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一語楽天・美は乱調の蟻

2006.03.12
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サンフランシスコ・ジャイアンツに在籍し、湾岸のホーム・グラウンド、AT&T球場でホームランを放ち続ける男、その飛距離は人間技とは思えないほど、球場から飛び出てサンフランシスコ湾にボチャンと飛び込む第###号ホームラン球を手に入れるために、ボートで水上に待機する好きものファンたち、球場を埋める白黒黄茶その他ざまざまの肌の色の愚衆を狂喜させる、鉄腕・逆人種差別の怪人、バリー・ボンズ、彼がステロイドを常習していたという告発本が話題を呼んでいる。

以前から、噂は絶えず、彼の腕の太さと盛りを過ぎてからの飛躍的なホームラン産出量を見れば、常識的には、「まあ薬使ってるね」というスポーツ界の欺瞞さを嘆くともなく諦める見方はあった。それでも、ここまで状況証拠が揃って、ボンズはどうするのか、メジャーリーグはいかに対処するのか、連邦議会は異議を挟むのか、今のところよどんだ水のようにあちらへぐらりこちらにゆらりとしているが、4月の開幕までには何らかの動きがあるのでは、と思う。

ボンズら幾人かの(あるいは大半の)スポーツ選手が使っているだろうと憶測される筋肉増強剤は、アナボリック・ステロイド(anabolic steroid)と呼ばれている。

生体内の化学反応は大きく分けてanabolicなものとcatabolicなものがある。同化と異化と訳されているようだが、何のことかわからない。metabolism(新陳代謝、生体の化学反応経路の総称)のうちより大きな分子を生成していくようなものをana-bolismという、ana- は上方にという意味だ。これと逆に分解作用をするものをcata-bolismと呼び、cata- は逆方向という意味だ。

アナボリック・ステロイドはタンパク質の合成を加速し、筋肉を増強し、骨を増強し、赤血球を増やす。読みかじりなので間違っているかもしれないが、こういう効果を生むのはアナボリック・ステロイドが細胞の分裂・増殖速度を増すからだ。

男性ホルモン・テスタストロン、は生体内で作られるアナボリック・ステロイドである。単純化していうと、アナボリック・ステロイドは人工の男性ホルモン、ということになる。

医学の分野でのアナボリック・ステロイドの使用は1940年代、50年代までさかのぼる。ある種の貧血症とか小児の成長障害に対して使われた。癌やエイズなどで筋肉が徐々に失われていく場合にも使われてきた。

スポーツ界で使われ始めたのは1954年のオリンピックの頃からのようだ。主流科学者たちはアナボリック・ステロイドの筋肉増強効果を全面的に支持せず、大量投与による副作用を警告した。にもかかわらず、現場の選手たちとそのトレーナーは口コミで伝わってきた効果を信じ、使用を続けた。(東ヨーロッパで国家がどれほど関わったのかについては、調べてない。)

国際オリンピック委員会は、1975年にアナボリック・ステロイドの使用を全面的に禁止した。それ以来、ほとんどのアマ、プロのスポーツ組織は右に倣っている(はずだ)。

アメリカでは、1970年代からアナボリック・ステロイドの使用は医師の処方箋を必要とした。当然、闇市場が存在し、高校生や大学生の使用が広がっていった。若者の使用増加という状況に困惑した連邦議会は、1990年にアナボリック・ステロイドをヘロインなどの麻薬と似たような(同じクラスではないが)管理規制対象薬物(controlled substance)とした。

アナボリック・ステロイドそのものは、これで理論上規制できるかもしれないが、次々と新しいコンピューター・ウイルスが登場してくるのと同様、筋肉増強剤の世界も、新手がどんどんと出てくる。体内に入るとステロイドに変身する、ステロイド・プリカーサーというものも出た。一時取りざたされた Androstenedione、通称アンドロもその部類だが、2004年にとうとう禁止された。

何しろ、コンピューター・ウイルスと違ってスポーツ選手の場合は、筋肉増強で巨額の富を手にすることが出来るかもしれないのだ。今後、ステロイド取締り側との追いかけっこはどちらが勝つのか。

しかしよく考えてみると、スポーツという一種曲芸・サーカス・見世物を見て熱狂する、われわれ大衆という愚か者が大金を払いさえしなければ、こうまでして筋力をつけようという体力馬鹿が増えることもなかったろうに。金を払うものがいるから売春も麻薬もステロイドもある、という風に思ってしまうのは、僕があまりにケチでこういった娯楽に余分な金を払いたいと思わないからだろうか?






最終更新日  2006.03.12 17:54:00
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