テーマ:新型コロナウイルス(10869)
カテゴリ:水のメモ
1.外出自粛をどんなに続けてもコロナは終息しない
新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言が出て、本日(2020年5月3日)でおよそ一か月になる。 この間、東京都をはじめとした患者数は増減の波はあっても、おおむね減少し、緊急事態宣言とそれに伴う「接触8割減」などの活動が成功している証拠・・・とみなす声が多い。 これを、明るいニュースと見るかは意見が分かれるだろう。 接触が減れば、感染者が減るのは当たり前である。 すると、また、接触をするようになれば、感染者が増えるのも当然である。 ほとんどの人が誤解しているが、緊急事態宣言の目的は、新型コロナウイルスを終息させるため・・・ではない。 医療崩壊を防ぐために行われているものである。 嘘だと思うのであれば、新型コロナウイルス感染症専門家会議の提言を読むとよい。
接触を減らすことによって、個人レベルの感染は防ぐことができるが、それは集団からウイルスを排除することとは別の話である。 新型コロナウイルスは、従来のコロナウイルスと比べてもしぶとく、通常のウイルスが生存しにくい銅板の上でも3日程度生存する。 唾液や皮脂のような有機物と一緒に存在し、ある程度の湿度があり、紫外線がそれほど当たらなければ、1~2週間は生存するだろう。 例え、日本からコロナ患者が居なくなっても、海外から感染者が入れば、また、新たな感染がおこる。 緊急事態宣言は、当座の医療崩壊を防ぎ、感染スピードを抑え、時間を稼ぎながら、医療体制や隔離設備(ホテルなど)を整えるためのものである。
2.誰も出口戦略を語らない理由
一方で、緊急事態宣言により、経済活動は、止まった。 都市の街並みは静まり返り、背後には明日の生活の不安に押しつぶされそうになっている人々がいる。
筆者は直接的なウイルスの専門家ではないが、その専門柄、仕事でやり取りをする人や知人から、コロナについて質問を受けることが多い。 皆、不安で一杯なのが分かる。 この不安の本質は、先が見えないことにあり、その原因は、国や自治体のトップが出口戦略を示していないことにある。 首相や首長が出口戦略を示さない、いや、示せない理由はおそらく2つである。 専門家が専門家としての役割を果たさないこと そして メディアが公器としての役割を果たしていないことである。
特に前者・・・専門家の罪は大きい。 為政者はしょせん人気商売なのだから、世論や世論を煽るメディアの前では、慎重にならざるを得ない。 医師や元厚生労働省官僚といった例外を除いて、為政者が医学に専門知識はないのだから、猶更である。 為政者は、各分野の専門家の意見を聞いて、それを材料としてリーダーとして方向性を決めるものである。 だから、私は為政者をあまり厳しく責める気にはなれない。 しかし、専門家と呼ばれる人々については別である。 今回のコロナでは、専門家が機能していないため、為政者が判断をできない状況がある。 国の為政者がコロナ対策の拠り所とする「新型コロナウイルス感染症専門家会議」の分析・提言を読むとそれが分かる。 経済活動をはじめとする出口戦略については、一切といっていいほど言及していない。 なぜか? 専門家会議に選ばれるレベルの高名な専門家は、すでにその地位が確立しているので、ミスを非常に恐れるかだだろう。 そのため、提言書は「クラスターが起きた」「感染者数が減っている」「効率的な対策が必要」といった、多少の知識があれば数字を見れば分かりきったこと、もっともらしいが空虚な言葉にあふれている。 しかし、為政者が、というより、国民が専門家に期待することは何か? それは「これまでの知見により、こういう事態が予想される」という予見である。 現状分析ではない。 「専門家」として招集された、だれもが、未来を語ろうとしない。 未来を語ることは、リスクを取ることだからだ。
しかし、医学に限らず、「専門家」と呼ばれる人々が尊敬され、尊重され、必要とされるのは、過去をよく知っているからではない。 未来を語ることができることにこそ、専門家の本領があるはずだ。 専門家は、その知見と分析力を総動員し、未来を語らなければ、存在意義がない。 それが、例え無理解な世論の非難を浴びることになっても、だ。
3.出口戦略を考える上で重要な新型コロナウイルス感染症の特徴
