MAMA's murmur

2012/08/14(火)09:21

倉敷五巡 [14]

男と女の世迷い言(創作)(91)

☆☆  これは、『創作』のカテゴリーです。「成田山詣」から始まる続きものです。ある男とある女、ある男に食らいついて離れないおばちゃん、その他の絡み合い。ドロドロしたお話しです。☆☆ 昨日までの肌寒さから一変して暑いほどの陽射しの中を、ホテルの敷地内の藍染や陶芸の工房やキャンドルの工房、オルゴール博物館を覗きながら美観地区へ。 「ラブリ、これ、ちょっと合わせてごらん。」 ピンクのショールを取り上げてウィニーが言った。 わりと照れ屋のウィニーにしては珍しい。 「ほら、今日の格好にはこの色のほうがよく合うよ。」 ラブリーがしていたのは薄い水色のショール。 服は黒系。 春のいろ 問わばピンクと いらへしや … 誰が言ったのよ、ウィニ… それはウィニーが自分のブログから削除した俳句。 クリスマスプレゼント代わりに、ラブリーがムカつく日記を削除してくれた。 削除した中の一つに、この俳句があった。 「そうね、この方が春っぽいね。」 ニッと笑って、ラブリーはショールをレジに持って行った。 おばちゃんがピンク好きなのは知っている。 ピンクが好きで、しかも似合わないことも。 ウィニーはいつも言っていた。 「なにかと言うと、ピンクなんだよ。似合えばいいよ、似合えば。これがまた似合わないときている。だいたい、ババアがピンク着て似合いますか?」 私なら大丈夫。 だって似合わないなら、「これ、どう?」って言うわけない。 それに見た目なら、私はあの人より15歳以上若い。 倉敷の思い出に春色のショールをお買い上げ。 新しいショールを羽織ったラブリーを見て、ウィニーの顔がほころぶ。 「似合うと思ったんだ。」 ホテルの敷地を出て、いよいよ明るい陽射しの中を美観地区へと踏み出した。 道端の案内図を見て、ウィニーが立ち止まった。 「神社があるよ。」 「阿智神社?」 「知ってるの?」 「お勉強したもの。」 旅先でウィニーが必ず立ち寄りたいのは神社。 名古屋の時は時間がないという理由で行けなかったが… 「やっぱり、神社の倅だね、ウィニ。」 阿智神社は、応神朝に朝鮮半島から渡ってきた阿知使主一族が造ったと伝えられている。 吉備国の繁栄の礎を築き、この鶴形山に神々の天降られる斎庭として日本最古の蓬莱様式の古代庭園を造ったのだ。 神功皇后がこの付近を航行中、嵐に遭い祈願したところ、三振の剣が天空より明るく輝いてこの山に天下ったので、「明剣宮」として宗像三女神をお祀りしたとも言われている。 「階段がいっぱいあるけど、行く?」 ラブリーは、この神社の特徴が階段だということも読んだ。 「神社に階段はつきものですよ。さ、行こう。」 「今のうちだけよ、元気なのは。」 ラブリーは俯いてつぶやいた。 まず最初に上るのは「米寿坂」。 「米寿だから、88段あるのよ。」 「まあ、このくらいは普通ですよ。」 次は「還暦坂」。 60段。 途中から、ウィニーの足取りが重くなってきた。 手摺りにつかまりながら、一段一段、上っている。 10段くらい遅れて、ラブリーが下から声をかける。 「ウィニ、大丈夫?」 「なぁんの、これしきぃ…」 応えながらも「ふーふー」言っているのがわかる。 「上りきったぞっっ!」 「ウィニ、まだあるのよ。」 「へ?」 「厄除け坂」だ。 今までの階段から比べると、「厄除け坂」は楽勝。 たったの33段しかない。 ところがここまで上ってきての33段だから、かなりキツイ。 「これで終わりなんだろうね?」 「あとはたいしたことないわ。」 「まだあるの?」 「あとは七五三。それで、母なる神の身の内、生命力の根源に達するとされているんですって。」 「ふぃー…」 昨日までとは打って変わっての晴天。 体中から汗が噴出し、ようやく頂上に着いた。 二人並んで、倉敷を一望する。 「たまにしか連れていけないけど、時々は東京から離れて違う景色を眺めることも大事だね。体内に新しい風が吹き込んでくるのがわかるよ。」 「この風?」 「そうじゃなくって、抽象的な意味の風。ラブリ、これからもよろしくね、こんな俺だけど。」 「ウィニ、ずっと一緒にいようね。いるからね。」 [つづく]

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