題詠blog 2015の100首
2015年の題詠100首001:呼「おかあさ~ん」と呼んで泣きゐしをさな児が今父としてがつしりと立つ002:急 「あわてるな、ふつうが一番速いよ」と自分に言へり 心急きつつ003:要 婦人服売り場に友と待ち合はす 不要なものまで買はないやうに004:栄 「栄養」は殆ど死語になりはてて「カロリー0」が取つて変はれり005:中心 子供らを中心にして暮らしゐし日々を想へり 幸せなりき006:婦 烈婦伝に出てきさうなり 最期まで愚痴を言はずに逝きたる母は007:度 とろとろとしては何度も目ざめたり 余震の続く冬のひと夜を008:ジャム慰めの言葉を見つけられぬままジャム入り紅茶友に進める009:異 「異常なし」と言はれることを想定し検診に来し我と思へり010:玉 九州の故宮展にて先ず探す玉でできたる小さき白菜011:怪 怪獣はウルトラマンに投げられて哀しき声を出すにあらずや012:おろか「おろか」では片付けられぬ親の愛 オレオレ詐欺にかかる心は013:刊 週刊誌が今週もまた書きたてる ロイヤルベビーの名前の候補014:込 込み入つた話があると呼びだしてあなたは煙草ばかりすってる015:衛 バッキンガムの衛兵交代見てゐたり十七年前、丁度今頃016:荒 エリオットの「荒地」を読みてライラックの花まで暗く見えし若き日017:画面五歳児の見せてくれたる祖母の絵は髪が画面をはみだしてをり018:救 救急車のサイレンが家の前をすぎ近くでふつと止まりし気配019:靴「歩き方が悪い」と靴が怒りをり 「踵の外側ばかり減らして!」020:亜 青島の亜熱帯樹の群生が驟雨に打たれ荒き音たつ022:砕春浅き室戸岬の波高く岩を砕かんばかりに荒れる023:柱 古民家の大黒柱を磨き上ぐ おからを入れた木綿袋で024:真 事実よりまことしやかな嘘ありて「真実」の名で拡がりてゆく025:さらさら さらさらの沙が半分ほど入る沖縄土産のガラスの小瓶026:湿 湿原に渡り来し鶴空をむき喉を伸ばして大声になく027:ダウン被災地に救援に行き若者はダウン寸前までを頑張る028:改 改めて虚しさがまたこみあげる 娘の挙式終へたる夕べ029:尺 朱鷺色の三尺をしめ上機嫌 初めて浴衣をきたる三歳030:物減らさむと思へど物の増殖し部屋はまたまた乱れてしまふ031:認ぬか漬けと煮物とご飯が好きだなんて 認めなさいよ 年寄りだって032:昏 梟の声が何度も聞えくる黄昏時のブナの林に033:逸 長電話まだまだ続く 話題から逸れてそこからまた枝が出る034:前前触れは猫のいらだち 311の地震の午後の035:液海面下のデルタ地帯に住む我に他人(ひと)事ならず液状化とは036:バスバスタブにたつぷり張った湯の中に今日の疲れが溶け出してゆく036:バス二時間に一本だけのバスを待つ 青雲橋の脇のベンチで037:療病気には散歩が一番良いとする夫推奨の積極療法038:読「あとがき」をまずまっさきに読みはじむ 友の歌集が届いた午後に039:せっかく「せつかくのお誘ひですが」と辞退して確定申告ともかく済ます040:清新緑の清々しさの中に咲く花水木の白殊にあざやか041:扇 白扇に「涼」の一字を墨書する 涼しい風が送れるやうに042:特 特急の通過待ちする各停のドアより春の風入り来る043:旧旧姓で呼ばれて今も反応す 故郷の街のクラス会では044:らくだ月の砂漠の夢を見るごと目をつぶる動物園のひとこぶらくだ045:売売り声は機械に任せ焼き芋屋車を停めて道傍に立つ046:貨 連結を五十輌まで数へたり大陸横断貨物列車の047:四国東京に戻りて食べる 四国では食べそびれたる讃岐うどんを048:負悔しいが顔のほころぶ今日の負け 孫とゴルフのラウンドをして049:尼尼寺の写経の会に参加する白きあやめに雨の降る午後050:答相談のかたちで我に話す友 