64 ニューヨーク
船の裕子の部屋。朝裕子は船長のアナウンスをベッドの中で聞いている。「これからハドソン川をさかのぼってマンハッタン島に向かいます。右舷側の風景はニューヨークに向かって入港の感激をお味わいを下さい。女神さまから半マイル先がエリス島移民局です。七時半ごろ自由の女神を通過いたします」 慌てて飛び起きる裕子。 シャワールームのカーテンの向こうで歌いながらシャワーしている音。 やがてお化粧を終えた裕子は彼女の中ではかなり上等な服を着る。そしてテーブルに置いてあった裕の位牌を手にしてハンカチで包む。窓から外を見る。 その時丁度歓迎のヘリコプターが飛び交っていた。 自由の女神が見える。位牌も外に向ける裕子。「パパーー。劇的ーー。映画がなんだ写真がなんだ」 いつまでも自由の女神を眺めている裕子と裕。 その後シャトルバスに向かっていた裕子と聡美。例によってはしゃぐ裕子。「大都会のニューヨーク。半日観光して午後自由。夕方はブロードウエイミュージカルそしてヒルトンでお食事!! 何から何まで行き届いたサービス」「ニューヨーク州知事の歓迎メッセージもあるのよ」「あっ! 聡美さん! 今日は二人だけじゃないの」「えっ」 聡美は振り向くが後ろには誰もいない。「イケメンの二人がデートしてくれるとか」 ときょろきょろする。「ここ。ここ」 と裕子はバッグの中を見せる。位牌を持って来た裕子。「何!?」「位牌持ってきちゃった」唖然とする聡美。「持ってきちゃって いいの?」「二人で歩きたかったもの」「夫婦っていいものね」「あら。聡美さんだっていいご夫婦じゃないの?」「ああ。うちの主人は忙しくて」「でもお元気でうらやましい」「そう?」 小走りにバスに乗り込む裕子。後を追いかける聡美。 シャトルバスに並んでいる裕子と聡美。こちらも例によって説明係の聡美。「ニューヨークは世界の首都よ。自由の女神 エリス島 ロックフェラー セントラルパーク タイムズスクエア ウォールストリート シテイホール メトロポリタン美術館 アメリカ自然史博物館 近代美術館 グッケンハイム美術館 イントレピットシーエアスペース博物館 ブロードウェイミュージカル あー期待した通りに楽しい街ね」「さすが聡美さん 何も見なくてもすらすら出てくるわー」「それより今日のブロードウェイミュージカルの題」 裕子にこっそり教える聡美。「えっ!? 私たちのこと?」とくすくす笑う裕子。 通りにあるブロードウェイの大きな看板。 「美女と野獣」。裕子と聡美はこのミュージカルを見ていたが裕子は小声で「以外とこじんまりしてるのね。勝手に大劇場で豪華版ばかりだと思ってた」「でも演技力は素晴らしいわ。衣装も洗練されてる」「色使いも粋ね」 うなづく聡美。 そして裕子は部屋に帰ると疲れでバタッと眠り込んでいた。 夢で映画の「猿の惑星」を見ている裕子。映画のラストシーン。自由の女神が倒れている。がばっと起きる裕子。「まさかね」 とまた寝ようとするが今度はベッドから飛び起きる。「ごめんごめん」 イスの上に乗せたままのバッグの中を見る。「パパ。ごめんね」 裕の位牌を取り出す。テーブルの上に置こうとするが「今日は一緒」 といってベッドに寝かせる裕子。 ベッドの中で抱き合う二人を想像するが。裕子の目から一筋の涙。