楽天競馬
地方競馬の楽天競馬|日替わりライターブログ  楽天競馬ブログ 12739262 ランダム
ホーム | 日記 | プロフィール

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

カレンダー

キーワードサーチ

▼キーワード検索

プロフィール

楽天競馬ライター

楽天競馬ライター

フリーページ

楽天カード

2018年09月20日
XML
カテゴリ:横川典視
木曜担当のよこてんです。

 岩手競馬の9月22日の開催取り止めが決定しました。

 先週9月15日の、2頭目の禁止薬物陽性馬発生の判明は、わずか1ヶ月ほど前に同じ禁止薬物陽性馬を発生させている岩手競馬にとって、あってはならない事態でした。
 現時点ではまだ非常に繊細な問題である事は理解しておりますが、ここに至っては目を背けるわけにもいきません。今回はこの件について書いていきたいと思います。

 まず最初に、『ボルデノン』という薬物についておさらいしてみましょう。といっても自分は薬品系の専門家ではないのでインターネット上で調べて分かる範囲ではありますが。

 ボルデノン(Boldenone)はボルデノン・ウンデシレネート酸(C30H44O3)の一般的な呼び名であり、競馬や家畜の世界では『Equipoise』の名でも知られています。
 いわゆるアナボリックステロイド、筋肉増強剤で、その様々な薬品・商品の中では古くから存在してきたものともされています。むしろ家畜用として使われてきたのが始まりで、人間用としては他の本格的なアナボリックステロイドが高価かつ入手しづらかったのに対して比較的安価かつ手軽に入手できるものとして広まったと言われます(商品としてのEquipoiseは様々に調整され純粋なBoldenoneとは異なる可能性がありますが、ここではそこまで触れません)。

 人間が使用する場合のボルデノンにはタンパク質合成促進と赤血球増加の効果があるとされます。世の中に存在する他のアナボリックステロイドほどには強力ではないために作用するのに時間がかかり、体内から排出されるのにも時間がかかる一方、使用による反動が少なめであったりステロイドの副作用である女性化の影響が小さめという事が好まれて使われるといわれます。
 また、ボルデノン単体には強力・急速な効果はないため、ボルデノンと一緒に他のステロイドを併用する(スタッキング)ものともされます。

 家畜用としては食欲増進効果を期待して使用されました(人間が使用した場合にも食欲が増す場合があるとされています)。病気や怪我からの治療中で体調が悪い状態あるいは食欲が落ちた状態の家畜に対し使用するのが一般的です。怪我に対する治療促進にも使用される場合があるようです。

 競走馬に対するボルデノンは比較的近年、10年ほど前までは普通に使用されていた薬物でした。日本だけでなく海外でもそうでしたが、その後国によって規制に差がある時期を経て、現在の日本はじめほとんどの国で禁止薬物に位置づけられています。ボルデノンのみならず近い効果を持つ似た組成の薬物もです。
 改めて強調しますが「競走馬からは出てはならない」ものです。

 ボルデノンについていくつか追加すると、まずボルデノンは体内から排出されるのに長い時間がかかる薬物です。これは人間も馬も問わず、例えば馬に関しては排出しきるまで90日から140日を要する(http://www.jairs.jp/contents/newsprot/2009/12/3.html)という研究結果がありますし、人間でも一般的な使用量の場合に完全排出まで5ヶ月から8ヶ月かかるとされます。「体内残留時間が非常に長い薬物」です。

 また、実はボルデノンは「ごく微量ながら馬の体内で生成される物質」でもあります。牡馬に限り、睾丸にあるホルモンの影響からボルデノンが生まれるため、牡馬に対しては内因的に生成される可能性がある範囲において牝馬・セン馬とは別に基準が定められています。
 なお、今回の岩手競馬の陽性馬はいずれも牝馬であるのでこの件とは無関係です。あくまでも“そういう決まりもある”という参考として触れておくものです。

 競馬の世界の話では無いですがボルデノンが関わったものとして、梅肉エキスから作られたサプリメントよりボルジオン(ボルデノンに近い組成のアナボリックステロイドで、これも禁止薬物)が検出されたという出来事がありました。
 最終的に“なぜ梅肉からボルジオンが生成されたか”は不明だったようですが、「禁止薬物が思わぬものに含まれている可能性がある」一例となっています。

