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2026.07.04
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カテゴリ:Novel

・「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」は、ノンフィクション作家 佐々涼子 が、海外で亡くなった日本人や日本で亡くなった外国人を故郷へ送り届ける「国際霊柩送還士」の仕事を追った作品である。死を扱った本でありながら、読後に残るのは暗さではない。むしろ、人間が最後まで人間として扱われることの尊厳と、生きている者たちが故人に注ぐ愛情の深さである。

・本書の舞台となるのは、海外で亡くなった人々の遺体搬送を専門とする会社だ。事故、病気、災害、事件。死因も状況もさまざまだが、共通しているのは、死がいつも突然やって来ることだ。異国の地で亡くなった人を家族の元へ帰す。そのためには各国の法律、航空輸送の規則、医療機関や大使館との調整など、複雑な手続きが必要になる。だが本書が描くのは事務作業ではない。遺体の向こう側にいる人々の人生である。ある若者は夢を追って海外へ渡った先で命を落とす。あるビジネスマンは赴任先で突然倒れる。ある家族は海外旅行中の事故によって愛する人を失う。送還士たちは、その人生の最後のページに立ち会う。そして故人を単なる「遺体」としてではなく、「誰かに愛された一人の人間」として送り届けようとする。

・本書に明確な主人公はいない。しかし実質的な中心人物は、国際霊柩送還の現場を率いる人々である。彼らは日常的に死と向き合う。にもかかわらず、死に慣れることはない。一件一件に感情移入しすぎれば仕事にならない。だが感情を失えば、この仕事は成立しない。その絶妙な均衡の上で働く姿が描かれる。

・30代から40代のビジネスパーソンにとって、本書が特別な意味を持つのは、仕事の本質について考えさせるからだろう。多くの職業は価値を生み出す。利益を生み出す。効率を高める。しかし国際霊柩送還士の仕事は少し違う。彼らが扱うのは、もう何も生み出さない存在である。それでも社会にとって不可欠な仕事である。

・本書は、仕事の価値は利益ではなく、誰かの悲しみに寄り添えるかどうかにも宿ることを教えてくれる。本書は死者の物語であると同時に、生者の物語でもある。故人は語らない。語るのは残された人々だ。だから本書で描かれる死は、終わりではなく関係性の表現として現れる。人は亡くなっても、誰かの記憶の中で生き続ける。その当たり前でいて忘れがちな真実が、静かな筆致で繰り返し浮かび上がる。

・本書の優れている点は、感傷に流れないことである。涙を誘う出来事はいくらでも登場する。しかし著者は悲劇を消費しない。事実を丁寧に積み重ねることで、読者自身に感情を発見させる。そこにノンフィクション作家としての佐々涼子の力量がある。批評的に言えば、本書は死を扱うため読者を選ぶ作品でもある。気軽な読書体験を求める人には重い。しかし、その重さこそが価値である。現代社会では死は病院や施設の奥へ追いやられ、人々の日常から見えにくくなった。

・本書は、その見えなくなった死を再び人生の中心へ戻してくる。読後に残るのは、人はどう生きるかよりも、誰に見送られるかによって人生の意味が照らされるのかもしれないという静かな実感である。『エンジェルフライト』は職業ノンフィクションでありながら、実際には人間の尊厳を描いた現代の鎮魂歌である。30代から40代の読者にとっては、仕事、家族、人生の有限性を見つめ直す契機となるだろう。そして読み終えた後、自分の大切な人に少しだけ優しくなりたくなる。そんな力を持った稀有なノンフィクションである。








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Last updated  2026.07.04 00:00:18
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