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2026.08.18
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カテゴリ:Life
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・三宅香帆の『「夫婦」不在社会』は、「結婚するか、しないか」を論じる本ではない。現代日本において、「夫婦」という制度が社会の標準モデルであり続けていることを問い直し、その前提が現実とどれほど乖離しているのかを考察した評論である。未婚化、晩婚化、離婚の増加、多様な家族形態などを背景に、「夫婦を中心に設計された社会」は今なお維持されている一方で、人々の生き方はすでにその枠組みを超え始めているという現状を描き出す。

本書は、一組の夫婦の物語を描く小説ではない。著者・三宅香帆は、文学作品、社会学的知見、統計データ、現代人の生活実態を横断しながら、「夫婦」という概念そのものを読み解いていく。戦後日本では、「結婚して夫婦になり、子どもを育てる」というライフコースが標準とされてきた。税制、社会保障、住宅政策、企業制度、さらには日常会話まで、多くの仕組みが「夫婦」という単位を前提として設計されている。しかし現実には、生涯未婚率は上昇し、一人暮らし世帯は増え、事実婚や同性パートナー、離婚後の単身生活など、多様な暮らし方が広がっている。にもかかわらず、社会制度や価値観は依然として「夫婦」を標準形として扱い続ける。著者は、このズレこそが現代社会の生きづらさを生み出していると指摘する。

・本書は、恋愛や結婚を否定するのではなく、「夫婦だけが人生の完成形なのか」という問いを静かに投げかけながら、これからの共同体や人間関係の可能性を考察していく。本書の中心にあるのは、現代社会は「夫婦」を前提に設計されているが、現代人の生き方はすでにその前提から大きく離れているという認識である。結婚しない人が増えた。一人で暮らす人も増えた。しかし社会制度は、「配偶者がいること」を暗黙の標準として組み立てられている。その結果、単身者や多様な家族形態を選んだ人々は、制度的にも心理的にも「例外」として扱われやすい。著者は、この構造を単なる少子化問題ではなく、社会設計そのものの問題として捉えている。

三宅香帆は、社会問題を声高に断罪するのではなく、文学作品や日常の感覚を織り交ぜながら論を展開する。「夫婦」という言葉が持つ歴史やイメージを丁寧にたどることで、読者は自分自身の価値観がどのように形づくられてきたのかを自然に見つめ直すことになる。その語り口には柔らかさがある。しかし、その柔らかさの奥には、「当たり前」とされてきた制度や常識を問い返す鋭さが潜んでいる。

本書の価値は、「結婚は不要だ」と結論づけることではない。むしろ、夫婦という制度を絶対視しないことと、夫婦という関係を否定することは別であるという点を丁寧に整理していることにある。夫婦という形が幸せな人もいる。そうではない形で豊かな人生を送る人もいる。重要なのは、どちらかを唯一の正解として押しつけないことである。

・一方で、本書は制度や文化を批評する評論であり、具体的な政策論や制度改革案を詳細に論じる本ではない。読者によっては、「問題提起が中心で、解決策は控えめ」と感じる部分もあるだろう。しかし、それは弱点というより、本書の目的が「答えを与えること」ではなく、「問いを更新すること」にあるからだ。

『「夫婦」不在社会』は、家族論であり、社会評論であり、現代人の生き方を考えるための一冊でもある。30代から40代のビジネスパーソンにとっては、自身の家庭や仕事だけでなく、組織や制度が前提としている「標準」が本当に現実に合っているのかを見つめ直す契機となる。そして本書が最後に静かに示唆するのは、一つの事実である。社会は「夫婦」という制度を守るために存在するのではない。人が多様な関係の中で安心して生きられるように制度は更新され続けるべきなのである。

 

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Last updated  2026.08.18 00:00:10



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