783077 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2008.05.06
XML
カテゴリ:カテゴリ未分類
福岡伸一氏の「生物と無生物のあいだ」の第6章と7章で取り上げられているDNAの構造解明にかかわる疑惑について、仕事と遊びに合間にあれこれ読み漁ってみた。僕の結論はこうだ。

これは疑惑でもなんでもない、ロザリンド・フランクリンには、ワトソンとクリックほどの閃きもなかったし、DNAの構造が生物学そして人類の将来にとってどれだけ重要な鍵を握っているかについての確信もなかったというに尽きる。ロザリンドは必要な情報をすべて握っていた、それは彼女の地道な研究と技術力が生み出したものだ。そのほかの貴重な情報も耳に入っていたはずだ(エルヴィン・シャルガフの実験結果とライナス・ポーリングのDNA構造の仮説)。その情報を構造の解明へと導くことができなかったのは、彼女に閃きがなかったこと、そしてもう一つは彼女が同僚や他の研究者と対話をすることを怠ったからだ。

ワトソンとクリックがロザリンドのデータを手に入れたことに倫理的な問題はなかったか。倫理的な問題がもしあったとすれば、データをワトソンに(自発的に)見せたモーリス・ウイルキンズだが、ウイルキンズとロザリンドはオフィスの同僚であり、ロザリンドは既に職を代わることが決まっていた。職場を変わる時点で、彼女の仕事は半ば上司であるウイルキンズに引き継がれることになる。彼女は、ウイルキンズを上司とすることを拒否してきたが、ウイルキンズは研究所の副所長であり、データを引き継ぐことは問題ないと思う。

もう一つ、福岡氏の指摘している事実、マックス・ペルーツがロザリンドのデータをフランシス・クリックに見せた、という件がある。これはロザリンドのいた研究所のリポートに掲載されいたデータで、このレポートは資金を提供している医療研究審議会(Medical Research CouncilあるいはMRC)へのものである。レポートの名目は、MRCが補助している諸研究間のコミュニケーションをとることで、レポートはコンフィデンシャルではなかった。この件についても、フランシス・クリックには全く問題はない。あるとすれば、ペルーツであるが、上に書いた理由でこれも技術的には問題がない。

この事件は英米では既に広く取り上げられていて、映画も製作されたしテレビでの特集も組まれてきた。ロザリンド・フランクリンという女性研究者は高く評価されるべきだし、もし彼女が1962年の時点で生存していたら、ノーベル賞をもらったかもしれない。しかし、疑惑というほどのこともなく、過小評価されてきた一人の研究者が脚光を浴びたに過ぎない、と僕は思う。

福岡氏の取り上げ方描写の仕方は、事実の記載に誤りはないものの、必要以上に小細工をしてロザリンドへの同情を煽いでいる。どうしてこのように偏向したものがサントリー学芸賞を受賞するのだ、と疑問を呈したくなる。

いくつか例を挙げよう。まず第一に、前回触れたように、章を始めるにあたって論文のピアレビューに伴う不正の可能性を記載したこと。これは、DNAの解明にとは全く無関係の内容で、著者の意図が丸見えであり、しかも多くの読者はこれに騙されるに違いない。

福岡氏は、ピアレビューのことを持ち出すことで、次の文章で自己満足ともいうべき言葉の遊びがしたかったのだろう。「では、何がワトソンとクリックをして、DNAラセンの逆平行(アンチ・パラレル)構造に眼を開かせたのだろうか。彼らはある重要な手がかりをひそかに『透かし見(ピア)』していたのである」。「ピア」と「透かし見」を繋げたかったのだろう。

