テーマ:今日聴いた音楽(75566)
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実は、讃美歌「O Sacred Head・・・」は、「American Tune」以前に別のポピュラー曲で使われていた。1947年、アメリカのフォーク・シンガー、トム・グレイザー(Tom Glazer)がこのメロディに乗せて「Because All Men Are Brothers」という曲を発表していた。みんな兄弟・姉妹なんだから一つになろうよ、という社会的な抗議の歌としてだった。このバージョンは、アメリカのフォーク・グループ、ピーター・ポール&マリー(いわゆるPPM)も1965年に取り上げている。
西欧では、讃美歌がポピュラー音楽化されてヒットすることはそう珍しいことではないようだ。よく知られたものを二つ挙げると、「Amazing Grace」、僕のよく聴いたバージョンはAretha FranklinやRod Stewartのもの。もうひとつ、「Morning Has Broken」、これはCat Stevensがヒットさせた。これらのヒット曲は讃美歌の歌詞をそのまま使っている。Tom Glazerの「Because All Men Are Brothers」は歌詞を変えた作品で、その点で珍しい部類に入るのではないだろうか。 ユーチューブでピーター・ポール&マリーの「Because All Men Are Brothers」を聴く 「O Sacred Head・・・」の楽譜(4声の上2つのみ表示)を参照してほしい。主旋律(一番上)ではほとんど4分音符、たまに8分音符、が連続し、それぞれの音符に歌詞の1つの音節(シラブル)が充てられている。1947年のTom Glazerバージョンの歌詞も、多かれ少なかれ同じである。音階的にはほぼ全て高低2度づつしか動かない。曲の構成は<A・A・B・C>の4つのセクションが4小節ずつ、合計16小節という型に嵌ったものである。近代のポピュラー音楽としては刺激が少ない。 ポール・サイモンはこの曲を見事に加工した。僕のような素人にもわかる点をいくつリストする。 ▶ 符割の堅苦しさを崩すためにシンコペーションを幾つか入れて裏ビートにアクセントが来るようにしている。「American Tune」の最初の1小節「Many is the time I've been mistaken」の部分で見ると、2拍目と4拍目のアクセントを裏ビートに移している。つまりアクセント・強拍の位置は2.5拍目の「been」と4.5拍目の「(mis)taken」に動いている。結果的に2小節目の第1拍はアクセントを失っている。 ▶ 原曲の構成では上に示した最初の<A>セクションと二度目の<A>セクションは全く同じメロディだが、サイモンの場合、二度目の<A>セクションではメロディを若干変えて、<A・A>ではなく<A・A'> としてバリエーションを付けてある。具体的には、後半の旋律を3度上げて盛り上がりを持たせている。「American Tune」の一連目の歌詞でいうと、「certainly misused」の部分が該当する。 ▶ <A・A'・B・C>の<B>セクションの部分の歌詞に「oh, but I'm alright, I'm alright」という慣用表現を挿入して、歌が語るように自由に流れるようにしてある。 ▶ <B>セクションの部分の終結は、原曲ではキーCでいうとAの和音を使っているが、これだと(宗教的な)高揚感が出過ぎて曲がここで立ち止まってしまう。そこで、サイモンはごく普通のAm/A7からD7で<C>セクションに流れていくコード進行を使っている。 ▶ <C>セクションの3小節目、第1連の歌詞でいうと「・・・bright and bon vivant」という小節は通常の4拍ではなく6拍になっている。楽譜上は、6/4を1小節入れてあると考えても4/4に2/4を1小節足してあると考えてもどっちでもいいと思う。歌詞の都合上か旋律の必然からか、サイモンはどうしてもここで2拍足して、次に来る「so far away from home, so far away from」という部分を4小節にして締めくくりたかったようだ。結果的には、これが新たなセクションDになり、全体が<A・A'・B・C・D>という元の讃美歌よりやや複雑な構成になっている。小節の数でいうと<4, 4, 4, 6, 4>となっている。 これらの工夫に加えて、サイモンはサビ部分を足している。メロディも歌詞もドラマチックなこの部分は、6拍子や3拍子の変則小節を交えながら、<A・A'・B・C・D>へと立ち戻っていく。 というわけで、ポール・サイモンが讃美歌を大改造して作り上げた「American Tune」は、彼の巧みなテクニックで独自の楽曲になっている。しかし、サイモンの独創性が本当に輝いているのは、この曲の歌詞だと僕は思っている。 ユーチューブでMeg & Lucaの「American Tune」を聴く。Megのハスキーボイスによる独特なAmerican Tune。(注)ユーチューブは広告が多いので、僕の場合、広告が順次消えるまで30秒ほど再生ボタンを押さずに待ってから、始めるようにしている。自動再生のオプションをオフにしておかないといけない。「広告をスキップ」というボタンを押すのもありかも知れないが、どんな悪影響があるのかもわからないので、押さない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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