テーマ:テニス(3381)
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その昔、アンドレ・アガシがウィンブルドンの<白以外はダメ>ルールに反抗して、この伝統的なテニス行事への参加を数年間拒んだことがあった(1988-90年)。白づくめのテニスウェアは、階級社会イギリスでエリート層のスポーツであることの象徴だったとも言われている。アガシの反旗は階級社会の残滓への反体制行動だったのかも知れない、あるいは単に長髪でネオンカラーの好きな若者の逸脱行動だったのかも知れない。いずれにせよ、1991年にはアガシはウィンブルドンに戻ってきた、白づくめで。
反抗がテニス界を大きく変えたこともある。Women's Tennis Association(女子テニス協会)、通称WTA、女子プロテニスを運営・統括する組織が1973年に設立されたのは、賞金金額の男女格差是正を訴えて、数人のトップ女子プロ選手が1970年の全米オープンをボイコットすると脅したからだ。当時の男女賞金格差はひどいものでは12:1にも開いたことがあるそうだ。ビリー・ジーン・キングなど9人のプロ選手が、元プロテニス選手でテニス雑誌「World Tennis」の出版社社長Gladys Heldmanの支持を得て成し遂げた。現在四大大会の男女賞金額が同じなのは、WTAの存在と影響力による。 大坂なおみが反抗の一石を投じた記者会見ボイコットは、今後のテニス界にどのような影響を及ぼすだろうか。数日前に大坂は、全仏オープンの期間中は記者会見に応じないことを、彼女のツイッターで宣言した。「・・・時々感じていたことですが、選手の精神状態が考慮されていないなと、それは他の選手のでも自分のでも記者会見の度に感じていました。過去にされた質問と同じことを何度も訊かれたり、質問の内容が”この人は何を考えてるんだろう”と思わせるようなものだったり、私に対して疑念を抱いている人たちの前に出るつもりはありません。選手が負けた後の記者会見で泣き崩れている映像を何度も眼にしたことがあります。皆さんもあるでしょう。落ち込んでいる人を更に傷つけるようなことで、私にはそんなことをする理由がわかりません。私が今回記者会見をしないことは、この大会(全仏オープン)自体に対する批判ではありません・・・ただ、大会組織側が相も変わらず選手の精神状態を無視して、”記者会見はする義務がある、しなければ罰金が下される”と言い続けるのなら、私はただ笑うだけです。」というようなメッセージだった。 四大大会での彼女の記者会見は何度か見たことがある。彼女の記者会見での対応から感じるのは、質問の意味を吟味し非常に誠実に答えているようだという点だ。相撲の勝者インタビューなどでよくある、決まり文句を言っている(たとえば、一日一番頑張るだけです、みたいな)という感じは全く受けない。大坂のような対応をする人は、質問によっては時に傷つき、時に苛立つだろう。攻撃的性格の人が失礼な質問を受けた時は、相手を睨めつけたり、威嚇する(それはどういう意味?というように聞き返すことで質問者は委縮する)。大坂はあまり攻撃的な性格の持ち主ではないのだろう。むしろ、繊細で打たれ弱い性格だと思う。時に泣き崩れてしまう。そういうことが続くと、落ち込み自信を無くし、テニスの内容に影響する、だからこそ今回の宣言だと思う。 ざっと反応を眺めると、ほとんどの選手たちが一応の理解は示しながらも、仕事の一部なのだからインタビューは受けなければならないとするのがほとんどで、大坂を強く支持するという見解はまだないようだ。大会関係者は、大坂の第一戦の後、早速15,000ドルの罰金を科した。更に、今後も会見拒否を続けるのであれば、罰金額は増えるだろうし、今後の四大大会への参加も受け入れない、というかなり厳しい言明を出した。この点では、四大大会主催者の結束が固いようだ。 この先、ファンや選手たちの意見の流れが大きく変わるとは、僕には思えない。となると、どうやって事態を収拾するのかが焦点になる。大坂と大会側は水面下で接触して、なんとかお互いのメンツを守れる形で納めなければならない。たとえば、敗戦後のインタビューはすぐにではなく、時間を置いて受けることが出来るとか、ある種の質問は拒否することが出来るとか(今でも、拒否している選手はいる)。何らかの改善を出口戦略として解決することが必要だ。できれば、大坂が勝ち進まないうちに解決することが望ましい。感情に流されれば、大坂の引退ということにもなりかねない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.05.31 17:53:18
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