2009/09/27(日)06:45
『火天の城』 (2009) / 日本
監督 : 田中光敏
原作 : 山本兼一
出演 : 西田敏行 、 椎名桔平 、 大竹しのぶ 、 福田沙紀
試写会場 : よみうりホール
公式サイトはこちら。
<Story>
天正四年(1576年)、熱田の宮番匠・岡部又右衛門(西田敏行)は、織田信長(椎名桔平)から、安土に五重の城の建設を命ぜられた。
又右衛門は即座に引き受けたが、城造りを指揮する総棟梁は、名だたる番匠たちとの指図(図面)争いで決めると言う。
さらに広く世界に目を向けていた信長は、当時日本にはなかったキリシタンの大聖堂のように、天井まで吹き抜けの城を望んだ。
一世一代の大仕事を前に一致団結し盛り上がる岡部一門の番匠たち。
夢のような城造りを前に、苦悩し、寝食を惜しんで指図作りに没頭する又右衛門を支える妻・田鶴(大竹しのぶ)。
指図争いの席、競争相手の番匠たちとは考えを異にして、又右衛門は吹き抜けにしなかった。
意向に逆らった又右衛門に、激昂する信長。
凍りつく指図争いの場で、又右衛門の番匠としての譲れぬ信念と誇りが信長を揺り動かした。
「岡部又右衛門が、総棟梁じゃ!」やがて、大和六十六州の職人たちが安土に集結し、前代未聞の巨大な城造りが動きだした。
[ 2009年9月12日公開 ]
火天の城 - goo 映画
<感想>
そう言えば今年は、『築城せよ!』も試写で観たよなあ・・・ と思いながらこれも鑑賞。
城モノにご縁がある!?
もともと時代物の映画は好きですので、これも興味持って観に行きました。
この日はウルヴァリンのプレミアなんかもあったせいか、人は少なめのような感じ。
安土城、一応経緯をおさらいしておくといいかもしれません。
私もよく知らなかったんですが。。。 こういうのは子どもたちの方が詳しい(笑
彼ら、このシリーズ、購入しようとしていたくらいですので(→ 結局初回だけでやめてましたが)
まず画質の美しさに惹かれる。
鉋ですーっと引いた時の、木の削りかすでさえも静かに映している。
人物がアップになった時の、色の感じも落ち着いてて、この映画の静謐さを感じさせる。
その静謐さの裏で炸裂する、信長の思いつき。
山一つを城にせよ。 城は石造り、天守は五層七階、南蛮風にして、吹き抜けにしろと。
それには無論、信長の天下統一に対しての「こだわり」がある訳です。 だがそれを叶えるために、一体どのくらいの人手と労力、費用がかかるかは信長の構想にはない。
「わしに逆らうか」と言われたらもうやるしかないのもキツいです。
周囲にどんなにバカにされても、親方様に背いても、それでも自説を曲げなかった岡部又右衛門。
指図(さしず)争い(→ 今で言うならコンペです)で並みいる名門を押しのけた理由は、彼の信長への想いが城にあふれていたからではないだろうか。 信長の近くに仕えるものでないとわかり得ない想いである。
ただ単に親方様のご意向に沿うだけではなく、では何が一体親方様のためになるものなのか。
それを実現させるために、又右衛門はひたすら仕事に打ち込んでいく。
時には信長に意見して、また時には部下たちを束ねるために気を遣ったり、身を粉にしたり。 こんな姿は、今のビジネスマンにも通じるものがあるのではないだろうか。
(C)2009「火天の城」製作委員会
岡部又右衛門に関しては諸説あり、信長とともに、本能寺の変で父子討ち死にしたというものがあった。
これによると「父子」なんですが、映画では娘1人の設定になっていた。
(このあたりは史実から変更したのかはわかりませんが)
この、岡部家の女性たち。
彼女たちがいい。
「女は、家の日輪につき、笑みを絶やしてはいけないと父から教わりました」
いついかなるときにも微笑む妻の田鶴、そしてそんな母の苦労を見ながら育つ娘の凛(福田沙紀)。
家の中でいつも笑っている女性。
それがどんなに大変なことか、わからない男性は多い。
笑えない時にもそれを押し殺して。 裏側ではどんなに泣きたくても抑えて、女は笑う。
そこを汲み取れるかそうでないか。
仕事仕事。。。 今でも男はそう言いますが(笑)、それでも女にとってはやはり家庭を気にしてほしいし、労ってもらいたいわけです。
又右衛門の仕事は家の一大事、それを身にしみてよくわかっている田鶴だからこそ、その本音を曲げても夫に尽くしたい訳です。
女にとって家は戦場だとすれば、男にとって職場が戦場。。。 という考え方は、古いと言われるかもしれないけど、本質的な部分ではそれは変わらないでしょう。
そこでがんばってもらえるためには、何をなすべきか。
昔の女の人でないとできないことです。
「女は、笑みを絶やさんのよ。」
そう凛に言い含める田鶴。
まだ若い凛だから、そういった境地の本当の意味に至るまでには時間がかかる。
堪えるような想いの中、花嫁衣装に託す夢を見る母の背中を見て、きっと凛も物の道理がわかる女性になっていくのだろう。
大竹しのぶさんの、押したり引いたりする演技、とりわけ今回は彼女の「引き算」の部分がよかったように思う。
その他の見どころを。
信長役の椎名さん。 信長を演じた役者さんは数多いですが、今回は割とおとなし目の信長?のように思いました。 (とは言ってもそこは信長なので、わがままっぽくはしてますが)
直情型の信長ではなく、どちらかと言うと理性に傾き加減の信長でしょうか。
木曾義昌役の笹野さん。
あれ? 彼が出て来た時にすごく笑ってしまった(ごめん)のは、今、大河ドラマ「天地人」で秀吉をやってます。 そのイメージがどーんと浮かんでしまいました。
年齢的にも演技の確かさからも、彼にこういう役が来るのが仕方ないところではあるんですけどね。
あと、何気にお笑い芸人さんの使い方があり、某大物の役で「彼」が出て来た時は爆笑でした。
杣人(木曾義昌の大工?)役の緒方直人さん、スクリーンでは久々に観たかも。
あと、これは石工の夏八木勲さんにも共通するんですけど、彼らは「自然に対しての畏敬の念」をちゃんと持っている役でした。 又右衛門もそうですが。
「木」に対して、そして「石」に対して、それぞれの声を聞くということを彼らはとても大事にしていました。
それに逆らうことは自然の摂理に逆らうことだと。
そうして彼らは今まで自然と共存してきたんだと思います。 そこには、敵味方という概念は存在しない。 自然界で生きることの前に、人間は同じだからだ。
「邪石」の場面で起こったこと。 あれはまさに信長のこだわりで行動したことがつながっているわけなんですが、人間の力で自然をどうにでもできるという思い上がりのようなものも感じられます。
その一連のシーンや、水野美紀の役などは異論があるかもしれないけど、歴史的に伊賀甲賀と関係がある信長ですので、多少芝居がかってはいますし史実かどうかはわからないですが、ああいう場面があったとしてもおかしくはないと感じました。
全体的に盛りだくさんな印象はあるが、それでも核となる部分はちゃんと描いており、
幅広い層で楽しめる作品と言えるのではないだろうか。
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今日の評価 : ★★★ (5点中3点)