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テーマ:試写会で観た映画の感想(678)
カテゴリ:邦画(か行・さ行)
監督 : 富永まい 原作 : 小川糸 脚本 : 高井浩子 出演 : 柴咲コウ 、 余貴美子 、 ブラザートム 、 田中哲司 、 志田未来 、 満島ひかり 、 江波杏子 、 三浦友和 試写会場 : 東宝試写室 公式サイトはこちら。 本「食堂かたつむり」の読後感想はこちら。 <Story> 失恋のショックで声を失った倫子(柴咲コウ)は、子供の頃から馴染めなかった自由奔放な母・ルリコ(余貴美子)が暮らす田舎へ戻り、小さな食堂を始めることにする。 お客様は一日一組だけ。 決まったメニューはなく、お客様との事前のやりとりからイメージを膨らませて料理を作るのだった。 訪れるお客様の想いを大切にして作る倫子の料理は、食べた人の人生に小さな奇跡を起こしていく。 そして、いつしか“食堂かたつむり”で食事をすると願いが叶うという噂が広まっていった。 そんなある日、倫子はルリコからあること告白される。 倫子は衝撃を受けながらも、母のための料理を作ろうと決意する。 料理を通して倫子とルリコの距離が縮まろうとしていた……。 [ 2010年2月6日公開 ] <感想> Yahoo!ユーザーレビュアー試写会に行ってきました。 実はこのメール当選に気がついたのは前夜。 久しぶりにメール開けたら何と当選してる! あれま。。。 このアドレスは滅多に開けないのでそういう事が起こる。 富永まい監督のティーチ・インもあるので、これは行かないともったいない。 実は偶然だけどこの原作を先週購入して、読んでいる途中だった。 この原作は読みやすく、また作者の小川糸さんの見解も細かく描かれているのでわかりやすい。 予告でもお料理がおいしそうですし、女性監督なので、どんな描写か期待度めちゃ高いまま試写に参加。 冒頭、倫子の生い立ちのダイジェストがざっと説明される。 ここ、実は小説の肝となる部分なのだけど、紙芝居調というか、ファンタジックなイラストと監督作詞の曲に乗せて、ささーっと流れるように終わってしまった。 倫子が祖母から、どのようなことを伝えられたのか。 それを彼女はどのように感じたのかが後の展開に大きく関わってくるだけに、この短時間の描写で、果たして原作未読の観客にこの原作者の想いが伝わるのかどうか。 少々ここは疑問が残る。 原作ではかなり料理の内容が詳しく書かれているのだけど、その説明はほとんどない。 何の料理をだれに出すのかはもちろん分かるが、どのような想いを込めて作るのかという事はあまり触れられない。 正直、この描写がかなり原作を理解する上では重要な部分を占めていただけに、これを音声無しで映像だけで表現しているのは非常にもったいないと感じる。 これは倫子が「声を失った」設定であることと大いに関係があるからであり、このために柴咲コウさんはほとんどセリフはなくなっている。 ここでナレーションのように、彼女が感じていることを付け加えて説明してもいいのかもと思ったけど、それはほとんどない。 あるとしても、エルメスの本音が語られるくらい。 ティーチ・インの際に、富永監督は、 「ナレーションを入れるという設定は初め考えたけど、 倫子は声を失ったことに困っていないという設定なので、 ここで敢えて声を入れてしまうと、観客はこの人が話せないという風に思えなくなる ので、無言でのシーンにしている」 と語っていた。 ただ、これは無声映画ではないので、黙って食材を見つめて調理するだけでは、細かい心理は伝わりにくいように感じた。 例えば、亡くなった祖母を回想シーンでキャストとして入れて、その人の声を要所要所でくどくならない程度にナレーションとして入れてもよかったのではないかとも後で思った。 あの原作の深みを丸ごと取り去ってしまうのか、あるいは現実の倫子の人柄を重要視するのか、ここは難しい選択であったことは類推されるところである。 あと、この小説は食べ物の描写が非常に細かく書かれていたので楽しみにしていたのだけど、 これも映画では、一部のシーンを除いてはほとんど説明がなかった。 文庫本収録の短編「チョコムーン」には、食べ物は官能的であるという小川氏の見解がある。 「チョコムーン」自体が、「食堂かたつむり」の1組の客をモチーフにしているため、この見解があまり反映されていないのはとてももったいない気がする。 結婚式の料理や、エルメスに別れを告げる時なども、かなり細かく料理の説明があり、それに倫子のおかんへの渾身の想いが込められていただけに、ここは1つずつ説明を加えた方がよかったような気がした。 桃ちゃんがささっと紹介するだけでは何とももったいないくらい、このシーンの料理は見事なものであるはずだから。 そして何も伏線がないと、どうして倫子が生ハムを知己に配って歩くのかということの意味が全く伝わらない。 この意味は本作の根本的なものなので、そこがスルーされてしまっているのもどうなんだろう。。 どれもこれも、倫子が声が出ないということがネックになっているからであり、大変厳しい選択を強いられたことは想像がつく。 そこを補っているのが、登場人物のキャラクターである。 特によかったのはお妾さん(江波杏子)。 彼女が食べている過程でどんどん生気が蘇ってくるシーンは素晴らしかった。 「枯れた花を、シャキシャキさせるように」という監督の指示の細かさが生きている。 あとは熊さん(ブラザートム)。 ワイルドな風貌でザクロカレーを4~5杯お代わりしていたそうです。 彼もピッタリの役でした。 1つ分からなかったのが満島ひかりの使い方。 今回彼女は、『プライド』のような役どころなんですが、最後はいつの間にかいい人になっちゃってる。 これはファンタジー要素があるから、とことんつきつめないということなのだろうか。 監督曰く、この映画に登場した人たちは、いろいろなシーンでどのように食を考えていくのかを熟考することが多かったということで、その結果1つ1つの場面において、じっくりと演じている様子がうかがえた。 俳優さんがそれぞれの役に真剣に取り組んでいた跡をきちんとスクリーンにとらえることができる。 監督自身が「現実とファンタジーの中間地点を取った」と仰せで、現実に傾くのか、ファンタジーに傾くのか、少しでもどちらかに傾いたらきっと全く違うテイストになっていたであろうことは想像できる。 ファンタジー色を出していたのが、ロケ地の形状で、これは私が原作を読んで思い描いていた通りの場所だった。 監督はこのロケ地について、 「周りが囲まれ、周囲から隔絶され、外が見えない空間。 土着のものを感じられ、精神的な面で俳優さんたちに影響を与えた場所」 と語っている。 アムールがあって、同じ敷地に食堂かたつむりがあるというのが条件だが、そこそこ広くてうってつけの場所がやはりあるのだなと感じる。 そして食堂かたつむりのセットも可愛らしい。 ここは、 「倫子のキャラクターが感じられる空間を意識して作った」 ということでした。 食堂でそれぞれの食事を摂るシーンなども、ある時は陽光が差し込み、またある時は夜の帳とともに・・・と、自然の持ち味を生かせる素材で作られた空間だった。 映画製作の題材としては難しい作品だったと思うが、まだ若く、気さくなCM畑出身の監督で、これからが楽しみな雰囲気の方でした。
今日の評価 : ★★★☆ 3.5/5点 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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