2012/07/02(月)17:56
倉敷五巡 [6]
☆☆ これは、『創作』のカテゴリーです。「成田山詣」から始まる続きものです。ある男とある女、ある男に食らいついて離れないおばちゃん、その他の絡みあい。ドロドロしたお話しです。 ☆☆
「ラブリ、ラブリ、起きなされ。」
ウィニの囁き声で目が覚めた。
「もうすぐ岡山だよ。」
新横浜までは覚えている。
新横浜を出て、2人で喫煙室に行った。
席に戻って…眠ってしまった。
昨夜の睡眠不足のせいだろう。
おばちゃんのことを考えていたら、なかなか寝付かれなかった。
1時間半は眠ったはずだ。
いくらかスッキリした。
「何時なの?」
「もうすぐ2時。1時56分着だからね。お腹すいてない?」
「まっすぐ倉敷に行こうよ。一旦チェックインして、一息つきましょう?じゃないと、ウィニがバタバタしちゃうでしょう?」
「そうだね、夜には先生方と会食しなきゃならないから…じゃ、まっすぐ倉敷に行こう。会食の間、お留守番は大丈夫だね?」
「平気。」
「名古屋と比べて閑散とした街ね。いまいちパッとしない…」
「だろ?だから退屈するんじゃないかと思ったんだ。」
「あら、私が行きたかったのは倉敷の方よ。だからここはあくまで通過点。」
新幹線の改札を出て右手に行けば、すぐに山陽本線の改札がある。
自動発券機で切符を買い、中に入った。
階段を下りるともう電車は来ていた。
4人掛けのボックスシートに座った。
「ラブリ、切符をよこしなさい。」
「没収?なくさないよ!」
「いいえ、俺があずかってた方が安心だ。」
「もう!!」
岡山から倉敷までは約20分、4駅。
車窓から見た岡山の町は寒々しい。
今にも雨が降り出しそうだ。
そういえば、予報では雨だった。
まだ降り出してはいないが、いつ降ってきてもおかしくないような空模様だ。
2時半前には倉敷に着いた。
しかし、ここからどう行けばいいのだろう。
駅名が倉敷なのだから、あの美観地区も予約をとったホテルもさほど遠くはないはずだ。
「ウィニ、前に来てるでしょう?わかんないの?」
「楽しい記憶でもないし、とっくに忘れちゃったよ。案内所とか、ないかなぁ…」
「あそこにパンフレットがあるわ。」
改札横の壁にパンフレットが並んでる。
1枚もらって見てみると、駅のロータリーの右側のビルに観光協会がある。
とりあえず、そこでホテルへの行き方を聞いてみることにした。
「ああ、そちらのホテルですか。でしたらまず、ホテルへ行かれて荷物を置いてから美観地区に行った方がいいですよ。」
20を少しでたばかりらしい受付の女の子がかすかな岡山訛りのアクセントで教えてくれた。
「ええと…今いるのがここですぅ。ホテルはここです。歩いて行くならこの道ですねぇ。」
と、観光客用の地図に赤ペンで印をつける。
「歩いて行けるんですか?そんなに近いの?」
「20分か30分くらいですねぇ。遠いですかねぇ。」
2人揃って声をあげた。
「遠いです!」
「なら、バスがありますぅ。そこのロータリーから出てますよ。バスはこの辺りに停まりますから、こう行けばホテルです。」
「ありがとう、バスで行くわ。」
マッタリした岡山弁に付き合っていたら、バスが出て行ってしまう。
2人はバスロータリーへと急いだ。
「ここの乗り場でいいの?」
「そのはずだよ。」
「このバス、ずっといるけど、ドア開けてくれないよ?」
「田舎はノンビリしてるから…時間になったら入れてくれるよ。」
暖かいと聞いていた岡山だが、寒がりのラブリーにはこの悪天候がこたえる。
早く中に入りたくてしかたがない。
「ねぇ、ウィニ?このバス、SuicaとかPASMOとか、使えないんじゃない?」
「なんで?」
ラブリがバスの入口を指差した。
SuicaもPASMOも、表示がない。
その代わり、東京では聞いたこともないような、おそらくカードの種類だろう名称が並んでいる。
「現金で支払った方が無難だね。なんて読むんだろう、アイ・キューブ?田舎の割にはシャレたネーミングだね。」
ラブリが表示をジーット見てポツリと言った。
「違うわよ。イクべ。イクべよ!だって、田舎だもん。」
バスのドアが開いた。
やっと、冷たい風から逃れられる、ありがたい、ありがたい。
だが、それから20分以上バスはバス停に停まったままだった。
岡山の人はホントにノンビリしている。
[つづく]