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カテゴリ:物語 コトバノカケラ
~47花火大会~
早い人の場所取りがもう始まっている。 「どっから、こんなに集まってきたんだ」 「休暇を、わざわざこの日当てる人もいるから、しかたないだろうな」 出だしてきた人たちは、会場へと向かって流れを作っている。 西野と先に来て、杏と河野とはここで待ち合わせしている。 「先に行っていて後から行く」 さっき、河野はそれだけいうと携帯をきった。 「終わりだよな。高校最後の夏が。あっという間だ。 ここで過ごした休日のあとは後期の講習かよ」 「まっ、そう現実は甘くない」 「お待たせ」 浴衣姿の杏とさつきが合流した。 俺達を先に行かせた意味がようやくわかった。 「潤のお婆様が用意してくれていて、着せていただいたの。 似合わない…かな」 少し、はにかみながら杏は言う。 「おお…杏ちゃんは相変わらず、なに着てもお似合い。 …さつきも変わるもんだな。孫にも衣装だ」 「ちょっと、なによ透。その言い方」 「二人とも似合っているよ。透は一言多いから」 「おい、誉めているんだ、勘違いするな。 二人らしい色使いを選んでくれているよ。潤のお婆ちゃん」 それぞれ誉められ、少し照れている。 潤も同じように感じた、そしてみとれてしまった。 アンズ色の浴衣を着て、髪を上げた杏から目が離せない。 さつきほど色合いがシックじゃないのに、浴衣すがたの杏に艶っぽさを感じた。 4人も人の流れにのって会場へと向かった。 「いいのか、さつき。長いこと彼氏をほっといて」 透はさつきに話しかける。 「彼はサークルの合宿で出かけているし。 ほっとかれているのは私よ」 そうはいっても、連絡はとっているらしく機嫌が悪くなることはない。 「地元にいたら騒いでいたかもね。自分だけ夏を一人ですごして… でもここにきて退屈しなかった。潤ありがとうね」 「いいや、親父たちからも言われたよ。がんばっってくれたって。 それに、いつもの顔ぶれとバイトして遊んで、最高の夏だった」 「お前はとくに、そばに杏ちゃんがいたし、 楽しくないわけないよな」 「まっ否定はしないけど、 俺の知らない杏を沢山見られた。 相変わらず、そばにいないと危なっかしいことには変わりないけど。 たまに大胆にどじってくれたし」 「杏は杏!この期間でそれを再確認。 私達はこれからもしっかりと 杏をフォロー」 「何だか、私ばかり頼りなくて一人にしておけない、と言われているみたい…」 「みたい…じゃなくてそうなの」 ここで過ごした時間の中で、 俺たちは、いつまでも甘えのきく子供のままではいられないと、思い知らされた。 子供だから学生だからと、許されることでも 社会にでればそうはいかない… 保護してくれる親の存在も、 近くにいるからこそ、ありがたいと認識出来ないのだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.08.23 09:56:44
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