Book #1139 いい経営者は「いい経営」ができるのか
・「いい経営者は「いい経営」ができるのか」は、高家正行が、「優れた経営者像」と「実際に成果を出す経営」のあいだに横たわるズレを解体し、経営の本質を再定義しようとする一冊だ。タイトルに含まれる問いは修辞ではなく、人の資質と組織成果は本当に直結するのかという根源的な疑念を起点としている。・あらすじとしては、まず一般に語られる「いい経営者」のイメージ――人格的に優れている、ビジョンが明確、リーダーシップがある――が、必ずしも企業成果に結びつくとは限らない現実を指摘する。続いて、企業の成功や失敗が、個人の能力だけでなく、市場環境、組織構造、タイミングといった複合的要因によって決定されることを具体例を通じて示す。そのうえで著者は、経営者個人への過剰な期待を相対化し、仕組みとしての経営に焦点を移す。すなわち、誰がやっても一定の成果が出る構造をどう設計するかが、本質的な課題だと論じる。・本書の核心は、「属人的な能力」と「再現可能な仕組み」の峻別にある。カリスマ的リーダーが短期的に成果を上げることはあっても、それが持続するとは限らない。一方で、地味でも再現性のあるプロセスを構築した組織は、長期的に安定した成果を出す傾向がある。本書は、経営を個人の資質の問題として語るのではなく、構造とプロセスの設計問題として捉え直す視点を提示する。・さらに興味深いのは、「いい経営」という言葉自体の曖昧さに踏み込んでいる点だ。利益の最大化なのか、従業員の幸福なのか、社会的価値の創出なのか。その定義が曖昧なままでは、経営の良し悪しを測ることはできない。本書は、その多義性を認めつつ、状況に応じた最適解を模索する必要性を強調する。つまり、唯一の正解は存在しないという前提に立った経営論だ。・30代から40代のビジネスパーソンにとって本書が示唆的なのは、この年代がちょうど、プレイヤーからマネジメントへと役割を広げ、「人」に依存する運営の限界に直面し始めるからだろう。優秀な個人に頼るだけでは、組織は持続しない。本書は、その気づきを理論的に裏付け、個人の能力を超えた仕組みづくりの重要性を明確にする。・批評的に見るなら、本書は「個人の力を相対化する」ことに成功している一方で、逆に個人の影響力をやや過小評価している側面もある。実際には、構造と個人は相互に作用し合う関係にある。それでもなお、本書の価値は、英雄的リーダー像に依存した思考を一度解体し、再現性という軸で経営を捉え直す契機を与える点にある。・本質的には、「いい経営者とは誰か」という問いではない。むしろ、どのような条件が揃えば、いい経営が成立するのかという構造的な視点だ。30代から40代は、個人の成果だけでなく、組織全体の成果に責任を持ち始める年代でもある。本書は、その責任を引き受けるための思考の枠組みを提供する。『いい経営者は「いい経営」ができるのか』は、個人崇拝を離れ、経営を冷静に再設計するための、実務的で示唆に富んだ一冊だ。いい経営者は「いい経営」ができるのか 18年間、探究し続けてたどり着いた経営哲学 [ 高家正行 ]価格:2,420円(税込、送料無料) (2026/4/25時点)楽天で購入