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優樹瞳夢の小説連載部屋

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2007年11月03日
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カテゴリ:小説
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Red Vapors #32 ドラゴン魂 in 小田原(6)

  06

 小田原城を背景にドラゴンの舞う姿は、まさに現代ならではのもの。
 天守閣の上に降り立ってスタッフに注意を受けた者がいて、笑いを誘っていたようだ。

 大会は順調に進み、タイムトライアル、軟着陸競争、専門チームによるアクロバット展示、空中やぶさめなどが行われた。
 プログラムのバラエティの豊かさは、アマチュア大会だからこそだ。

 そして午後3時になると雰囲気は佳境となり、本日のメインイベント、毎時400キロをも越えるハイスピードな展開が見所の、エアレースが始まる。
「ここまでは順調ですね」
「ええ……まぁ……」
 アキラは競技を鑑賞しながら、本部席の後ろで小沢に話しかけた。
 そろそろ自分の出番だが、わざとのんびりしていた。

 あと3分もすれば飛び立たねばならぬというのに、小沢は何も言ってこない。妙にそわそわしていて、こちらのことなど気にかけるゆとりもない様子なのである。
 やはりこの大会、残念ながらただで済みそうもない。

「そろそろ行け。レース参加者が現場にいて遅刻したんじゃ、笑い者だ」
 そう言ったのはアルフレッドだった。
「へいへい」
 アキラは立ち上がった。

 そしてなぜかアルフレッド自身も立った。どうやらドックまで一緒に行くつもりのようだ。
 何かと思ったら、彼は並んで歩きだし、
「ジェイクと会った」
 突然、そんなことを言い出したのである。
「……!」
 アキラは驚いた。
 頼んでないことだったし、裏社会という世界から逃げ出した彼自身にとっても、昔の知り合いと会うのは危険なことのはずだが……。

「そうか。……それで?」
 だがアキラは彼の危険行為を責めなかった。
「奴はポーンかもしれない」
 彼は言った。ポーン。チェスで最弱の駒。捨て駒にされやすい。
「……根拠はあるのか?」
「いや、勘だ。けどあいつ、コンビニで1人で飯食ってたんだよ。それ見たら、もしかして仲間内で孤立してんじゃねぇかな、って」
「その仲間のことも、おまえは知ってるのか?」
「顔はな。奴は臨時雇いの傭兵だったし、たまにしか話す機会はなかった。けど、ガキと女を連れてることがあった。愛想のない連中でな。声は知らん。親父に訊けば奴らが誰なのか分かるんだろうけど」
 だがその親父は自分の息子の命を狙っている。今はただの給仕係である彼に、これ以上の調査は望めないだろう。

「よし分かった!」
 別に何が分かったわけでもないが、アキラはうなずいた。
 そして仮設ドックまでの数歩を走る。
「アキラ! 離陸しろってさ!」
「あいよ!」
 コウに軽く手を上げ、「ルプー、行こうか!」
「ぐるるる」
 唸るドラゴンの肩に飛び乗った。
 連中の『計画』ことが何も分からない以上、今は慎重に警戒しているしかない。

 大地と離脱し、屋根を下に見る。
 小田原の空は穏やかだ。

 こちらの飛行に合わせてアナウンスが始まる。
「さぁ! 最後の紹介になります赤と緑のドラゴンは、なんと警視庁からの参戦、レッドヴェイパーズです! ゼッケン11、14。やや後方からのスタート。追い上げに期待されます。参加者の皆さん、ルールは守って飛びましょう」
 その放送に地上が沸く。
「非番だから名前出すなっつったのに……」
 アキラは苦々しく笑った。

「油断すんなよ」
「おう」
 コウに返事し、総勢15匹のドラゴンがひしめく空域で、ギュッと手綱を握る。
 参加者の中にはジェイクはいない。
 アルフレッドはたしかに会ったそうだから、ならばスタート直後に飛び込んでくるはずだ。
『プワーン!』
 スタートのサイレン。
「全者一斉にスタート! スターティングロータリーから次々に飛び出していきます!」
 順番が来たので、自分らもコースに侵入。
 アクセルを上げて最大加速を指示!

 と――。
「おっとー? ゼッケン8番ミズチ、突然のスピードダウン! 失速か!?」
 見ると、1匹が前方からぐんぐん近づいてくる。
 そしてすぐに気づいた。
 市販の普通のドラゴンに見えたそれが、実は違うことにだ。

 アキラの見立てが正しければ、あれは中島飛行機のミズチ。蛇のような柔軟そうな身体と、タンデム翼が特徴的である。
 だが普通ならその足の爪は4本。
 ところがそれは12本あった。
「あれは……!?」
 それは、先月の事故を思い出させる。爪が10本以上もある異形のドラゴンが、飛行機と正面衝突した。

 しかも今日、それに乗っていたのは……。
「ポリ! 約束だ! 決着つけてやる!」
 案の定、ジェイクだ。変装していたらしい。こちらのすぐ横にピタリと付けてくる。
「…………。分かった! だが約束しろ。レースで失格になったら負けだ。いいな!?」
 一応、駄目だろうと思いながらも、ルール違反はしないよう釘を刺してみる。
 もっともこんな条件を飲むくらいなら、最初から犯罪行為などに手は染めまいが。

 ところが。

「いいぜ! ドッグファイトはあとでもできる!」
 あろうことか、相手は了承したのである。しかも何の熟考もなくだ!
「……!!」
 その短絡さに、アキラは自分の顔から血の気が引くのをたしかに感じた。
 これは、奴が自分達の『計画』とは無関係に動いている、ということ。そしてアルフレッドは、「奴は囮かもしれない」とも言ったのだ。
 彼にばかり気を取られた自分を呪った。

 とっさに叫ぶ。
「本部! 今すぐレースを中断しろ! まだ間に合う!」
 が――。
「え? どういう――」
 本部スタッフが返答を返す前に、それは起こった。

『どむっ! ……どむっ! どむっ!』
 レース中のドラゴン達が、何かとぶつかったような音とともに、突然視界から消え始めたのである。
「キィィィ!」
「ガァァァ!」
 それらは咆哮をあげ、失速し、墜落していく。
「……!!」
 上を見やる。

 それはおぞましいほど大量の、ドラゴンの群れだった。
 本当に一瞬目を話した隙に、唐突に南の空に現れた。高々度から一気に降下して来たらしい。
 まるで黒い雲。
 ――何を始める気だ!?
 それは戦時の絨毯爆撃を連想させた。

「かかってこいや!」
 ジェイクはその光景すら、全く気にかけていなかった。

つづく

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最終更新日  2007年11月03日 21時44分24秒
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