2010/08/04(水)19:04
『トロッコ』 (2009) / 日本
監督 : 川口浩史
出演 : 尾野真千子 、 原田賢人 、 大前喬一 、 ホン・リウ 、 チャン・ハン 、 ワン・ファン 、 ブライアン・チャン 、 メイ・ファン
観賞劇場 : シネスイッチ銀座
公式サイトはこちら。
<Story>
父を亡くした年の夏、敦(あつし・原田賢人)と凱(とき・大前喬一)の兄弟は母(尾野真千子)に連れられて、初めて父の故郷である台湾の小さな村を訪れ、祖父母(ホン・リウ、メイ・ファン)に温かく迎えられる。
敦は亡き父が大切にしていた古い写真にトロッコと写る少年が遥か昔の幼い祖父の姿だと知る。
山林を走るトロッコに乗れば日本へ行けると信じていたと懐かしそうに語る祖父。
ある日、母に置き去りにされるのではないかと不安を募らせた敦は凱を連れてトロッコに乗り込む。
トロッコ - goo 映画
<感想>
『カラフル』試写のあと、渋谷に直行の予定でしたが、
シネスイッチの前を通ってちょっと気が変わりました(笑)
あと10分でこの映画が始まるところで、どうしようかなーと迷っていたのもあり、
思い切って予定変更してこちらを観ることにしました。
予告でも気になっていましたので。
原作は、小田原~熱海間の軽便鉄道敷設工事を描いた短編で、
この、トロッコを押す部分がそのまま映画の中でも使われている。 原作は映画の一部という構成。
そして舞台を現代の台湾に移し、日台の関係なども絡めるあらすじになっています。
原作読むと、トロッコを押す間の情景が浮かんでくるようで、
それはまさに映画の中の風景そのもののようです。
思うに、この景色を再現したくて、この設定にしたのではないかなという気もします。
昭和初期の熱海の山中が、現在でも台湾の山岳部にそのまま存在している。
その中をトロッコが風を切って走る。
なかなか涼しげで、しかも乗り物と来れば、男の子の冒険心を満たすには絶好の「遊び道具」ではないかな。
この風景を出すがために設定した話ですが、これが偶然なようで、
でも映画として観ていると、不思議と無理なく入ってくる。
日本と台湾の血を引く子どもたち、だけど心は当然母親にある訳です。
母は、不義理にしていた台湾の義父母、親類に対しての負い目と、台湾の大自然の中で伸び伸びとする子どもたちの様子を見て、このまま日本に帰国しない方がいいのではないかと迷ってしまう。
義父は義父で、日本占領下の教育を受けた人間として、日本の善き部分を胸に生きていることが反面彼の足かせにもなってしまっている。 しかしながら孫子たちの現状も理解したい。
様々な想いを胸に集まる人々を包み込んでいくのは、台湾の昔ながらの風景と、目に沁みるような緑の木々。
これが本当に涼しげで、この中を駆け抜けたら気持ちいいだろうなーと思わせます。
クライマックスのトロッコのシーンで、泣きながら走る子どもたちの中に去来した寂しさとか恋しさ、切なさ、そういうものを全て昇華していけるような緑に包まれて、観客も心が安らいでくる。
ラストシーンで、歩いていく義父の、一瞬暗澹となった表情の中に、この家族が抱える問題の複雑さを伺うことができる。
それでも、そのどうにも動かしようもない事情ですらも、台湾の自然の前では本当に些細に思えてくるのかもしれない。 清々しさと力強さに溢れた作品でした。
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今日の評価 : ★★★★ 4/5点