一語楽天・美は乱調の蟻

2017/09/10(日)11:54

スローン・スティーブンス

試合としてはあまりに一方的でいまいち刺激に欠けるUSオープンテニス女子決勝だった。スローン・スティーブンス(Sloane Stephens)24歳、対戦相手のマディソン・キーズ(Madison Keys)22歳、アメリカの若手テニス選手筆頭(このグループにCoco Vandewegheも加えるべきか)の二人は、大の仲良しでもあり、試合後のネット際の抱擁は15秒ほども続いた。ちなみに、試合後の選手間の挨拶はいくつかパターンがあり、負けた方がその憤りをぶつけるかのように視線も合わせず指を触れるくらいのものから、通常の握手プラス一言ナイスマッチと添えるもの、東欧の女子選手に多いと思うがハグしながら両頬を触れ合うもの、死闘の後の感激で抱擁しあうものなどがある。今回のスローンとマディソンの抱擁の長さは例外と言える、第2セットを6-0で破ることで親友に恥をかかせてしまったことの埋め合わせという意味合いもあったのかもしれない。 ジュニア時代から活躍していたスローンは、2013年に大躍進し、オーストラリア・オープンで準決勝、ウィンブルドンで準々決勝、フレンチとUSで4回戦まで勝ち進み、ランキングは11位まで上がった。しかし、2014年、2015年はランキングが30位代に後退、2016年の夏に右足を負傷、その後ほぼ一年間のツアー欠場を余儀なくされ、今年の7月の時点では900位代にまで落ち込んだ。 ツアー復帰は今年のウィンブルドンからだったが、ウィンブルドンも含めて復帰後3トーナメントは初戦で敗退、ようやく8月のロジャーズ・カップとシンシナティで準決勝まで進み、その間クビトヴァ、サファロヴァ、ケルバーといったトップ選手を破り、本大会で一挙にトップクラスに返り咲いた。 USオープンの解説でクリス・エヴァートがコメントしていた、負傷したことでここまでプレーがよくなるのだったら、負傷も意味のあることだ、みたいなことを。確かに、以前のスローンは凡ミスが多かったように思う。本大会での彼女は、ディフェンスを完璧にこなし、リスクの高いサイドへの強烈ショットにこだわらず、確実なショットで相手の凡ミスを誘う、というスタイルに変身したようだった。 スローンの他にも、今年のUSオープンでは檜舞台に復帰した選手が幾人かいたので、そのことにも触れておこう。 チェコのぺトラ・クビトヴァは、2016年の12月に自宅に侵入した強盗と争って、利き腕の左手の腱と神経を負傷し、今年のフレンチ・オープンでようやく復帰、本大会では準々決勝でヴィーナスに敗れた。 2012年にはランキング15位だったエストニアのカイア・カネピは、病気と怪我でおよそ2年間も欠場していたが、USオープンの予選から勝ち上がり、準々決勝まで進んだ。 そしてマリア・シャラポヴァ、彼女は禁止薬物の使用で長期出場停止の処分を受けていて、USオープンにはワイルド・カードをもらって参加した(これにはもちろん賛否両論あるわけだが)。 シャラポヴァは別にして、クビトヴァやカネピのような長期の怪我から復帰した選手は、敗戦後のインタビューが穏やかだ、刺々しくない。負けて悔しくないわけがないのでその感情を抑えることのできない選手の場合、近寄りがたい拒絶感が漂っている。インタビューする方もかなり気を使って、たとえばヴィーナスの場合など、懸命に彼女を持ち上げようとするが、それに乗ってこない。クビトヴァやカネピはさばさばしていて、復帰できたこと自体の喜びを噛みしめている風がある。

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