2012/05/06(日)18:57
新年早々… [5]
☆☆ これは、『創作』のカテゴリーです。「成田山詣」から始まる続きものです。ある男とある女、ある男に食らいついて離れないおばちゃん、その他の絡みあい。ドロドロしたお話しです。 ☆☆
昨日の新宿デートの余韻がまだ残っている。
ババァは昨日から息子の家。
ババァの朝の襲撃がないからだろう、一日中気分爽快だった。
仕事帰りにラブリーと食事をしようと、メールをしてみた。
ラブリーは「明日5日からシフトが入っているから、今日はゆっくりしたい」と言う。
明日仕事帰りに一番で軽知恵で逢う約束をして、仕方なく部屋へ帰った。
そして、ほとんど残飯とも言えるお煮しめやら黒豆やらを焼酎で流し込んだ。
食べ物を粗末にするのは良くない。
そもそも、ババァが料理すること自体、食べ物を粗末にしていることになるのだが…。
これで、明日も腹はピーピー、ケツはプープー、なんてこったい!
祖母が亡くなったはずなのに、代々木家では正月を祝っている。
そう、おばちゃんの母親は亡くなってはいない。
切羽詰まったウィニーがラブリーについた嘘だ。
おばちゃん可愛さではない。
別れ話につきものの泥仕合の先延ばし。
先に延ばしたところで、避けられるものでもないんだがな…。
翌5日、ウィニーが先に軽知恵に来て、ラブリーが来たのは8時近くになっていた。
「お疲れさん、久しぶりの制服、ちゃんと入った?」
ラブリーのウエストを突つきながら言った。
「失礼ね。いくらお正月だからって、そんなにいきなり太りませんよ。ウィニ、夕飯は?」
「ペコペコだけど、なんだかお腹の調子がおかしいんだよ。」
「なんか悪いものでも食べた?」
例えば、おばちゃんの作ったモノとかさ。
「食べたのかなぁ…。」
食べた、食べた。
軽知恵では、他に客がいなければ出前をとってくれる。
いつもはすぐ近くのラーメン屋「私流」から、ギョウザやナス味噌炒めなど。
那宇井も一緒に夜食として腹に詰め込む。
そうでもしなけりゃ、那宇井は8時から翌朝の4時まで食事ができないのだ。
おせち続きで胃がもたれているのだろうと、お浸しや冷や奴、トマトサラダなどのあっさり系の注文にした。
お腹にたまりそうなものも注文しないと、那宇井がかわいそうだ。
「あと、チャーハンでいいかな、那宇井?」
「僕はなんでもいいですよ。今日はギョウザはいらないんですか?」
「よっぽど調子悪いのね。今日は早く帰る?」
ラブリーが心配そうに顔を覗きこんでくる。
「お腹がおかしいだけですよ。」
ババァのせいだ、ババァのせいだ、ババァのせいだ!