(1) 2つの特徴 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2あるいは武漢ウイルス)については、情報が溢れかえり、誰もが一家言持ちの小専門家のようである。 テレビや週刊誌、ネットメディアで「専門家」が語る情報を、分析力を欠く人々が語り、さらにそれによって恐怖が語られ、拡散している様相に見える。 しかし、私の目から見ると、公衆衛生の観点から新型コロナウイルスが語られることは、驚くほど少ない。 テレビで目にする専門家の方々は、医療や感染症の専門家がほとんどで、公衆衛生の専門家と呼べる人を(私が見た範囲では)見かけない。 彼らは、治療方法やウイルスの専門家かもしれないが、公衆衛生の専門家ではないので、対策は語ることができても、展開は語ることができない。
語っていないのである。 公衆衛生の専門家の立場で言えば、こんな変なウイルスについては語りたくないからだろう。 情報が少ないこともあるが、このウイルスは、今のところ、インフルエンザウイルスはもとより、SARS、MARSといった既知のコロナウイルスの知見を、そのまま当てはめることができない。 新型コロナウイルスの性質は、両者の間にあるようだ。 つまり、従来のコロナより感染力が強いが、インフルエンザほどではない。 SARSより致死的ではないが、インフルエンザよりは致死率が高い。 SARSは発症すると重症化する確率が高く、インフルエンザ程の感染力もなかったので、封じ込めは比較的簡単だった。
武漢以降の日本の当初の対応は、明らかにSARS向けの対応で、これは一定の成果を上げた。 しかし、新型コロナウイルスは、SARSよりも感染力が強く、そのくせ、多くが自覚症状なしで自然治癒してしまうため、防疫の網にかからない例が多く、市中感染の拡大を許してしまった。 SARSコロナウイルスとインフルエンザウイルスの中間。これが新型コロナウイルスの特徴の第一。
(2) 致死率 次の特徴は、発症から死亡までの展開が異様に早いことである。 2020年3月に亡くなった志村けんさんは17日に倦怠感を訴えてから、29日に死亡するまで2週間足らずであった。 当代随一のコメディアンを失ったこととともに、このことが広く報道され、国民の恐怖がぐっと増大したように見える。 つまり、新型コロナウイルスが非常に殺傷力の強いウイルスと受け取られたのである。
しかし、これは2つの理由から明らかに間違っている。 まず、第一の理由。統計上、新型コロナウイルスの殺傷力は強いとは言えない。 2020年4月28日の報道によると、感染が拡大しているアメリカ・ニューヨーク州の大規模調査で、新型コロナウイルスの交代保有者は14.9%であったとされている。 ニューヨーク州の人口は1945万人なので、290万人が新型コロナウイルスに感染したことがあるということになる。 同28日時点で、新型コロナウイルスによるNY州の死者は1万7303人だから、死亡率はざっと0.5%ということになる。 NY州は統計に出ていない死亡者も多いので、5割増しに考えても0.9%といったところであろう。 少なくはない確率であるが、発症したが最後、ほぼ確実に多数が死ぬエボラ出血熱や狂犬病のような真に致死的な感染症でないのも事実である。
新型コロナウイルス感染症は致死率は、実は意外に低い。これが第二の特徴。
(3) 無症状肺炎 なぜ、新型コロナウイルスは発症から死亡までの期間が他の呼吸器系ウイルス感染症と比較して異様に短いのか? これは、武漢で奮闘した医師たちの報告にヒントがあり、実は早い段階から臨床医たちの間で推定はされていたようである。 武漢ではPCR検査で陽性になった発熱も倦怠感もない「無症状」の人々のCT検査では、その多くにすでに肺炎が見つかっていた。 つまり、自覚症状が出たあたりでは、かなり肺炎が進行しているため、見かけ上進行が早いように見えるのだ。 肺炎というと、息苦しくなるイメージがあるが、息苦しさの原因は血液中のCO2濃度にある。 極端に言えば、肺が酸素を十分に取り込んでいなくても、CO2を排出していれば息苦しくない。 新型コロナウイルスによる肺炎では、肺の伸縮性がある程度維持されるので、CO2を吐き出すことができ、肺炎がかなり進行するまで症状を自覚しにくいようである。
静かなる暗殺者、サイレントキラー。これが新型コロナウイルス第3の特徴。
