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2022.04.21
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大学受験を終えた日、その町まで一緒に来た友人二人と僕は、長い長い精神の拘束から解き放たれた無謀さを振り回し、学生服と革靴のまま山歩きを敢行した。ほぼ遭難しかけたものの悪運強く町まで下りてきた僕たちは、そのまま映画館に入り、監督マイク・ニコルズ、主演ダスティン・ホフマン(ベン)とキャサリン・ロス(エレーン)、そしてベンを誘惑する中年女性にアン・バンクロフトを配した「卒業」(The Graduate)を観た。その映画で流れたSimon & Garfunkelのサウンドトラックは秀逸で、「Sound of Silence」やイギリスの伝統歌謡に由来する「Scarborough Fair」が描くたどたどしい青春の甘味さはもちろんのこと、「Mrs. Robinson」の軽妙な使い方も抜群で、ベンがエレーンを略奪するために真っ赤なアルファロメオで結婚式場に駆けつける数分のシーン、ガソリンが徐々になくなっていくとともに、ギターの<タンタタ、ウッタン、ッタンタン>というバッキングのテンポが落ちて行き、遂に車が止まってしまう時の一所懸命の滑稽さは、僕たちのその日の心情と行動に申し分なく合っていた。

そのSimon & Garfunkelは1970年にいったん解散し、ソロに転じたポール・サイモン(Paul Simon)が1973年に発表したのが「American Tune」で、アルバム「There Goes Rhymin' Simon」のB面1曲目に入っていた。日本ではアルバム・タイトルが「ひとりごと」、「American Tune」は「アメリカの歌」として発売された。

僕は、ポール・サイモンの熱狂的なファンではなかったので、ソロになってから発表された「American Tune」のことはまるで知らなかった。たまたまユーチューブを散策していて、Josh Turnerというミュージシャンと女性ボーカリストがこの曲をカバーしてるのに出会い、単純な音の動きが醸し出すスピリチュアルな雰囲気、歌詞の方も理解できる限りでは人生を思索するような内容、全体として僕の好みだった。

ユーチューブでJosh Turner+Lea TaubのAmerican Tuneを聴く

Josh Turnerの動画には注がついていて「ギター伴奏の和声はバッハのマタイ受難曲による」とあった。なんのことか興味を惹かれて調べてみると、「American Tune」のメロディにはかなり複雑な歴史があった。

英語版のウィキペディアなどによると、サビを除く「American Tune」のメロディは、「O Sacred Head, Now Wounded」というキリスト教の讃美歌にもとづいているとある。そしてバッハの「マタイ受難曲」にもこの讃美歌が数回取り入れられているらしい。つまり、サイモンもバッハも、この讃美歌を拝借していたということだ。

一方、讃美歌「O Sacred Head・・・」の出自も解明されていた。詞の方は、ドイツの牧師、パウル・ゲルハルト(Paul Gerhardt)が11-12世紀のラテン語の詩をもとにして1656年に讃美歌にした。原語のドイツ語では「O Haupt voll Blut und Wunden」という。メロディの方は、それより前の1600年頃、バロック初期のドイツ人オルガン奏者、作曲家のハンス・レオ・ヘスラー(Hans Leo Hassler)が当時のポピュラー音楽として作ったものだった。讃美歌の英語訳が登場したのは1752年のこと。日本語訳は「血しおしたたる」もしくは「おお、血と涙にまみれた御頭(みかしら)よ」とされている。

ユーチューブで讃美歌「血しおしたたる」を聴く

細かいことが気になる僕は、「マタイ受難曲」(英 St Matthew Passion)のどこでこの讃美歌が使われているのかを確認したくなった。「マタイ受難曲」は通常2時間30分を超える長大な作品、2部構成、全部で68の曲またはセクションから成っている。幸いユーチューブで見つけた、イヴァン・フィッシャー(Iván Fischer)指揮、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(蘭Concertgebouworkest)演奏(2012年、リンクはここ)の説明欄には、68セクションすべての時間位置、演奏形式(chorus, chorale, aria, arioso, recitative)そして始まりの詩句が書かれてあった。勉強不足でよくわからないが、chorusは一般的な合唱でchoraleは讃美歌の為の独特の4声合唱形式ではないかと思う。よって、68曲のうちchorale形式のものだけを確認すればいいわけだ。(あとでわかったことだが、英語版ウィキペディアの「St Matthew Passion」の項には、全choraleの作曲者、題名、冒頭のドイツ語詩句、セクション番号などが表になっていた。これを使ってPaul Gerhardtの「O Haupt voll Blut und Wunden」だけを確認すればよかったのに。)

件の讃美歌は全部で4回使われていた。セクション番号と時間位置(時:分:秒で表示)そして冒頭のドイツ語詩句は次の通り。それぞれ1分から2分程度の演奏時間。

#15 00:33:47  Erkenne mich, mein Hüter
#17 00:35:55  Ich will hier bei dich stehen
#54 02:04:05  O Haupt voll Blut und Wunden
#62 02:24:32  Wenn ich einmal

ここまで書いてもう長くなった。讃美歌「O Sacred Head・・・」と「American Tune」にメロディや符割の違いがあるのかを検討しようと思うが、それは次回の話にしよう。






最終更新日  2022.04.21 06:00:02
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Re:音物語 American Tune 1.(04/21)   ranran50 さん
遭難しなくて良かった。

「卒業」のアルファロメオが駆けていくのはベイブリッジですよね~。

初めて渡ったとき「わぁ~、『卒業』の橋だぁ~」って感動しました~。

今時の若い方は、もう「卒業」の映画は知らないでしょうね~。

cozycoachさんの「青春」の一ページをのぞかせていただいたようで嬉しかったです~。 (2022.04.22 14:57:22)

Re:音物語 American Tune 1.(04/21)   cozycoach さん
赤くないのでベイブリッジみたいですね。教会はサンタ・バーバラのはずです。どこからどこへ向かってたんでしょう?

そうですか、「卒業」の橋だって感動したんですか。1970年代後半でしたよね。僕がベイブリッジを始めて渡ったのは1980年代後半だったと思います。「卒業」のことはまったく思い浮かびませんでした。鈍感ですね。なんか、ゴールデンゲートの橋かなって思ってたのかも。

バスの一番後ろの席に二人で座って去っていくシーンは印象的でしたね。でも、これから現実が待ってる、二人はどうなるんだろう?なんてことは、若いときには考えませんでした。中年過ぎて自分も現実的になってからは、夏目漱石の「それから」で代助が三千代を奪ってから、あたふたと職を探しに行くのと、重なるようになってきました。 (2022.04.22 17:11:39)

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