それでも、箸はあまりすすまず、トイレにばかり行った。
何人かの常連と新年の挨拶を交わしたが、いつもの饒舌も毒舌も冴えもない。
イマイチ調子が悪い。
腹のせいだけだろうか。
腹の具合の悪さも、酒がすすむにつれて、頭の隅っこに行ってしまった。
酒呑みはコレだから…。
「明日から千葉の大学、始まるんでしょ?帰ろう?」
「もうちょっと。」
帰りたくない。
今日はババァが戻って来ている。
ババァが待ち構えている。
帰りたくない。
心の中では整理はついている。
ラブリーと約束したように。
ただ、どうしても、言えないだけ。
3時過ぎに部屋の近くまでラブリーに送ってもらい、外階段を足音を忍ばせて上がり、敷きっぱなしの布団に倒れ込んだ。
ブーーーッブブッ
ウィニーの意識が遠退くと、おばちゃんへの不満が爆発したように、締まりのなくなった肛門から発酵したガスが噴出された。
目が覚めたのは9時過ぎ。
ラブリーは6時から何度も目覚ましコールをしてたと言う。
10時になっても起きなければ、また、起こしに来るつもりだったと言われた。
ラブリーらしい。
どうも調子が悪い。
急いで支度をするが、頭がボーッとしている。
いつもより、少し遅れて大学に向かった。
いつもは1時間の余裕をみるのだが、今日はギリギリだ。
新年初日だというのに、授業中もクタクタ。
夜の塾の授業もひどかった。
なんとかやり終えたが、脂汗が出る
寒気もする。
風邪を引いたのだろうか。
帰りがけのラブリーとの定期メールで体調不良を訴えたが、ラブリーは信用してないようだった。
今日は新年明けて初の金曜、どこかからお誘いを受けて飲みに行くとでも思っているようだ。
ラブリーと付き合う前のことを思えば、信用されなくて当たり前なのだが…。
「いつもの土曜は埼玉→千葉だけど、 明日は午前中に千葉があるだけ。午後には部屋に帰るけど、今日はもう、寝たい。」
「じゃ、6時に起こします。」
紋切り型の口調の時は、ラブリーは信じていない証拠。
はー。
自業自得と言えばそれまでだが、俺は本当に具合悪いんだよ。
確かめに、こっちの部屋まで来てほしいくらいだ…ババァさえいなければ。
部屋に帰って、冷えきった布団に潜り込んだ。
そして、朝まで服も着たまま眠り込んだ。
翌朝、ラブリーはちゃんと6時に目覚ましコールをくれたが、とても起きれる状態じゃあない。
7時半まで布団にくるまっていたが、寒気もするし、起き上がろうとするとめまいもある。
汗ばんだ身体にシャツの襟が不快に絡みつく。
熱があるようだ。
「授業は無理」と判断して職場に休みの連絡を入れた。
そのまま眠れればいいのだが、問題がひとつ。
ババァだ。
土曜はババァは休み。
部屋にはいたくない。
ラブリーにメールを入れた。
「職場に電話したら休めた。これからすぐ部屋に帰る。」
「大丈夫なの?そっちの部屋で寝てたほうがいいんじゃない?」
昨日逢わなかったことを怒っているのか、心配してくれているのか、よくわからない。
「這ってでも帰る。部屋に帰る。」
あぁ、這ってでも帰るさ、ババァが来る前に!
この日はラブリーは休みだが、午後から部屋に行く予定だったのでまだ支度ができていない。
ウィニーは10時前に着くだろうが、ラブリーは昼になってしまう。
ウィニーの体調を心配して、ラブリーは言いたくないことを言ってみた。
「今日はおばちゃんいるんでしょう?今日は動かないほうがいいんじゃない?看病頼んだら?私はガマンするから。そっちには私は行けないんだから、ガマンするよ。」
俺もその考えはチラッと頭をよぎった。
だが、即座に却下した。
ババアをつけあがらせることになる。
ババアのほうから離れて行くようにしむけなければ…。
今日は土曜だ、ババアがいる、急がなければ!
慌てて着替え、ブリーフケースをつかむと、ふらつく足で外に飛び出した。
バス停へ向かう。
今日は30分も歩けない。
タイミングよく来たバスに乗り、ラブリーに返信した。
「いるかどうか、知らんです。もう、出ちゃったもーん。」
わざと、軽い口調で。
ウィニーは本当におばちゃんが嫌なのだ。
なら、なぜ別れないのだろう。
その理由はウィニーしか知らない。
今のところは。
ラブリーがおうちに帰ると、ウィニーはベッドで汗だくになって唸っていた。
温めたタオルで汗を拭き、着替えをさせた。
脇の下と大腿部内側に保冷剤を貼り、家から持って来た冷えピタをオデコに貼った。
ビタミン入りの飲料水を飲ませ、雑炊を食べさせた。
結局、その日一日中、ウィニーは熱でうなされ、汗をかき、何度も着替え…。
そして部屋に戻る気力も体力もなく、翌日の夜までベッドから起き上がれなかった。
ラブリーはウィニーに寄り添って、翌日の夜までベッドの傍から離れなかった。
何度も着替えさせ、洗濯し、飲料水をのませ、雑炊を食べさせ…。
[新年早々… おわり]