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一語楽天・美は乱調の蟻

2021.02.07
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富永仲基(1715-1746)の著作で残っているものは「出定後語」(しゅつじょうこうご又はしゅつじょうごご、1745年出版)と「翁の文」(おきなのふみ、1738年出版)、そして自筆清稿本で伝わっている「律略」と「楽律考」だけだ。もうひとつ「説蔽」(せつへい)という著作があった(と「翁の文」の中に書かれてある)ようなのだが、現存しない。仲基が「説蔽」を書いたのは15~18歳の頃だと推定されている。「翁の文」に書かれた要約から推測すると、「説蔽」は儒教批判と見做されるものだった。当時の懐徳堂の学主・三宅石庵は「説蔽」の出版を許さず、その上仲基を破門した、という風説が残っている(注1)。この破門の伝説と仲基の墓が富永一族の墓所にないことに因果関係を読み取る憶測が、いまもちらほら語られている。

「出定後語」と「翁の文」の現代語訳は中央公論社・日本の名著18巻「富永仲基、石田梅岩」(中央公論社、1978年)またはその中公バックス版(1984年)に収録されている。「出定後語」の原文(漢文)とその訓読文は、日本思想体系43巻「富永仲基、山片蟠桃」(岩波書店、1973年)に収録されている。その補注には「翁の文」の第6、7、8節が掲載されている。また関儀一郎という人が編纂し、儒学・漢学関係の著作を集めた「日本儒林叢書」全14巻(1924年~1938年)の中に「翁の文」が入っている。その全集はデジタル化され無料で公開されている。このサイト(http://www2.sal.tohoku.ac.jp/jurin/)で「富永仲基」を検索すると、「翁の文」のPDF版をダウンロードできる。また昨年9月には「天才 富永仲基 独創の町人学者」(釈徹宗著、新潮新書)が出版されていて、「出定後語」の現代語訳が読めるようである(確かめていない)。

富永仲基の思想的方法をもう少し詳しく見る前に、彼の思想の概要を見ておこう。加藤周一の次のようなまとめがほどよく具体的でいいと思う。
富永仲基は・・・知的領域では徳川時代の学者の中でもっとも激しく因習に挑戦した人で、当時の三つのイデオロギー、すなわち神道・仏教・儒教のすべてを真向から批判した・・・徳川時代の儒教的世界の中で、おそらくは西洋思想と何の接触もなしに、富永仲基が最近まで誰も予想もしなかった新しい学問の可能性を、ともかくも予測し、しかもある程度まで発展させたということは、驚嘆に値する。その新しい学問とは、過去のさまざまな思想の連続をいくつかの大きな流れに沿った歴史的発展としてとらえる厳密に経験的な科学で、それらの流れはまた思想そのものの展開に内在的な法則、言語の歴史的発展、それぞれの文化の環境的特質によって規定されるものである。(「日本の名著」第18巻、p.10)
自分の生きている<世界>(家庭、仕事場、共同体、宗教、国)の慣習・規範・きまりごとといったものを、そこにあり続けるものとして、その正当性を疑うことはあまりない。これはいわば、それらを<絶対化>している、つまり<相対化>できていない、ということだ。富永仲基が生きた18世紀前半は、朱子学への批判はあったものの、孔孟の儒教そのものを疑うことはなかったようだ。そんな時代に、仲基は儒教、仏教、神道に歴史的分析を加えて<相対化>した、これはすごいことだった。仲基の「出定後語」は、本居宣長などの国学者からは快哉を叫ばれたが、それは単に国学者たちが仲基の著作を仏教批判と読んだからだろう。それ以外では、時代を先取した仲基の独創性が同時代もそれ以降も正しく評価されたという話はあまり聞かない。「出定後語」出版の翌年、仲基がわずか32歳で世を去ったということも、彼にたいする過小評価の一因だったかもしれない。

明治になってから富永仲基のことを<発掘>したのは、内藤湖南(1866-1934)だった。1896年に大阪毎日新聞に連載した「関西文運論」で湖南は、徳川300年間独創的見解の説を作り上げたのは富永仲基、三浦梅園、山片蟠桃だと書いている(注2)。湖南の「⼤阪の町⼈学者富永仲基」と題した講演」(1925年)を青空文庫で読むことができる。

注1 加藤周一「富永仲基異聞 消えた版木」(1998年、かもがわ出版)に収められている加藤の戯曲草稿第一幕に、「説蔽」についての仲基と三宅石庵の対話がある。まったくのフィクションであるが、可能性として読むのも一興かと。
注2 公益財団法人・大阪21世紀協会のウェブサイトを参照。https://www.osaka21.or.jp/web_magazine/osaka100/082.html






最終更新日  2021.02.07 09:55:31
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