(4) 爆発的に感染拡大後、急速に終息する 5月2日時点で、既に中国、韓国では新規感染者数が激減し、ゼロに近くなっている。 情報が統制されている中国であるが、国民の大半を罹患させれば経済が立ち行かなくなるので、感染者数を鵜呑みにすることはできないものの、経済活動を再開していることから、かなり減っているのは事実であろう。 韓国は、当初、PCRを乱発して病院を軽症者で埋め尽くし、重症者を死に至らしめるというミスを犯したが、現在もPCRを大規模に実施しており、社会活動が再開される中、感染が頭打ちになっていることが分かる。 インフルエンザほどではないとはいえ、既知のコロナウイルスよりは感染力の強い新型コロナウイルスで、なぜ第2波が来ないのか? 京都大学の山中教授(公衆衛生は専門ではない)が指摘するように、ワクチン、治療薬がない状況では、集団免疫が確立するまで、感染は止まらない。 公衆衛生の常識では、集団免疫は常識的には全体の5割以上が免疫を獲得することが必要である。 例えば、インフルエンザでは全体の8割以上の集団免疫が必要になる。 しかし、世界一のホットスポットであるNY州でも15%しか抗体を保有していない。 現時点で韓国は大規模な抗体検査に着手していないが、データを信用できない中国はともかく、死亡者が300人を割る韓国で、50%以上が抗体を保有している(感染歴がある)とは考えにくい。 これらから導かれる結論は「新型コロナウイルスは実は意外なほど弱い」ということである。 「集団免疫」というときの免疫とは、通常、「抗体」という意味で使われるが、免疫は抗体を中心とする細胞免疫と、マクロファージやNK細胞を中心とする液性免疫に分けられる。 新型コロナウイルスは、インフルエンザウイルスとは異なり、液性免疫でかなり制御できる「実はさほど強くない」ウイルスなのではないかと見られる。 ちなみに、ウイルスが免疫に強いことと、細胞に入った時に病原性が強いことは、まったく別の概念である。 免疫には叩かれやすいが、不健康な人に大量に侵入して、ひとたび病気を起こすと、それが致死的になる「日和見感染」を起こすウイルスや細菌は珍しくない。
仮に、新型コロナウイルスの制御に必要な集団免疫の水準を70%としよう。 集団の中で健康状態がよく液性免疫が万全で、かつ、マスク手洗いでウイルスを一度に大量に取り込まない人が全体の60%がいたとする。 しかし、70%にあと10%足りないので、感染は拡大する。 やがて、感染から回復した人々が抗体(細胞免疫)を獲得し始め、それが全体の10%になると、細胞免疫群10%+液性免疫群60%=70%の集団免疫状態となり、感染が終息に向かい始める。さらに抗体を持つ人が15%、20%と増えれば、ウイルスは行き場を無くす。 これが、韓国や中国で起きている現象と考えられる。
集団免疫は、非常事態宣言やロックダウンと違い、根本的対策・・・真にウイルスを撲滅する対策である。 インフルエンザウイルスのように変異が激しいウイルスの例外を除き、効果も持続する。 液性免疫で抑制が可能なウイルスであれば、マスク手洗いといった社会行動を持続すれば、抗体が得られるまでの制御もできる。 ・ロックダウンを採った欧州主要国とスウェーデン+日本、豪州の新型コロナウイルス感染症死亡者数の推移
4.新型コロナウイルス感染症の出口戦略
(1) 出口戦略1 とにかくリスク分類を急ぐ!!! 新型コロナウイルスの感染者は2020年5月2日時点で全世界300万人を超えており、十分なサンプル数が揃っている。 性別、年代、人種、既往歴はもとより、職業、居住地や勤務地の人口密度など、多角的な分析により、リスク分類を急ぐ。 このリスク分類こそが出口戦略の最大のカギなので、最初は暫定でもよい。
(2) 出口戦略2 低リスクグループの社会・経済活動を再開 分析の結果、低リスクグループ(例えば、若く健康な人、抗体を獲得している人)の社会活動、経済活動を再開する。 同時に、抗体検査を大規模に実施し、抗体保有率をモニターする。 (3) 出口戦略3 高リスクグループの保護と生活支援 高リスクグループ(例えば、高齢者、持病あり)が社会活動を再開するためには、低リスクグループが集団免疫を成立させ、社会からウイルスが居なくなるのを待たなければならない。 早急に集団免疫の成立を進める必要があるが、同時に、市中にウイルスが飛び交う状況になるので、高リスクグループの隔離と生活支援を盤石にする必要がある。 後述するホテル等の隔離設備の拡充と、現在、休業状態の飲食業によるケータリングが組み合わされると、経済政策としても良いのではないか。
