題詠blog2007題詠マラソンと同じように、五十嵐きよみさんの主催で、出題された100の題にそって、大勢の人達が歌を詠みました。 実質4年目なので、題が年々むずかしくなるような気がしますが、やってみるとなかなか楽しいものです。 以下は、私の参加作品。(雑なところ、苦し紛れなところもあったりして) 001:風 良寛のひらがなばかりの屏風の字 心をゆつくりじつくりほぐす 002:指 蕗の薹採りて黒土を落とすとき指の先から春に入りゆく 003:手紙 故郷の夜に書きたる絵手紙を赤き筒型ポストに落とす 004:キッチン 退職後料理が趣味になりし夫今日は三度もキッチンに立つ 005:並 シャラシャラと細き箒葉なびかせて棕櫚の並木に海風が吹く 006:自転車 漕ぎ出せばそのまますつと自転車に乗れたり なんと二十年ぶり 007: 揺れ その父の心の揺れを感じつつバージンロードを歩む花嫁 008:親 哀しくて少しうるさく暖かき親になりたり 我の息子も 009:椅子 揺り椅子にかけて返事をしてゐしが母はいつしか居眠りてをり 010:桜 桜さくら淡紅色の三分咲きぽつてり昨夜(よべ)の雨を含みて 011:からっぽ からつぽの心にぽとりとおちてきてほのぼの温きあなたのことば 012:噛 どこをどう間違へたのかあなたとの会話なかなか噛みあひて来ず 013:クリーム 沖縄の海を見下ろし君と食むブルーシールのアイスクリーム 014:刻 ほうれん草細かく刻み取り分けるもうすぐ二歳の幼な児のため 015:秘密 母われに秘密いくつか持ち始め娘が少し美しくなる 016:せせらぎ 木洩れ日のチロチロ遊ぶせせらぎに白く浮かべり桜はなびら 017:医 「 早期発見早期治療はこりごり」と術後の母が医師に言ひたり 018:スカート コーラスに夢中の頃の想ひ出はクローゼットのロングスカート 019:雨 雨はれて東の空にほのぼのと春の虹立つ今日の終りを 020:信号 信号を待つ間三分 ウルトラマンが怪獣退治を済ませる長さ 021:美 人知れず密林に入り死にゆくは象に備はる死への美学か 022:レントゲン 放射線の影響恐れ子を産まぬレントゲン技師マリーの場合 023:結 子ら三人(みたり)それぞれ伴侶にめぐり合ひ 核分裂のやうに結婚 024:牛乳 牛乳を温める間の20秒 をさなと数を唱へつつ待つ 025:とんぼ お祭りの屋台に買ひし竹とんぼ あれは誰とのデートだつたか 026:垂 頭を垂れて羞らふごとく咲き初めぬ 淡き黄色の小花水仙 027:嘘 もう誰も覚えていない 初めての嘘を言ひたる日の哀しみは 028:おたく 「おたくまでお送りします」と言ひながらアイツは送り狼だつた 029:草 みどり児のひと息ごとに白く咲く 淡く小さき霞草たち 030:政治 自らの嘘を自ら信じ込む 政治家になる必須条件 031:寂 暖かくほのぼのとして寂しきは薄紫の母の想ひ出 032:上海 上海帰りのリルを見かけたキャバレーにアルトサックス聞きし夏の夜 (昔、「上海帰りのリル」という歌がはやった) 033:鍵 見直ししビデオに見たり一度目は気がつかざりし事件の鍵を 034:シャンプー 乾燥し傷んだ髪へのシャンプーを勧められたり 少し複雑 035:株 切り株に蘖二本見つけたり 光に向かひ背伸びするがの 036:組 もも組の名札をつけたアッチャンは二列目にゐて母に手を振る 037:花びら 透明な白を重ねて咲き満ちる大島桜の八重の花びら 038:灯 寂しさの吹き溜まりなり日暮れても灯の点らない窓のいくつか 039:乙女 虹の橋渡りてゆけよ乙女たち 雲の通ひ路閉ぢたる時は 040:道 曼珠沙華咲く野の道を辿りゆく亡き父母(ちちはは)も姉もゐさうで 041:こだま 君宛のEメールにはたちまちにこだまのやうな返信が来る 042:豆 寄せ豆腐匙に掬へばプルルンと震へて夜の灯に光りたり 043:曲線 ひらがなの「ひ」の字の描く曲線に涙の壷が隠されてをり 044:飛 翼あれど飛べぬ皇帝ペンギンが行列を組み氷原をゆく 045:コピー ママさんの後を追ひかけチョコチョコと縮小コピーのやうな幼な児 046:凍 少しずつ心が解凍さるるごとあなたに笑顔が戻り始める 047:辞書 少しずつ言葉の定義が食ひ違ふあなたの辞書と私の辞書と 048:アイドル 「ばあちゃん!」