テーマ:本のある暮らし(4189)
カテゴリ:Novel
・佐藤多佳子『一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ-』は、青春の疾走感と心の機微を描いた物語の序章である。 ・物語の語り手は、神谷新二。サッカーに打ち込んでいた彼は、怪我によってその夢を諦め、兄の背中を追って陸上部に転向する。兄・健一は全国的にも名の知れた短距離選手で、常に自信と才能に満ちている。その兄とは対照的に、新二は自らの能力や進むべき道に確信を持てず、揺れ動く日々を送る。 ・そんな新二の世界を変えるのが、同級生であり天性のスプリンターである一ノ瀬連。風のように走る彼の姿に新二は心を奪われ、彼との出会いを通して、陸上という新しいフィールドで自らを試す決意を固めていく。 ・第一部では、個として走ることへの戸惑いと、仲間との関係、そして「速さ」とは何かという問いが丁寧に描かれる。日常のささやかな風景や、練習場の空気、スターティングブロックに立つ緊張感――それらが淡い光を帯びながら、読者の胸にじんわりと染み込んでくる。 ・人生のどこかで「出遅れた」と感じたことのある大人たちにとって、新二の歩みはどこか自分自身の記憶と重なる。走り出す前の一瞬の静けさ。心の奥に沈んだ熱が、ふと蘇る。そんな物語である。 ・受賞歴:2007年 第4回本屋大賞受賞 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2025.06.24 00:00:14
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