△5 割烹みどり
「何言ってるのよ」 その日は店を閉じたあとの割烹みどり。倉内みどりの店だ。みどりはつくねを焼いていた。コップ酒を飲んでいる昌也と石岡。声を上げた石岡。「そんでよぉ コイツホントにアホなのよ。キッスで払いすぎ」 と昌也をこづく。不機嫌な様子のみどり。石岡の腕を引っ張って「いいのか? ホントに一銭もないよ」 大声で「ほら コイツが気にしてるだろ。もうちょっと愛想よくしろ」「元亭主に愛想よくしたってなーんにもいいことないのよ」「そういうことか」「面白くねぇ。俺の女を見せたかったのよ」「元のお・ん・な」「あんたもバカだ」 石岡を見て笑う。「バカはお前だけ」「ドングリの背比べ 目くそ鼻くそ」 舌打ちの石岡と大笑いの昌也。そしてあっと言う間に時間が過ぎる。 カウンターに突っ伏して眠っている石岡。 昌也の隣り合わせで飲んでいるみどりが呆れ顔。「冗談言わないで」「冗談じゃないよ」「そりゃあね。うちは割烹なんて看板上げてるけど 板前運が悪いの。男運も最悪。技術のない人間を雇う余裕はないのよ」「技術はある」「だって 目つきの悪い人に狙われたって。どこの馬の骨かわからないじゃないの。女をバカにしないで」「板前の修業はした」「へぇ。どこ?」 と小馬鹿にしている。「赤坂の松倉」「ずいぶん ほらを吹いたわね」「オヤジの店だ」「そんな人がどうして?」「政治家連中を相手にちまちました料理を出すのが性に合わなかった。うちを飛び出してスナックを出した」「それで借金」「一週間 いや三日でもいい。俺の腕を見てくれ」「板前に戻りたくなったの?」「俺は何に対してもやる気がなかった。でも一人の女のおかげで生き残れそうだ」「さっきの子? どんな子?」「子どもだ」「どこがいいの」「わからん。でもまた会いたい。そのときは恥ずかしくない男でいたい」 笑って、「何それ? バカバカしい」「でも幸せそうには見えなかった。もう一度会いたいけど会いたくないような」 昌也とみどりは黙って酒を飲み交わす。△5 割烹みどりこの写真は錦糸町居酒屋高はしすごくいいお店です小説とは関係ないのですが