一語楽天・美は乱調の蟻

2015/09/07(月)09:04

ネットフリックスの社内カルチャー

ネットフリックス(Netflix)がとうとう日本に上陸したそうですね。僕もアメリカでは数年間加入しています、もっとも僕の場合、今や主流となったストリーミング・サービスにはいまだに尻尾を振らず、一枚一枚番町皿屋敷のようにDVDが郵送されてくる、古典サービス(あるいは絶滅種サービス)のみに加入しています。理由は、自己不信です、ストリーミングに加入してしまったら一日中テレビの前で映画を観てしまうだろう、そんな軟弱な自分を知っているからです。 それはさておき、ネットフリックスは、カリフォルニア州スコッツバレーで1997年に設立されたベンチャー企業です。ネットフリックスの創始者のひとり、ヘイスティングスがビデオレンタル屋で延滞金4000円を取られた時に、延滞金の付かないビデオ郵送サービスはどうだろう、と思いついたとか。そのネットフリックス社で1998年から2012年までの期間、つまり立ち上げから大企業になるまでの時期ですが、人事を担当したのがパティ・マコード(Matty McCord)という人で、彼女のインタビューを聴くと、なるほど、こういう型破りな労働環境があったからこそ、ネットフリックスは斯くも驚異的な成長を遂げたんだ、と納得しました。 ハーバード・ビジネス・レビュー掲載の彼女のエッセー。 元々はパティ・マコードが作成したネットフリックスの内部文書、2009年にネットで公開され、2014年6月の時点で800万以上閲覧されたという、Netflix Culture Codeと題されている。 これらの文書、スライド、インタビューで強調されているのは、ネットフリックス社内カルチャーの7つの重要ポイントです。その中から、<1.価値とは、我々が大切だと思うこと>と<3.自由と責任>を見てみましょう。 <価値>というのは、最近ではどんな組織でも掲げてますね、お客様第一、誠実さ、敬意を払う、などといった、いわば建前あるいは綺麗ごとです。多くの場合、マネジメントや従業員が必ずしもそれを信じていることではないので、絵に描いた餅になってしまうのです。ネットフリックスでは、価値とは価値があるとされる行動と能力だと定義されています。具体的には次の9つの項目です。判断、コミュニケーション、インパクト、好奇心、革新性、勇気、情熱、正直さ、無私無欲。これらの項目の一つ一つに具体的な行動や態度指針が付されています。例えば、判断の項目では、的確な決定、症状よりも原因の究明、戦略的に思考して何を行い何を行わないのかをはっきり言明する、今処置しなければならないことと後で処置することをはっきり分離する、という点が具体的に掲げられています。好奇心とは、素早く熱心に習得する、会社の戦略・市場・顧客・供給の理解に努める、大局的に会社のビジネス面・技術面・商品性を知る、自分の専門外のことにも有効に貢献する、という点が指摘されています。勇気というのも面白いです、たとえ物議を醸すようなことでも思っていることを言う、困難な決定でも苦慮せずにする、思慮深いリスクを取る、我々の価値に沿わない行動には異議を唱える。無視無欲というのが気になりますが、自分や自分のグループではなく会社に一番ためになることを目指す、一番いい選択肢を探す時には無私になる、仲間を助ける時には時間を作る、(社内で)前もって広く情報を公開する、とあります。 次に<自由と責任>、ネットフリックスの社員は最大限の自由を持つとともに、自分の責任を果たすことが要求されています。自由度の一例をあげます。ネットフリックスに休暇規定は存在しません。つまり、責任を果たす限り、休みたいだけ休んでよい、ということでしょうか。もちろん、服装の規定もありません。旅行中の出費、交際費などの規定も、自分自身が通常するように振舞うという漠然とした示唆があるのみです。一方、責任とは、自分でやる気を出す、自分で規律する、自分で進歩する、リーダーのよう振舞う、人から言われる前に行動する、床に落ちてるゴミは拾う、といったことが書かれてあります。 自由と自己責任は働く者にとっては諸刃の剣です。7つの重要ポイントの2番目に<高いパフォーマンス>というのがあり、その中に、「一生懸命働いてるというのは関係ない」とあります。オフィスにいる時間が長いとか家でも働いているとかはネットフリックスでは評価されないのです。月並みのパフォーマンスがずっと続いているような人は、いずれ解雇通知を出すことになる。労働時間は短いにもかかわらず、継続して優秀なパーフォーマンスの人は、より多くの仕事を任され給料も上がることになる。 こういったネットフリックスのカルチャーの大部分は、僕も壮年の時には目指していたことでもありました。しかし、出来のよくない部下を辞めさせるという点に関しては異議があります。これは成長を目標とするグローバル企業と非営利組織との違いでしょうが、平均的な能力でも誠実で安定した従業員の方が、僕のいたような職場ではずっと貴重だったのです。

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