2023/06/24(土)06:00
6月の稔り(2)~「おかあさんの膝」新川和江
おかあさんの膝には
やさしい陽だまりがある
ノイバラ(野茨・バラ科)
縁側でひるねをする猫のように
わたしも時折
その陽だまりの中でまぁるくなって
うとうと眠りたい
ヒメキンセイカ(姫金盞花・キク科)
おかあさんの膝には
たんぽぽの咲く土手と
つくしののびる広い野原がある
スイカズラ(忍冬・スイカズラ科)
いまでもひとりの女の子が
わらべうたを歌いながら
かがんで花を摘んでいる
マグワ(真桑・クワ科)
おかあさんの膝には
老いてうすくなっても
庇護と許容の大きな屋根が用意されている
ムラサキカタバミ(紫片喰・カタバミ科)
世界中から爪はじきにされた罪びとでも
そこでは迎えいれられて
あたたかい涙で洗われる
ムシトリナデシコ(虫取撫子・ナデシコ科)
いつでも帰ってゆけるふるさと
アブラナ(油菜・アブラナ科)
誰もが帰ってゆくふるさと
ホトケノザ(仏の座・シソ科)
おかあさんの膝(「おかあさんの膝」新川和江)