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テーマ:本のある暮らし(4573)
カテゴリ:Novel
・新川帆立の『倒産続きの彼女』は、企業法務の現場を舞台に、「倒産」という経済現象の背後にある人間の欲望、嫉妬、正義、そして再生を描いたリーガル・ミステリである。『元彼の遺言状』でデビューした新川帆立らしく、法律のリアリティとエンターテインメント性を融合させながら、仕事を通して人間の本性を浮かび上がらせていく。 ・主人公は企業法務を専門とする若手弁護士・剣持麗子。華やかに見える法律事務所で働く彼女のもとへ、一風変わった案件が持ち込まれる。依頼人は、転職する会社がことごとく倒産してしまうという、不吉な評判を背負った女性。偶然とは思えないほど勤務先が次々と経営破綻していくことから、「倒産を呼ぶ女」とまで噂されている。しかし麗子は、その評判を単なる迷信として片づけない。企業の倒産には必ず理由があり、その裏側には経営者の判断、組織の歪み、人間関係、資金繰り、そして隠された思惑が存在する。調査を進めるにつれ、一つひとつの倒産は独立した事故ではなく、人間の欲望と秘密が複雑に絡み合う事件であることが見えてくる。 やがて麗子は、企業の破綻だけでは終わらない大きな真実へとたどり着いていく。 ・タイトルだけを見ると、企業再生や経営論を扱う小説のようにも見える。しかし本書が描くのは財務諸表ではない。企業は、人間が壊す。これが作品全体を貫くテーマである。倒産は、景気や市場環境だけで決まるものではない。 経営者の慢心。 組織内の対立。 過剰な楽観。 誰かの保身。 誰かの裏切り。 そうした小さな判断の積み重ねが、最終的に会社という巨大な組織を崩壊させる。法律はその結果を整理できても、人間の弱さまでは裁けない。本書は、その現実をミステリという形式の中で描き出している。 ・新川帆立の筆致は軽快でテンポがよい。法律や企業再生という専門的な題材を扱いながらも、説明過多にならず、人物同士の会話や心理描写によって自然に物語へ引き込む。そして、登場人物たちは善人でも悪人でもない。それぞれが自分なりの正義や事情を抱えている。だからこそ、事件が解決しても単純な勧善懲悪には終わらない。会社が倒れるとき、本当に失われるのは建物でも資産でもない。そこで働いてきた人々の時間や誇り、積み重ねた人生である。その喪失感が作品全体に静かな余韻を与えている。 ・本作の最大の魅力は、「倒産」という経済用語を、人間ドラマへと変換した点にある。一般に倒産は、負債総額や資金繰りといった数字で語られる。しかし著者は、その数字の裏側にいる人々へ視線を向ける。会社は法人格を持つ。しかし意思決定をするのは人間である。だから企業の失敗とは、人間の失敗でもある。この視点が作品に厚みを与えている。また、主人公・剣持麗子は法律を武器に問題を整理するが、法律だけでは救えないものの存在も理解している。法律は白黒をつける。 ・一方で、人間の感情には明確な境界線がない。その両者の間で揺れ動く姿が、麗子という人物に現実味を与えている。一方で、本作はエンターテインメント性を重視しているため、実際の企業倒産手続や企業法務のすべてを詳細に描く作品ではない。専門書ではなく、法律という現実を背景に据えたミステリとして読むことで、その魅力がより伝わる。 ・30代から40代のビジネスパーソンにとって、本書は企業法務の世界を楽しめるミステリであると同時に、組織の脆さと信頼の重要性を改めて考えさせる作品でもある。そして本書が最後に示すのは、企業の寿命とは資金だけでは決まらないという事実だ。会社を支える最後の資本は、帳簿の数字ではなく、人と人との信頼なのである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2026.08.17 00:00:11
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