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2014.12.28
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ジャック・ラカン(1901年-1981年)が国際精神分析学会でデビューしたのは1936年7月31日。1936年というとフロイトは既に80歳、この会議の頃は顎ガンの治療の痛みに苦しみ、会議に出席していた娘のアナ・フロイトが、いつでも父のもとに駆けつけることが出来るよう、会議はウィーンから比較的近いチェコのマリエンバートで開かれた。

ラカンはカトリックの中流家庭で育ち、カトリックの学校で教育を受けた。にもかかわらず、スピノザを愛読し(スピノザはユダヤ教からは破門されキリスト教徒からは無神論者と見做されていた)、やがて無神論の傾向を強めた。当初、精神医学(Psychiatry)を学び、1932年には精神医学の学位を取得している。1930年ごろからフロイトを読み始め精神分析(Psychoanalysis)の方に重点を移すことになる。ウィーンを中心としする精神分析学会の幹部の間ではラカンは無名だったが、フランスの哲学者やシュールレアリストの間ではよく知られていた。

ラカンの発表のタイトルは「le stade du miroir」、鏡像段階あるいは位相、後にラカン理論の中核をなすアイディアの一つとなったものだが、残念なことにこの論文は残されていない。発表の時の若干のごたごたでラカンは臍を曲げ、論文の提出を怠ったのだ。

ラカンの発表は10分ほど続いたのだが、時間を知らせる幾度かの合図にもかかわらず、終わる気配がなかった。業を煮やした座長のアーネスト・ジョーンズは発表を打ち切らせることにしたのだ。ここでラカンが抗議したという話もあるが、いずれにしても聞き入られることはなく、ラカンは渋々と中止せざるを得なかった。この時の屈辱はラカンの心から長く抜けなかったようで、10年後、フランスでの精神科医の集会で行った、「心因的因果性について」という講演の中に、次のような一節がある。
鏡像段階については、1936年にマリエンバートの会議で正式な発表をしました、少なくとも、10分経過を知らせる四度目の合図があった時までは問題なかったのですが、その時点で会議の座長だったアーネスト・ジョーンズに中断されました。彼はロンドン精神分析会の会長です。彼はその地位にふさわしい人物なのでしょう、私が話をした彼のイギリス人の同僚の誰一人として彼の性格の不愉快な点を指摘しなかったものがない、という事実からも明らかです。にもかかわらず、あの会議に出席していたウィーンのメンバー達は私の発表を気に入ってくれたようでした。(彼らが私の発表の内容に賛同する様は)まるでもうすぐ旅立つ渡り鳥の集団のようでした。あの発表の論文を会議主催者に提出することはしませんでした。ですから発表論文集には載っていません。内容の核になる部分は1938年に書いた、「フランス百科事典」の中に数行でまとめてあります。
英語版のÉcrit(2006、p. 150-151)から訳した。あのアングロ・サクソンのジョーンズめ、会長面をして人の発表を台無しにしやがって、発表論文集に掲載なんかするものか、という怒りを滲ませながら書いた文章のように、僕には思える。

という次第で、1936年の論文は失われてしまったのだが、エリザベス・ルディネスコ(Elisabeth Roudinesco)というフランスの精神分析家・歴史学者が、この論文の周辺を発掘調査して、二つの痕跡を探しだした(The Cambridge Companion to Lacan、2003年、p.26)。まず、準備のためにラカンが7月16日に行った発表を聴いた出席者のノート、もう一つはアレクサンドル・コジェーヴ(Alexandre Kojève)が残した原稿で、ラカンと共同で書くことになっていた論文の下書き。コジェーヴはロシア革命から逃れてドイツ、フランスと亡命してきた哲学者で、1933年から1939年まで行われた「ヘーゲルの精神現象学」についての彼の講義は、当時のフランス思想家たちに多大な影響を与えた。(フランシス・フクヤマの「歴史の終わり」の中のヘーゲル理解は、コジェーヴの読みが反映されている。)

さて、ここからいよいよラカンの「鏡像段階」について理解を試みようと思うが、それは次回に。





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最終更新日  2014.12.28 15:06:34
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