(4) 出口戦略4 新たな自己診断基準 新型コロナウイルスは無症状で肺炎が進行する「サイレントキラー」の特徴を持つ。 国民全員に検査を受けさせることができない以上、国民に発熱以外の自己診断基準を示す必要がある。 例えば「安静時に呼吸が1分〇回」「いつもよりも呼吸が深い」「息を吐ききれない」といった肺機能に比重を置いた自己診断基準は設定できないか。 同時に、肺炎の徴候を数字で把握するため、医療機関以外(例えば、保健センターや市町村庁舎)でパルスオキシメーター(血液中の酸素を図る装置。指を入れるだけ。)で酸素分圧を測定できる仕組みが作れないか。
(5) 出口戦略5 隔離施設の確保 低リスクグループの社会活動を再開するにあたって、最も懸念されるのは医療崩壊である。 新型コロナウイルス感染症は指定感染症なので、症状の有無に関わらず隔離が必要になる。これには、現在も推進しているホテル・旅館の隔離設備化を推進する。 ホテル業界の経済規模は3兆円程度なので、500億円もあれば費用的には可能だろう。 現在、観光業は全国的にストップしており、非常に苦境に立っている。ひとたびホテルが倒れると、レジャー、飲食、小売りなど周辺産業への影響も甚大で、ホテル活用は経済政策としての意義も大きい。 コロナウイルスは有機物存在下では2週間程度生きるのではないかと述べたが、逆に言うと、隔離施設への供用を終えて、2週間閉鎖すればそのホテルにはウイルスはいないことになる。 このあたり、国民への丁寧な説明も必要。
(6) 出口戦略6 法改正 新型コロナウイルスはSARSコロナウイルスと季節性インフルエンザウイルスの中間という性質があり、「微妙に強い感染力と微妙に強い病原性」ゆえにやっかいである。 現行の感染症法や新型インフル特措法の構造で扱うと、どうしてもウイルス制御と社会ダメージのバランスが取れない印象がある。法改正が必要ではないか。
(7) 出口戦略7 専門家は語り、為政者は決める これまでも述べたように、新型コロナウイルスは殺傷力や感染力が強いことが問題なのではない。 よく誤解があるが、厳密には「感染」とは、ウイルスが体内に入って「増える」ことを言う。すぐにマクロファージに食べられて、排除された状態は医学的には感染とは言わない。 その意味で、新型コロナウイルスの"感染"力はさほど強くなく、ほとんどの人が感染せずに(ウイルスが増えずに)抗体を獲得していると見られる。 こうした特徴を正しく国民に伝えるためには、私のような門外漢ではなく、真の「専門家」が感染力について語り、免疫について語り、致死率について語る必要がある。 語る、とは、データを読み上げることではない。データを分析し、知見を組み合わせ、合理的に考え、意見として語ることである。 そして、伝えるのは為政者・・・首相や首長の仕事である。 専門家の意見は、どこまで行っても意見であり、政策ではない。 政策は為政者のものであり、決断が要る。為政者の仕事は決めることである。
(8)出口戦略9 メディアを飽きさせる 言うまでもなく、メディアは公器である。 しかし、現在のメディアのやることといえばコロナウイルスの恐怖を煽り、その中でストーリーを作ることである。
しかし、メディアの立場にも立てば、これは彼らなりの合理性がある。 インフルエンザで日本で5千人が死亡した時のメディアの取り上げ方は、現在のようであったか。違う。死者の数は相対的な問題であり、メディアにとっては他のネタと重いか、軽いかでしかない。 経済活動、社会活動が止まり、お金の動きがなく、エンターテイメントがなく、事件がなく、人間模様が見えにくい状況で、彼らとしてコロナウイルス以外にネタがあるだろうか? そのような状況で、どうすれば2時間のワイドショーを持たせられるだろうか? 為政者の決断を鈍らせるのは、世論というよりは、世論を作っているメディアである。 メディアがコロナ怖いとばかり言っていれば、世論はコロナ怖いと言い、専門家は黙り、為政者は果敢な決断ができなくなる。 そのためにも経済活動、社会活動を再開させ、メディアにコロナ以外のネタを提供する必要がある。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2020/05/03 07:20:04 PM
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