テーマ:本のある暮らし(4194)
カテゴリ:Novel
・佐藤多佳子『一瞬の風になれ 第二部 ―ヨーイ―』は、個の模索から「チーム」という絆へと視点が移り変わる、青春譚の中核を成す一冊である。 ・主人公・神谷新二は、第一部で陸上部へ本格的に身を投じ、短距離走者としての第一歩を踏み出した。第二部では、その足が確かな軌道に乗り始めると同時に、個々の走りだけでなく「リレー」という集団競技の中で、自分という存在を捉え直す契機が与えられる。 ・春の大会を経て迎える夏――。強豪・桐畑高校との対抗戦、そしてインターハイ予選が物語の中心に据えられる。天才肌の一ノ瀬連、理論派の根岸、努力型の小出、そして新二。それぞれが違う方向から「速さ」を求め、時にぶつかり、時に支え合いながら、4人は一本のバトンに心を重ねていく。 ・バトンを繋ぐという行為に託されるのは、単なるスピードではない。他者を信じる勇気、自分を差し出す覚悟、そして誰かと一緒に夢を見るという痛みすら伴う希望だ。この第二部には、スポーツの技術的な描写と並行して、思春期の不安、友情の繊細な揺らぎ、目標に向かっていくことで生まれる充足と孤独が濃密に編み込まれている。 ・読者にとって、それは過去に置き去りにした「本気で何かに向かった日々」への追憶ともなるだろう。若さとは、愚かさや未熟さを含んだ、だが紛れもない「まっすぐさ」のことだ――そう思い出させてくれる物語である。 ・受賞歴:2007年 第4回本屋大賞受賞 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2025.06.25 00:00:12
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