 現在は人間にも馬にも、アスリートにとって禁止薬物であるボルデノンも、ネットで「equipoise boldenone」で検索すると様々なメーカーのものが出てきますし小瓶一本1万円しない価格でネット販売されていることも分かります。「想像以上に入手しやすい商品」だという認識を持たなくてはなりません。

 前置きのつもりではじめた薬物の話が長くなりましたが、これはボルデノンがどんなものかという認識をファンの皆さんと共有しておきたかったからです。
 筋肉増強剤=ドーピング=八百長!というイメージで受け取られてしまうのは仕方が無いのでしょう。実際第2の薬物陽性馬であるウバトーバンが対象のレースで9番人気2着だった事を見て「ほら薬のせいで走ったんだろう」という声があったりするのですが、短絡的短期的にそうなる性質のものでは無いという所は知っておいていただきたいのです。


 今回は薬物陽性馬発生に至る個別の経緯について詮索するようなことは書かない事にします。というのは、あくまでも現在、警察による捜査が進められている段階であり、それぞれの馬に対する個別の事実関係もまた捜査中であり調査中だからです。今いろいろ言った所で想像にしか過ぎませんし最終的な益にもなりません。
 ただし。禁止薬物陽性馬が現実に発生したのは確かであり、それは「違法な状態」であり「公正な競馬を実施できる状況ではない」という事は前提にしなければなりません。

 競馬の世界では公正競馬を守るために様々な努力が行われているわけです。今回のような薬物に対しても、競馬場のみならずトレーニングセンターや牧場含め、競走馬に関わる所はみな時間をかけ手間暇をかけて管理している。
 そこに今回のような禁止薬物陽性馬を出してしまうのは、そうした全国で競走馬に関わる関係者全員の努力や苦労を無にしてしまう行為なのです。そのうえ短期間に別の禁止薬物陽性馬を出した。それはもう「岩手競馬には公正競馬を守る気が無い」と、全国の競馬関係者からそう見られても仕方が無い。
 さらに言えば岩手競馬は近年立て続けに禁止薬物陽性馬を出してきてもいます。今年ここまでの2頭、2016年にはニコチンが3頭から、2013年と2014年にはそれぞれカフェインが1頭ずつから検出されており、実質5年間で7頭発生というのは際だった多さ。それは原因のいかんに関わらず「岩手競馬には公正競馬を守る能力も無い」と見なされて仕方が無い事になってしまうのです。

 現段階では岩手競馬の競馬主催者としての能力の各所に疑問符が打たれている。なのですが、ではそれ払拭するために何をしてきたかを振り返ると、時宜を得ていなかったのではないかと思わざるを得ない部分がある。

 例えば、今回の事件への対策として厩舎に監視カメラを設置するという方針が出されました。ですがそんな事は2016年のニコチン陽性馬発生の時にはすでに必要性がいわれていたものです。その時点で設置していれば、今回の件が起きなかったとは言いませんが、少なくとも再発防止に向けた対応はしてきていたと見てもらえたでしょう。

 全頭の血液検査にしても、ここまで頻発しているのですから、7月の1頭目が発生した時点で検査を実施すれば良かったのではないか。少なくとも2頭目が発生した時点で即座に着手すべきではなかったのか。
 9月22日の開催が取り止めになったのは「血液検査が間に合わないから」という理由で、実際それはその通りだと聞いています。水曜などは職員総出で1日中検査に奔走してそれでも間に合わなかったのであり、逆に言えば日月の開催が何とか可能になったのはその努力のおかげではあります。
 しかしそれにしても、先週金曜日に事態が判明した段階で即検査実施に動いていれば22日も開催できた可能性は十分にあったのではないか。
 もちろん、事の重大さを認識していた関係者は全頭検査の早期実施を要望していたそうです。ですが主催者全体としては対応が遅れた。結果として9月14日の発生から17日までほとんど動きがなかった。その1日2日の時間があれば・・・と思うと残念でなりません。

