783393 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2015.03.07
XML
カテゴリ:カテゴリ未分類
ある架空の若者のブログ、「このたび私達結婚させていただくことになりました。つきましてはその経緯を説明させていただきます。・・・・結婚式の日時場所については招待状をお送りさせていただきますが、式場にはMホテルを使わさせていただきます。尚、これを機にX子はQ社を退社させていただき、家事に専念させていただきます。」

これは架空の文章ですが、日本に行くととにかく「させていただきます」を耳にすることが増えてるように感じます。文法的な誤りもあるようで、一例ですが、五段活用の動詞には「させていただきます」ではなく「せていただきます」が付くので、上の文では「送らせていただきます」「使わせていただきます」が文法的には正しい、とNHKのサイトで山岸弘子氏が説明しています(注)。

基本を押さえるために、菊池康人「敬語再入門」(講談社学術文庫、2010年、原本は丸善、1996年)からの抜粋を載せます。
「させる」の一用法に、「・・・することを許す」つまり「好意的な許可を与える」という用法があります。「・・・する」側が「させてもらう」と述べるのは、「相手の好意的な許しを得て、そうさせてもらうという恩恵を受ける」という捉え方ですが、さらに「もらう」に代えて「いただく」を使えば、「恩恵の与え手」を高めます。これが「させていただく」本来の用法で・・・・・二重の意味で敬度の高い表現です。(pp. 191-192)
菊池氏は更に続けて、「相手から恩恵や許可を得たかのように見立て」るという発想があることを指摘しています。例えば、結婚をするのはなにも世間一般の許しを得てするものではないにも拘らず、そう見立てることで世間を高く置き自分を低める姿勢です。ここまで拡張されると、用法に対して違和感を持つ人も多く(慇懃無礼に過ぎる)、賛否分かれるところです。

井上史雄「敬語はこわくない」(講談社現代新書、1999年)に興味深い指摘がありました。
国語学者の研究によると、ただ「する」というのでなく「してやる」とか「してくれる」「してもらう」などのやりもらい表現が出てくるのは江戸時代中期からである。昭和になってから民俗学者柳田國男は、「~てもらいます」について関西人が使うと指摘している。「もらう」という表現で相手への気持ちを表現して、本来の敬語の代わりに使うようになったのだ。ところが今や、「~せてもらいます」ではかえって失礼な感じがする。今はやくざがおどしにも使いそうで、相手への押し付け、強制の意味合いを持つ。それを避けるために、これまた「敬意低減」の一種として、敬語を使った別の表現「~していただく」が登場したのだ。(pp.163-164)
ここで「敬意低減(あるいは逓減)」というのは、言葉の丁寧さの度合い、使っていくうちに<擦り減って>、乱暴に感じられるようになる、一般的傾向を指すようです。つまり、井上氏は「~してもらいます」の敬意が逓減したために「~していただく」がより使われるようになった、と指摘しているのでしょう。確かに、「あがらしてもらうよ」という言い方は、相手の許可など関係なく、づかづかと土足で上がってくる感じがします。

敬意低減の法則があるとすると、原義喪失の法則もありそうです。

「させていただく」で相手の概念が直接恩恵を与えてくれる人から、世間や社会という一般的な概念に拡張され、ついにはその<相手>が消失してしまったのが現代用法、つまり原義喪失ではないでしょうか。菊池氏も山岸氏も触れていることですが、「させていただきます」は今や、単にこちらを低くして述べる、「いたす」と同じような感覚で使われているようです。もうそこには、誰かから許可をもらう、というもともとの感覚はないように思います。

長い期間日本を離れて暮らしてきた僕のような浦島太郎には、この敬意低減や原義喪失の時間、おそらく10年とか20年という単位の時間だと思いますが、その時その場に居合わせなかった、という欠落があります。するとどうなるかというと、「させていただきます」という表現の敬意・謙譲の度合いの感覚に、僕の内部と世間の用法の間でずれが生じているのです。僕の感覚では、いまだに相手から許可や恩恵を与えてもらっている、という原義が強く残っています。ですから、この表現が原義から遠く離れて特定の恩恵を考慮しない文脈で使われるのを耳にすると、とても抵抗があるし、自分で口にするのには相当の心的摩擦がともないます。

語法の変化に対する一部の個人の心的摩擦・抵抗はいつの時代でもあることで、それをのみこむように言葉は変遷していくと考えられます。若い世代の間では、「させていただく」と表現しておけば無難ということで、使用頻度が増えているのでしょう。この世代が年齢を重ねるにつれて、この用法は更に定着していくと予想されます。文法学者や敬語専門家があれこれ指摘しても、この流れを変えるのは難しいでしょうね。

(注)野口恵子「バカ丁寧化する日本語」(光文社新書、2009年)によると、五段活用の動詞の後ろに「させていただく」を付ける用法は広がっているようです。関西ではすべての動詞に「さしてもらう」を付けるのが普及しつつあるとか、「行かさしてもらいます」、「書かさしてもらいます」、「読まさしてもらいます」など。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2015.03.07 06:02:37
コメント(4) | コメントを書く


PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

コメント新着

cozycoach@ Re[1]:キンドル本をダウンロードできない(12/04) たいていの人は何かに、誰かに、アンチを…
JAWS49@ Re:キンドル本をダウンロードできない(12/04) 解決策を思いつかれてよかったですね。 私…
cozycoach@ Re:キンドル本をダウンロードできない(12/04) ほんとにねー、アメリカのサポートはイン…
ranran50@ Re:キンドル本をダウンロードできない(12/04) PCの再設定とかめんどくさいですよね~。…
cozycoach@ Re[1]:キーワード検索機能(11/10) JAWS49さんへ 恣意的とは違うんですけど…

フリーページ

日記/記事の投稿

カテゴリ


© Rakuten Group, Inc.