くれーじーくえいる　ぶろぐ

　先日、日本とオーストラリアの両政府がEPA（経済連携協定）交渉について、日本の牛肉関税引き下げやオーストラリアの日本車への関税撤廃等で大筋合意しましたが、それと共に、日本が従来の武器輸出三原則に代わる"防衛装備移転三原則"を閣議決定したのを受け、今後日豪間で防衛装備・技術協力の枠組みを構築することでも合意しました。
　そして、それを先取りするかの如く、日本の自衛隊でオーストラリア製の装備品が採用されることになったとの情報が出てきました。

　昨年１月に起きたアルジェリアでの人質拘束事件で邦人に犠牲者が出たのを受けて、日本では同年11月に自衛隊法を改正、緊急時の自衛隊による在外邦人の陸上輸送が可能となりました。これにより、海外で想定されるIED（即製爆発物）や地雷等の脅威下で陸上輸送に使用可能な車両が必要と判断され、防衛省は2013年度補正予算で４両の"輸送防護車"の導入を決定、海外製品から選定を進めていました。そして、過去の運用実績等を参考にオーストラリア製のブッシュマスター装甲車を選定したとのことです。
　ブッシュマスターはオーストラリアのADI社（現：タレス・オーストラリア）が生産している四輪式の装輪装甲車で、一般の装輪装甲車よりも軽装甲ながらIEDや地雷等への耐性を高めた"歩兵機動車"と呼ばれるカテゴリーの車両です。1998年にオーストラリア陸軍に採用され、オランダやイギリス等でも運用されています。乗員数は運転手１名＋兵員９名で、車体は地雷やIEDの爆風を逸らせるとされるＶ字型底面のモノコック構造で、STANAG4569レベル１相当（距離30ｍから7.62mmX51NATO弾を防ぐ耐弾性能および手榴弾・地雷の破片に耐えられる耐爆性能）の防護能力を備えています。
　来年３月までに４両が納入される予定で、調達情報によると配備先は陸上自衛隊宇都宮駐屯地になるとみられ、同地駐屯部隊で海外派遣の緊急展開を担う中央即応連隊に配備されると思われます。

　自衛隊が海外製の装甲車両を新規導入するのはAAV7水陸両用装甲車に続いてで、創生期の米軍供与車両以来実に半世紀以上ぶりのことです。この種の歩兵機動車であれば国内開発も可能と思われますが、迅速な導入が必要な上、在外邦人の陸上輸送という限られた用途のため、時間のかかる国内開発よりもすでに運用実績のある海外製品の導入というのは妥当な選択です。寸法やハンドル位置が日本の道交法に合っているのもこの車両の利点でしょう。なお、防衛省技術研究本部では耐爆防護や軽量低反動砲等の要素を取り入れた"軽量戦闘車両システム"の研究を行っていますが、あくまで要素研究の段階なので早急な実用化にはまだ到らないでしょう。陸自での全般的な導入を期待する声もありそうですが、この種の歩兵機動車は紛争地帯で完全装甲の装甲兵員輸送車よりも小回りの利く乗員防護用車両というニーズに応じて生まれてきたもので、現状の日本の防衛態勢下では国内で敵勢力がIEDや地雷を頻繁に使うような状況は想定しにくいので、導入の優先順位は高くないと思われます。

　日本とオーストラリアは以前から防衛・安全保障分野での協力関係を深めており、最近でもオーストラリア海軍の関係者が日本のそうりゅう型潜水艦の技術に関心を寄せているとの報道がありましたが、今回さらに防衛装備品の開発でも技術協力を図る方向性が示されたわけで、今回のブッシュマスター装甲車の採用はある意味その呼び水といえるかもしれません。