウンドロビン(総当り)で各4試合づつ戦う。この年の上位3人はソ連のペトロジアン、ケレス、ゲラーが獲ったのだが、この3人が互いに戦った12試合(4x3)は全て引き分けだった、それも平均たったの17手で引き分けている!確かにこのレベルのチェスでは引き分けは珍しくない。が、最初からお互いが引き分けるつもりなら短時間で勝負を終わらせ、精神力を消耗することも無く他の対戦相手に全力を尽くせる。かつ引き分けることでお互いが0.5ポイントを獲得できる(勝てば1ポイント、負ければ0ポイント)。

ソ連のグランド・マスターの一人コルチノイは、1977年に亡命した後自伝を書き、上位3棋士の間にフィッシャーが指摘するような「紳士協定」があったことを認めている。ソ連(ラトビア)出身の第10代チャンピオン、ミハイル・タルも同様のことを言っている。

意図的な引き分けがあったのはどうやら事実のようだ。しかし、フィッシャーがポイントで先行していればソビエト棋士達がいくら引き分けしても無駄なことなので、フィッシャーが遅れをとった状況でのみ有効な戦略だったといえる。

一方フィッシャーは極度に共産主義を嫌っていたし被害妄想の気があったのも事実だった。例えば、15歳で招待されてソ連に行った時、VIP並みの扱いにも拘らず、モスクワ・チェスクラブでチェスをする人達を指して「ブタのように薄汚れた奴らだ(a bunch of pigs)」と口汚く罵ったり、アメリカに出したハガキにソビエトの悪口を書いた。この招待旅行は途中で切り上げざるを得なくなった。

こういう逸話もある。スパスキーとの世界選手権に向かう飛行機で出されるオレンジ・ジュースは、眼の前で絞ったものじゃないと嫌だ言い張った。ソビエトが毒を盛るかもしれないと心配したためだ。

これはずっと後の話だが、1999年に逃亡生活中(「逃亡」の理由については次回以降に書きます)におこなったハンガリーのラジオインタビューで、フィッシャーはユダヤの陰謀の犠牲者だと言い始めたりもした。彼自身はユダヤ人なのだが、今や反ユダヤ主義者になったようだ。

トップレベルの競技というのは体力と精神力の消耗戦で、自信をなくしたり相手に対して畏怖を抱いたら負けだ。特に一対一の競技は極限の消耗戦だ。テニスなどのスポーツでは、鍛えられた身体が集中力の弛緩を補ってくれる。チェス、将棋、碁では身体は助けてくれないので、とてつもない精神力の強さを要求される。精神力の崩壊は逆に身体的消耗に繋がる。チェスの試合に負けて病気になる棋士は少なくない。

プロの棋士達はいろいろなやり方でのしかかる精神的ストレスを捌こうとする。ある憶説では、フィッシャーの場合周囲に対して怒りをぶつけることで精神的重圧を処理していたという。共産主義に対して、マスメディアに対して、あるいは最近ではユダヤ人やアメリカ政府に対して、彼は怒り続けた。フィッシャーの被害妄想はこの辺に端を発しているのかも知れない。





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最終更新日  2005.04.01 16:49:14
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フィッシャーは   ももちき☆ さん
変わった人とは聞いていましたが、目の前に絞ったって・・・・。

天才と狂人は紙一重を地で行っていますね。 (2005.04.01 22:23:29)

Re:ボビー・フィッシャーの被害妄想(03/31)   JAWS49 さん
 見境無く怒り続けてるように思えるので、加害と被害が線で繋がっているというより、単に精神的ストレスを強く感じる人だという事なんですかねえ。
 ユダヤ人で反ユダヤに転向するなんて、よくあるケースとは思えませんが、それもストレス解消故なんでしょうか。常に解放されていないと天才稼業にはつらいでしょうし。 (2005.04.02 06:46:45)

Re:フィッシャーは(03/31)   cozycoach さん
ももちき☆さん
>変わった人とは聞いていましたが、目の前に絞ったって・・・・。

>天才と狂人は紙一重を地で行っていますね。
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ナッシュの場合もそうでしたが、余りに神経伝達物質の伝達速度が速いとどこかで支障が出てくる、という仮説はどうでしょうか?フィッシャーは集中力がものすごいので、光の加減とか物音とかちょっとしたことがすごく気になるみたいですよ。 (2005.04.02 14:12:34)

Re[1]:ボビー・フィッシャーの被害妄想(03/31)   cozycoach さん
JAWS49さん
> ユダヤ人で反ユダヤに転向するなんて、よくあるケースとは思えませんが、それもストレス解消故なんでしょうか。
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この辺はまだよくわからないので、この先調べてみます。母親がユダヤ系のポーランド人だと思います。顔を見たこともない父親はドイツ人。 (2005.04.02 14:16:37)

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