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カテゴリ:物語 コトバノカケラ
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「久しぶりね、真面目に働いているところを見ると 最近は拾い物をしないようね。 変わりはない」 「舞華、あれはたまたまだよ」 言われたシオンは今も保管している、髪飾りの主を思い出していた。 名前しか知らない女のこのことを・・・ 思いに浸る、シオンに舞華は話しかけてきた。 「シオン? ・・たまには、顔を見せにいけば。お父さんとお母さんのところへ。 元気なのかしらって」 「舞華が伝えてくれているんだろう…僕の様子は。 やっぱり混乱させたくないから、どうしても、家には足が向かない」 「私もそれなりに忙しくてね、電話で話すくらいよ。 お父さんはあなたが家を出た後も…専門医をさがしているのよ。 どうにかならないかと… 苦しいのはあなただけじゃないわ、シオン」 「分かっているよ…」 「伝言を預かっている。あなたの都合がつけば 会社でもかまわないから顔をみたいって」 「…週明けなら僕はかまわない。父さんの時間があけば」 「わかった、伝えておく。 おそらく、あなたの為なら時間を割くわ、きっと」 両親には感謝している。 普通なら理解しがたい現状を、受け入れてくれているのだから。 家を出て就いた、今の仕事にも偏見を持っていない。 結局、心配をかけていることになるのか… 「朝陽はどうなの…」 「相変わらずさ…でも最近は、落ち着いている 僕がひとりよがりの幸せを願わなければ 朝陽は邪魔をしない… 僕もそれはわかっているつもりさ」 「あの後も、 あなたは体が強いほうではなかったから… 私達家族は不安だった。 あなたも…いなくなってしまいそうで」 「僕を生かすために朝陽は存在しているんだ。 大丈夫さ、 きっと僕は簡単には死なない」 「お父さんが会いたいのは 顔をみたいだけじゃないの、あなたが背負うものを軽くしたいのよ。 ・・・多分、カウンセリングを受けるように勧める気よ」 「朝陽が自ら表れようとしない限り、何をやっても変わらない。 精神的妄想、二重人格・・・そんな言葉で片付けられる・・・ 今まで何度も同じ結果だった。 逆だったら… 活発で明るかった朝陽が今の僕で 僕が心に潜む存在だったら 存在を誇示するようなことをせず ただそこにいたと思うよ」 「それも、悲しすぎない。 あなたは一生… 幸せになってはいけないの」 「かまわないよ… でも僕以外の人には幸せになってほしい。 くつろいで 心の安らぎが笑顔にでる。 それがみたいからここにいるんだ」 「自分の幸せを望むことができないなんて…」 舞華はそう言うと、目の前で 自分が求めてはいけない、小さな幸せを与える仕事に就く シオンとグラスをあわせた。 「あなたを理解してくれる人は 現れないかしら」 「知っているだろう。 今までも、 僕の豹変をみると怖くなってみんな逃げ出した 受け入れてもらおうとは考えていない」 「泉水…」 「仕事中だよ、舞華。 ・・・いいんだよ、これで。僕のことで、悲しまないで・・・」 「シオンさん…あちらにお願いします」 「分かった。 舞華…後に誰かつけようか?どうする」 「私はもう帰るわ」 「じゃあ、また」 席を立つシオンを見ながら舞華はおもった 悲しすぎる背中だと…でもここにいるシオンは 訪れる人に愛されている。 求められている。 クラブ クリスタルのシオン・・・あなたの心が壊れませんように 私はあなたを見守ることしかできない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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