と我に抱きつく二歳児は日々重くなる我のアイドル 049:戦争 戦争の終りたる日の蝉の声 庭に干されし梅干の赤 050:萌 白樺の若葉が萌える五月末 一番乗りの燕が戻る 051:しずく 雨上がり通り抜け行く風に揺れしづくをぽつり落とす白樺 052:舞 空砲を撃たれてさあーっと舞ひあがる沼に休める帰雁の群れが 053:ブログ 読み返す我のブログの今日の欄 事実八割と脚色二割 054:虫 なかなかに虫の居所さだまらず 今日もあなたは少し不機嫌 055:頬 一杯のビールで頬を染めてゐた アイツのそんな頃を知つてる 056:とおせんぼ 手をひろげ車の前に「とおせんぼ」 わたしを乗せて行ってください 057:鏡 三面鏡のせめて一面 わたくしを少し細めに見せてくれぬか 058:抵抗 眠気には抵抗できず床に就くまだまだ今日の仕事残して 059:くちびる くちびるの寒き思ひに噤みたり少し脱線したかもしれぬ 060:韓 韓国のドラマの底に時にある「恨」が心の抵抗となる 061:注射 チクリともせずに注射を終りたり今日のナースは手際最高 062:竹 短冊の祈りを下げて低く立つプラスチックの七夕の竹 063:オペラ 「オペラ座の怪人」の持つ屈折は仮面の陰に日ごと育ち来 065:鳴 だんだんに大きな渦に成長し鳴門渦潮今が頂点 066:ふたり 「ふたり」より「ひとりとひとり」のごとくをり われら結婚四十五年目 067:事務 「事務的に話しませう」と言ふ君の電話の声が少し震へる 068:報 決算報告書きつつどんどん鬱となる 近年下降をたどる業績 069:カフェ 原宿の欅並木のカフェテラス青葉の色の風に吹かれて 070:章 結末を知るのを惜しみ本を置く 最終章は明日読むべし 071:老人 「老人は朗人なの」と裕子さん七十八歳ニコニコ暮らす 072:箱 抽斗に時々飴の入りゐき祖母の使ひし裁縫箱には 073:トランプ ディーラーにシュルシュルシュルとシャッフルされトランプカードがサッと整列 074:水晶 水晶の玉に映れるわが未来このごろ何故か不透明なり 075:打 辛口のあなたの返事が戻りくる 「打てば響く」の決心の良さ 076:あくび あくびしてそつと窺がふ右左 あ、あの人もあくびしてゐる 077:針 嘘つけば呑まねばならぬ針千本棚上げにして「嘘も方便」 078:予想 予定にも予想にもなき辞令出てシンガポールに転勤となる 079:芽 二歳児に反抗心の芽生えたり 足をふんばり「ノーッ!」と叫ぶ 080:響 サイレンを響かせさつと通り過ぐ消防自動車 続きて二台 081:硝子 硝子戸を湯気に曇らせ饅頭屋ほつかり白きぬくもりを売る 082:整 端整な友の人柄そのままに細きペン字の手紙が届く 083:拝 拝観料行く先々に納めつつ古都の観光ひと日を終へぬ 084:世紀 歯に噛めばジューッと果汁が滲み出す二十世紀の爽やかな梨 085:富 「富」といふ名前を嫌ひ自らを「富子」といつも名乗りゐき 母は 086:メイド PCもデジカメもメイド・イン・チャイナ 気づかずに買ふ中国パワー 087:朗読 朗読の上手な友が指名され「山椒魚」をしみじみ読みき (昔々の高校の国語の時間の出来事) 088:銀 冷えしるきグランドキャニオンの夜の空 大きく渡る銀河を見たり 089:無理 「無理の利く齢は過ぎた」と言ふ夫もゴルフについては無理を厭はず 090:匂 朝風に秋の匂ひの漂ひて白きコスモス露を零せり 091:砂糖 ザザザッと砂糖を入れて練り上げるそれでも「甘さ控へ目」の餡 092:滑 滑らかに「ごめんなさい」が出る君よ そんなに軽くてよいのだろうか 093:落 マロニエの樹の下に積む落ち葉分け栗によく似たその実を探す 094:流行 幼な児の世界にもある流行に乗りて買ひたり「トーマス」のシャツ 095:誤 「そんなもの誤差のうちさ」とおほらかに笑ひ飛ばして忘れてしまへ 096:器 受話器より聞こえる孫の笑ひ声 今日の私は性善論者 097:告白 告白をするほど深き罪ならず 昨日の日記を今日書いたのは 098:テレビ わが日々のバックグラウンド・ミュージック つけつぱなしの小型テレビは 099:刺 名詞にはブルーポピーの絵を入れる 花を愛する女のやうに 100:題 詠題に誘ひ出されし歌100首 少し照れつつ今勢揃ひ |