答はすでに出したる後に051:緯経緯より結論を先ず言はしめて気みぢかなりき我の上司は052:サイト三カ月経ちてもいまだ届かない 買物サイトで買ひし枕は053:腐たつぷりと大根おろしを添へてだす得意料理の揚げ出し豆腐054:踵繕はず捨ててしまへり片方の踵に穴のあいた靴下055:夫 喉を病み声の出せない夫とゐてしらずしらずに我も囁く056:リボンポニーテイルに黄色いリボンをつけてゐき 「戦争と平和」のヘップバーンは057:析いかように分析すれど結論は「美女の涙はスーパーパワー」058:士職業の差別か区別か 「調理師」と「栄養士」では「し」の字がちがふ059:税複雑といふにあらねど年毎に億劫になる税の申告060:孔雀尾をひらく孔雀のやうに華々しカラオケ大会舞台衣装は061:宗宗教は文化を連れて渡来せり キリスト教も仏教もまた062:万年亡き母はベッドを置くのを嫌がりぬ 万年床は趣味に合はぬと063:丁「丁度よい」と十歳が言ふ9号の私のブラウス試着してみて064:裕負けてなほ敵を讃える余裕あり 試合慣れした高校生は065:スロー躓きて倒れし時のわが動きスローモーションで脳裡に残る066:缶 「缶切りがないぞ」と怒る夫には〈探し係〉のロボットが要る067:府東京が府でありしころ生れ来て夫も私も七十を超ゆ068:煌 夜更けて煌きの増す北斗星 まちの明かりが消えてゆく頃069:銅銅メダルの選手の方が銀よりも幸せさうな満面の笑み070:本もう本を置く場所のないわが家に夫も我もまた買ひて来る071:粉美智子様を「粉屋の娘」と報じゐき ご婚約時のニューヨークタイムズ072:諸「諸星がウルトラマンだ」と見破れり当時五歳の少年タカシ073:会場会場は母校の傍の「美登利すし」 毎年同じ月の同じ日074:唾固唾飲み見つめる子らに笑ひかけマジシャン見事に鳩を出したり075:短気短な夫がそろそろ焦りだす 「ちょっとまってね、今、靴を履く」076:舎高校の校舎の裏に咲きてをり和菓子のやうな乙女椿が077:等平等院鳳凰堂の飛天たちmy cloud(マイ・クラウド)を一つづづ持つ078:ソースニュース・ソース解らぬままに届きたり 友が離婚せしとのうわさ079:筆穂を揃へ小さき土筆が群生す風の涼しい夏のゲレンデ080:標標本木にひらく桜を数へつつ開花宣言待ちかねてをり (靖国神社にて)081:付 摘みて来し蕨を茹でて付け合はす 豆腐ステーキのヘルシーチョイス082:佳勝代さんが表記を「佳津予」に改める 占い人の忠告により083:憎憎むほど人を愛せしことなくてむしろ平坦 われの半生084:錦錦織のサーブの写真の表情の険しさが良し 眼光りて085:化石指さして教へてもらひ岩肌の木の葉の化石にやつと気付けり086:珠 ひさびさにケースより出して拭ひたり母の遺品の真珠の指輪087:当 当然のごとくに黙つて席につく いつもの店のランチの時間088:炭一日中やかんに湯気を立ててゐき 練炭火鉢を茶の間に置きて089:マーク坂道でグググググッと追い抜かる初心者マークをつけた車に090:山 チベットの寒き山より移植され植物園に空色の芥子091:略 葬式は省略せよと夫が言ふ 一応「はい」と受け流したり092:徴 特徴はキャラメル一つの隠し味母の秘伝のビーフシチューは093:わざわざ「近くまで来たものだから」と言い訳すわざわざ来たのが照れくさくつて094:腹 班(はだら)雪まだ消え残る山腹にグレーシャーリリーうつむきて咲く095:申今日こそは明日こそはと思いつつ確定申告ぎりぎりになる096:賢竹林の七賢人のごとく酌み老夫とその友政治を嘆く097:騙階段はゆつくり降りる右膝の関節痛を騙しなだめて098:独一人でも孤独ではない夏の夜 「笑点」を見て笑ひこけたり099:聴 暮れ遅き夏の公園「ジュピター」の野外演奏を歌ひつつ聴く100:願願ひごとはたくさんあれど先づ一つ「今日がよき日でありますやうに」