恋する神様。
神々が住まう里に行き倒れていた青年を助けるうち、その青年に恋をしたちいさな神様の、健気で愛おしい物語。とにかく、このちいさな神様が、可愛くてならない。まだ生れ落ちて日が浅く、神様として未熟な存在だけれど、里の皆に愛され、大切に育まれている。素直で懸命で、だから、初めての恋にも真っ直ぐで、だから、神々も懸念しながら、ちいさな神様を少年の姿に化して、人間界へ旅立たせた…恋をした相手は、若くして成功した画家で、自分を助けてくれたちいさな神様への想いは、確かに真剣だった。ただ、人間界に戻った青年は、里での記憶を失ってしまっていた…ちいさな神様は、一生懸命に青年へ恋をした。青年も、記憶は戻らないものの、目の前に現れた少年に恋心を抱いた。でも、他者の悪意は神様を傷つけ、欲や嫉妬は青年を眩ませた…もしかしたら、神々はこの恋を試したのかもしれない。でも、同時に、周到に目を配らせて、この恋の成就も願ったに違いない。それくらい、ちいさな神様は、神々に愛されている。里の神々は、その神格も、また神位も様々で、実に魅力的。人間と異なる、その真の大きさを感じられるさりげない描写が、また印象的だった。ちいさな神様の育ての親は、それは過保護で、過保護過ぎて、もしかしたら、自分にもまたさりげなく支えてくれる存在が在る事に、気付いていないかもしれない。薬草を司る神と、その傍らに在る神の物語が、あるような気がする…里に居付かず、人間界を放浪する犬の神は、時折戻ってはその見聞を伝える。人間界で強かに生きる烏の神は、その実、細やかな情がある。そして、里の主である水神は、悠然として神々を統べる。そんな神々に見守られた、ちいさな神様の恋は、破綻寸前にまでいってしまうけれど、でも、ちゃんと御伽噺は、めでたし、めでたし…で終わる。BLという点からすれば、まぁ、お色気シーンは無いものの、切ない恋が、懸命に成就するまでの様が、たっぷりと描かれるから、読み終えての幸福感はそれは素晴らしい。可愛い神様の様子を、想像するのがとても愉しい。コミコミさん特典のSSペーパーが、また堪らなく可愛かったのだけど、その後、ちいさな神様は水神様にも見せたくて、その淵を黄色いアヒルで一杯にしたかもしれない…さて、その後、ちいさな神様と画家の青年は、本懐を遂げたかどうか…育ての神様が、そうはさせじと、あれこれ邪魔をしたかどうか…そんな全てを、里の水神様が、水鏡でこっそり覗いてたかどうか…神々の里の、美しい四季を背景に繰り広げられる、穏やかで賑やかな情景を、また是非読みたいと思う… 『ちいさな神様、恋をした』 2015年4月 リンクスロマンス 朝霞 月子 * カワイ チハル