じゃあなぜロザリンド・フランクリンは、同じデータを「透かし見」ではなくじっくりと見ながら、アンチ・パラレルのアイディアが閃かなかったのだろう?福岡氏は、それを「一攫千金を夢見る」ワトソンのアメリカ人的態度と「完璧な帰納的アプローチによってのみ構築されていた」ロザリンドの地道さのせいにしている。同じことを、僕の言葉で言えば、ワトソンとクリックはDNAの構造の重要さを確信していて競争が起きていることも知っていた、ロザリンドはそういう大局的視野を持っていなかった、となる。更に、ロザリンドはモーリス・ウイルキンズ、ワトソン、クリック、などの他の研究者との対話を試みようとしなかった。ある意味では、ロザリンドは頭がよすぎた(ワトソンの言葉)。

これも前回触れたが、福岡氏が巧みに言及していないことがある。ノーベル賞は生存している人にしか授与されない。ワトソン、クリック、ウイルキンズはノーベル賞を1962年に授与されたが、ロザリンドは1958年に死んでいる。ノーベル賞のこの規則に触れずに、ロザリンドがノーベル賞から疎外されたかのように書くのは、福岡氏自身がワトソンやクリックの書き方を批判しているのと同様の、書かないことでつくウソではないのか。

121ページで、福岡氏は次のように書いている。「ところがクリックはクリックで・・・『私のほうは当時その写真を見たことがなかったのだ』と記している。これはおそらく正確ではない」。なにが正確でないのだ、といぶかる読者を5ページも宙吊りにして、余計な英語の訳について間違った講釈をした後、126ページでようやく、「クリックが、自伝の中で注意深く触れることを避けているある事実が存在する」とようやく何が正確でないかの話に戻る。で、この時点ではっきりするのは、福岡氏が言っているのは写真のことではなく分子構造の計測と形についてのデータのことなのだ。つまり、クリックは写真こそ見てないけど、空間群の形についてのデータは見てるじゃないか、だから、写真を見ていない、という表現は正確じゃないよ、と非難しているのだ。言葉の揚げ足を取った言いがかりのように感じる。

最後にもう一つ、ブレンダ・マドックス(Brenda Maddox)という人が2002年に出版した「Rosalind Franklin: Dark Lady of DNA」というロザリンド・フランクリンの伝記がある。この本については、福岡氏は熟知しているはずだ、何しろ邦訳したのが彼なのだから。福岡氏の本の109ページには、彼女の本から借用している写真もちゃんと出典を書いて掲載してある。しかし、本文中ではこの本のことは全く触れていない。おそらく福岡氏の叙述の多くはマドックスの本からとっているのではないかと思うが、僕もすべてを読み比べたわけではないので断言はできない。ただ、この事件に関しておそらくもっともよく調べてある著作のことは、本文で紹介してよいのではないか?

ワトソンについては回を改めて書いてみたいが、彼のものを読めば読むほど、僕は彼が好きになってきた。ワトソンがロザリンド・フランクリンを、当初はあまりよく思っていなかったことは事実である。1962年出版されてベストセラーになったのがワトソンの「二重ラセン」で、1953年当時の彼のロザリンドに対する感情が正直に書かれている。皮肉なことに(あるいは、ワトソンが意図したことか)、ワトソンのロージーについての侮辱的な記述が、ロザリンドの友人や家族の怒りを買い、その結果、それまでは無名だったロザリンド・フランクリンという女性研究者が広く知られるようになった。良くも悪くも、ワトソンがロザリンドの名誉を回復したといえる。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2008.05.06 16:07:35
コメント(5) | コメントを書く


PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

コメント新着

cozycoach@ Re[1]:キンドル本をダウンロードできない(12/04) たいていの人は何かに、誰かに、アンチを…
JAWS49@ Re:キンドル本をダウンロードできない(12/04) 解決策を思いつかれてよかったですね。 私…
cozycoach@ Re:キンドル本をダウンロードできない(12/04) ほんとにねー、アメリカのサポートはイン…
ranran50@ Re:キンドル本をダウンロードできない(12/04) PCの再設定とかめんどくさいですよね~。…
cozycoach@ Re[1]:キーワード検索機能(11/10) JAWS49さんへ 恣意的とは違うんですけど…

フリーページ

日記/記事の投稿

カテゴリ


© Rakuten Group, Inc.