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カテゴリ:山と文学
うつくしいものの話をしよう。
![]() いつからだろう。ふと気が付くと、 うつくしいということばを、ためらわず 口にすることを、誰もしなくなった。 そうしてわたしたちの会話は貧しくなった。 ![]() うつくしいものをうつくしいと言おう。 風の匂いはうつくしいと。渓谷の 石を伝ってゆく流れはうつくしいと。 午後の草に落ちている雲の影はうつくしいと。 ![]() 遠くの低い山並みの静けさはうつくしと。 きらめく川辺の光はうつくしいと。 おおきな樹のある街の通りはうつくしいと。 ![]() 行き交いの、なにげない挨拶はうつくしいと。 花々があって、奥行きのある路地はうつくしいと。 雨の日の、家々の屋根の色はうつくしいと。 ![]() 太い枝をそらいっぱいにひろげる 晩秋の古寺の、大銀杏はうつくしいと。 冬がくるまえの、曇りの日の、 南天の、小さな朱い実はうつくしいと。 コムラサキの、実のむらさきはうつくしいと。 過ぎてゆく季節はうつくしいと。 さらりと老いてゆく人の姿はうつくしいと。 ![]() 一体、ニュースとよばれる日々の破片が、 わたしたちの歴史と言うようなものだろうか。 あざやかな毎日こそ、わたしたちの価値だ。 ![]() うつくしいものをうつくしいと言おう。 幼い猫とあそぶ一刻はうつくしいと。 シュロの枝を燃やして、灰にして、撒く。 ![]() 何ひとつ永遠なんてなく、いつか すべて塵にかえるのだから、世界はうつくしいと。 長田弘「世界はうつくしいと」 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2026.06.02 06:00:05
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