本因坊秀策
久々長文を書いてみる。 私の好きな棋士についてあれこれを書くシリーズです。 言わずと知れた棋聖本因坊秀策。 私が秀策を並べたのは高校生のとき。日本棋院から出ている『秀麗秀策』でした。その後大学に入ってから、日本囲碁体系『秀策』、秀策全集(旧版、全4巻)、秀策全集(最新版、全5巻)と並べました。どの本でも少なくとも2,3回は並べているので、著名局だったらかなりの回数を並べこんでいます。 秀策は、江戸碁の完成者であり、その後棋聖とたたえられ多くの日本の棋士の教本となりました。日本の碁の伝統に大きい影響を与えた棋士といえるでしょう。 秀策の碁のすばらしさは一言でいえば「完成された美」です。初手から結局に至るまで、本手本手で押していきそのまま自然な形で押し切ります。貪るとか力むとか誤魔化すとかといった部分が皆無で、普通に打ち普通に勝ちます。これは奇跡的なことです。秀栄名人が「1局に1回くらいは打ちにくい手を打たないと勝てない」という意味のことを言っていますが、そういう部分がほとんどないのです。(もっとも秀策の碁の基本は先番必勝で、秀栄のように白番でこなすという要素が少ないからかもしれないですが) あまりに端正な碁なので人間臭さがなく、それだけにその後の歴史の中で神格化されやすかったとも言えるでしょう。並べてみればわかることですが、秀策の碁から感じられるのは「個性」というよりも「適切さ」というようなものなのです。すさまじい勝利への執念を感じさせる丈和や、変幻自在の秀和などとは対照的です。 ということで秀策は棋譜並べ入門によい素材なのでお薦めします。スタンダード、オーソドックスといった言葉が良く似合う秀策ですから、棋譜並べのよき水先案内人になってくれるでしょう。秀策で基本線を身につければ、他の棋士の個性がよりよく見えてくるでしょう。 秀策の碁を並べる上での楽しみ方を幾つか。 やはり本格的に並べるなら全集です。秀策に限らず、一人の棋士の誕生から死までを伴走してみるといろいろな発見があります。秀策もまた然りです。 秀策は非常に慎重で、また経験を大事にします。ある布石の型で失敗すると以降同じ形をほとんど選びません。逆に勝ちやすい布石を見つけると繰り返し使います。所謂秀策流です。秀策流は7手目のコスミが有名ですが、そのほかいろいろなパターンがあり全集で並べるとよくわかります。秀策流はシステム布石の第一号といえるかもしれません。修行時代の秀策は必ずしも布石が上手くなくて、全集で並べていくと一局一局、一手一手秀策が自らを磨きあげてゆく過程が見えて面白いです。#囲碁の天才には2種類あり、早見えで才気走った「創造の天才」と、無限の囲碁の変化に黙々と立ち向かい続ける忍耐力を持った「熟慮の天才」(やや言葉のすわりが悪い)があります。「創造の天才」には道策、秀和、秀栄、呉清源などが挙げられ、「熟慮の天才」には秀策、木谷実、李昌鎬などが挙げられます。 秀策が秀策らしく勝った名局もいいのですが、ときには劣勢に陥ってクソ粘りしている碁なども並べてみると面白いです。秀策の苦戦の碁としては、御城碁での松和戦が有名ですが他にも数局あります。 そういった碁で見せる「腕力」には凄まじいものがあります。逆にいうとこれだけの力を持ちながら、それを抑制し全局に調和を持たせていることに神秘的なものを感じてしまうくらいです。 書いているうちに久しぶりに全集を並べたくなってきました。