 どうしても厳しい感じの書き方になってしまいます。書きすぎかなと思わないでもないですが、しかし今回の薬物陽性馬連続発生は、2007年の廃止問題に匹敵するくらいの競馬存立に関わる大事件なのです。これでもし再度同様の出来事を起こしたなら競馬開催停止という事態も有り得ない話ではなくなるし、そうなれば競馬廃止の危機すらも起こりえる。それくらいの大事だと思ってあたらなければならない。

 では今後どうするのか。

 木曜日の会見では「厩舎への監視カメラ設置」「警備員増員による監視強化」「調査チーム設置」が示されました。
 監視カメラ設置は遅きに失した感なきにしもあらずですし、厩舎だけで良いのか?他にも必要な場所があるのでは?とも思いますが、設置することで今まで分からなかったこと・目につかなかったことも見えてくるでしょう。
 警備員増員は“部外者の侵入”を念頭に置いているのでしょうが、そういう方向の事なのかはなんとも?ではないでしょうか。とはいえ例えば厩舎地区の警備員数はコストダウンの影響でかつてよりかなり削減されてきていましたから、増える効果はあるはずです。

 自分が求めたいのは、まずひとつはやはり徹底した原因の究明です。
 しかしそれは“犯人捜し”ではありません。
 これまでの禁止薬物陽性馬発生の事例では警察の捜査の結果として「原因不明」で終わり、結果的には管理調教師が責任を負い名誉を損なわれ、当該馬の担当だった厩務員はいつの間にか競馬場から姿を消している・・・という結末に終わるのが度々でした。そんな“解決”をまた見たいとは思いません。
 どういう時系列で物事が進んで禁止薬物陽性馬の発生に至ったのか?その順序をしっかりと解明させてほしいのです。
 もちろんそれが容易くない事なのは分かります。ですが、最初に挙げた例にあったように思いも寄らぬものに禁止薬物が含まれている事だってあるかもしれません。何気なく使っていたもの、何気なく行っていた手順が実は間違いの元だったという可能性も有り得ます。そういう流れをはっきりとさせる事が、どこに間違いがあったのか?何をどう手を打てばその間違いを防ぎ再発防止につながるのか?を考えるための一番大きな参考材料になるはずです。

 また、こういう事件が起こるとどうしても内外に対して監視を強める方向になりがちで、実際今回もそうなっていくわけですが、確かに昨今、性善説だけでは・・・という出来事が多いので、監視強化というのも仕方がないのかとは思います。しかし監視強化はそれをすり抜けようとする手口を巧妙化させるだけでもあり、長い目で見て効果は限定的なものに留まるでしょう。
 それよりは例えば労働環境を改善する、水沢競馬場であれば懸案になっている老朽厩舎の建て替えを進めてより働きやすい、より目も届きやすい環境にする事で働く人たちの意欲やモラルを高めていく。そういう方向がより効果的ではないかとも思います。
 とにかく今の厩舎周りは忙しすぎます。働く人に余裕がない。疲れが溜まれば心に隙ができ間違いも起こってしまう。だから今回の件が起きたというつもりはないですが、しかしそんな精神的肉体的に厳しい状況を物理的に緩和できるのであれば、そういう手を打つのも必要ではないでしょうか。

 今回のような出来事は、先に述べたように全国の競馬関係者の努力を無にする行為ですし、馬主さんに経済的な損失を与え、働く人たちにとっても同様に損失を与えてしまいます。
 ですが一番残念な想いをさせてしまったのは、やはり岩手競馬を楽しんでくれる、応援してくれるファンの皆さんに対してだと思うんですよね。
 ファンの皆さんが岩手競馬を素直に楽しめない、素直に応援できないものにしてしまったのは、それを“ファンの期待を裏切る”と言うのでしょうけども、大変な失敗だったと思います。
 であればこそ“ファンの信頼を回復する”とは今までのようなプロセスをなぞって解決とするのではなく、原因であり結果をしっかりと明らかにしてファンの皆さんに伝えて、そして、もうこういう事は起こしません、だからこれからも岩手競馬を楽しんでくださって大丈夫です。それが“解決”なのではないでしょうか。
 監視カメラも警備強化も調査チームも、誤解を恐れずに言えば過程の中の手段であって行きつく先の目的ではありません。事態をきちんと解決し、ファンの皆さんの信頼を取り戻す事ができる競馬組合であることを切望します。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2018年09月21日 03時07分07秒



© Rakuten Group, Inc.