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2話はこちら 3話はこちら 4話はこちら 5話はこちら Red Vapors #32 ドラゴン魂 in 小田原(6) 06 小田原城を背景にドラゴンの舞う姿は、まさに現代ならではのもの。 天守閣の上に降り立ってスタッフに注意を受けた者がいて、笑いを誘っていたようだ。 大会は順調に進み、タイムトライアル、軟着陸競争、専門チームによるアクロバット展示、空中やぶさめなどが行われた。 プログラムのバラエティの豊かさは、アマチュア大会だからこそだ。 そして午後3時になると雰囲気は佳境となり、本日のメインイベント、毎時400キロをも越えるハイスピードな展開が見所の、エアレースが始まる。 「ここまでは順調ですね」 「ええ……まぁ……」 アキラは競技を鑑賞しながら、本部席の後ろで小沢に話しかけた。 そろそろ自分の出番だが、わざとのんびりしていた。 あと3分もすれば飛び立たねばならぬというのに、小沢は何も言ってこない。妙にそわそわしていて、こちらのことなど気にかけるゆとりもない様子なのである。 やはりこの大会、残念ながらただで済みそうもない。 「そろそろ行け。レース参加者が現場にいて遅刻したんじゃ、笑い者だ」 そう言ったのはアルフレッドだった。 「へいへい」 アキラは立ち上がった。 そしてなぜかアルフレッド自身も立った。どうやらドックまで一緒に行くつもりのようだ。 何かと思ったら、彼は並んで歩きだし、 「ジェイクと会った」 突然、そんなことを言い出したのである。 「……!」 アキラは驚いた。 頼んでないことだったし、裏社会という世界から逃げ出した彼自身にとっても、昔の知り合いと会うのは危険なことのはずだが……。 「そうか。……それで?」 だがアキラは彼の危険行為を責めなかった。 「奴はポーンかもしれない」 彼は言った。ポーン。チェスで最弱の駒。捨て駒にされやすい。 「……根拠はあるのか?」 「いや、勘だ。けどあいつ、コンビニで1人で飯食ってたんだよ。それ見たら、もしかして仲間内で孤立してんじゃねぇかな、って」 「その仲間のことも、おまえは知ってるのか?」 「顔はな。奴は臨時雇いの傭兵だったし、たまにしか話す機会はなかった。けど、ガキと女を連れてることがあった。愛想のない連中でな。声は知らん。親父に訊けば奴らが誰なのか分かるんだろうけど」 だがその親父は自分の息子の命を狙っている。今はただの給仕係である彼に、これ以上の調査は望めないだろう。 「よし分かった!」 別に何が分かったわけでもないが、アキラはうなずいた。 そして仮設ドックまでの数歩を走る。 「アキラ! 離陸しろってさ!」 「あいよ!」 コウに軽く手を上げ、「ルプー、行こうか!」 「ぐるるる」 唸るドラゴンの肩に飛び乗った。 連中の『計画』ことが何も分からない以上、今は慎重に警戒しているしかない。 大地と離脱し、屋根を下に見る。 小田原の空は穏やかだ。 こちらの飛行に合わせてアナウンスが始まる。 「さぁ! 最後の紹介になります赤と緑のドラゴンは、なんと警視庁からの参戦、レッドヴェイパーズです! ゼッケン11、14。やや後方からのスタート。追い上げに期待されます。参加者の皆さん、ルールは守って飛びましょう」 その放送に地上が沸く。 「非番だから名前出すなっつったのに……」 アキラは苦々しく笑った。 「油断すんなよ」 「おう」 コウに返事し、総勢15匹のドラゴンがひしめく空域で、ギュッと手綱を握る。 参加者の中にはジェイクはいない。 アルフレッドはたしかに会ったそうだから、ならばスタート直後に飛び込んでくるはずだ。 『プワーン!』 スタートのサイレン。 「全者一斉にスタート! スターティングロータリーから次々に飛び出していきます!」 順番が来たので、自分らもコースに侵入。 アクセルを上げて最大加速を指示! と――。 「おっとー? ゼッケン8番ミズチ、突然のスピードダウン! 失速か!?」 見ると、1匹が前方からぐんぐん近づいてくる。 そしてすぐに気づいた。 市販の普通のドラゴンに見えたそれが、実は違うことにだ。 アキラの見立てが正しければ、あれは中島飛行機のミズチ。蛇のような柔軟そうな身体と、タンデム翼が特徴的である。 だが普通ならその足の爪は4本。 ところがそれは12本あった。 「あれは……!?」 それは、先月の事故を思い出させる。爪が10本以上もある異形のドラゴンが、飛行機と正面衝突した。 しかも今日、それに乗っていたのは……。 「ポリ! 約束だ! 決着つけてやる!」 案の定、ジェイクだ。変装していたらしい。こちらのすぐ横にピタリと付けてくる。 「…………。分かった! だが約束しろ。レースで失格になったら負けだ。いいな!?」 一応、駄目だろうと思いながらも、ルール違反はしないよう釘を刺してみる。 もっともこんな条件を飲むくらいなら、最初から犯罪行為などに手は染めまいが。 ところが。 「いいぜ! ドッグファイトはあとでもできる!」 あろうことか、相手は了承したのである。しかも何の熟考もなくだ! 「……!!」 その短絡さに、アキラは自分の顔から血の気が引くのをたしかに感じた。 これは、奴が自分達の『計画』とは無関係に動いている、ということ。そしてアルフレッドは、「奴は囮かもしれない」とも言ったのだ。 彼にばかり気を取られた自分を呪った。 とっさに叫ぶ。 「本部! 今すぐレースを中断しろ! まだ間に合う!」 が――。 「え? どういう――」 本部スタッフが返答を返す前に、それは起こった。 『どむっ! ……どむっ! どむっ!』 レース中のドラゴン達が、何かとぶつかったような音とともに、突然視界から消え始めたのである。 「キィィィ!」 「ガァァァ!」 それらは咆哮をあげ、失速し、墜落していく。 「……!!」 上を見やる。 それはおぞましいほど大量の、ドラゴンの群れだった。 本当に一瞬目を話した隙に、唐突に南の空に現れた。高々度から一気に降下して来たらしい。 まるで黒い雲。 ――何を始める気だ!? それは戦時の絨毯爆撃を連想させた。 「かかってこいや!」 ジェイクはその光景すら、全く気にかけていなかった。 つづく [Red Vapors]official page こちらも絶好調で公開中です!^^ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007年11月03日 21時44分24秒
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