カテゴリ:[カルロス・ザウリの魁け]
[カルロス・ザウリの魁け] by iMAC@Apple カルロスは今日は旨くいかないでいた。朝から日差しが奇妙に眩しい一日であるが、 影が次第に庭の高い松の木が、低いオリーブに高さと庭での位置を語りかけていた。 「ああ~、くそう!またしでかしてしまった。同じ歪みが出ている。なんて才能がないんだ。 いつもの癖がでてしまう。完全じゃない。こんな素人みたいな歪み出してたら、街の土産 売り場の女の子が売っているあの代物と同じじゃないか!なんて情けないんだ、俺は。」 そう自分を叱責しながら彼は、項垂れて坂を降りていくところだった。 「ねえ~、カルロス、元気~? また落込んでるんじゃないの~。」 そういって毎日と同じ様に、その坂を下から自転車を漕いであがってくるカワイコちゃん がいる。カルロスには幼なじみで、可愛いとは思うが、ちっとも恋心も沸かないジュリアだ。 「っちぇ、またお前か!なんで用もないのにいつも俺んちの母さんに、くだらない偵察の報告を しにやってくるんだ、ええん?」 「なに、いっちゃって、そう言って膨れている時はカルロスは決まって、作品が駄目って時ね。」 図星なんだが、いつもながら我慢がならない奴だ。 「おい、今言っただろうが、俺の偵察するんじゃないって。早くお家へお帰り~、心配性の親父がうるさいぞ~。」 「へんだ、それはそうとカルロ、今日はアンタにいいものを用意してきたんだ。というか、親戚の伯父さんがちょうど今日は家に遊びにきて、その親父とワイン飲み明かしてるんだけどさ、ほら?どう、この壷おもしろいでしょ?」 一体どこへ隠していたのか、戸思いきや自転車の後ろに袋を着けて引いてきたらしい。ジュリアは取り出すと、やや重そうにカルロスに渡してやった。 「それさ~、おもしろいね~、最初から口がくにゃくにゃなんだけどさ、伯父さんの話だと、隣街の若い連中の間で女の子を引っ掛けた後にさ、一緒に酒場で歌いながらワイン飲むのに、 一緒に飲み合いするのに流行してるんだってさ。いいな~隣街は結構大きな繁華街もあって、 可愛い男の子もいっぱいだって言うしね~。」 「だったら、伯父さんに今日から隣街へつれてってもらえ~、せいせいするぜ! その壷は置いとけよ。危ないからな、坂を下るには手ぶらが安心だぜ~、お嬢ちゃんは早くお帰り!」 「なんだって~、ば~か! こんなに良いヒント教えてやってのに、まだふて腐れてんの!」 カルロスはその壷を少し抱え上げると、全体を抱きかかえて回しながら中を覗き込んだ。 驚いたのだ。そこには今の今まで完璧な円形を求めていた自分が奇妙に小さく壷の中に映ったのだ。そう、中には白ワインが少々残っていたのだ。それが明るい光を飲み込んで、カルロスの顔の光を反射した。 「おいおい、ジュリア見てみろよ、この壷の中に俺の探していた世界があったぜ~、やっほ~!」 ジュリアは笑いながら、目に少し涙を溜めていた。 「あんたこの1ヶ月沈んでたよ。あたいが毎日突いても、毎日膨れてたよ~!やい、わかったか~!大好きだからね~。ぜったい、ぜったい世界で一番アンタが好きな女の子なんだからね。どうだ~、みつけてやっただろう。アンタの好きなものをさ~。」 「.......ジュリア~ん。うん、うん、お前って良いとこあるよな。そういや、もう1ヶ月もたったのか~?なんで気づかなかったんだろうな?自然は波紋なんだった。完全なのは人間が真似る円じゃないんだな。自然が正確に描き出す心理の形状なんだ。それが、波紋と光と影とそして物体の在処なんさ。そうだった。忘れていたと、ありがとうジュリア。」 「ううん、いいんだ。あたいの心も自然だって解ってくれたから~。」 「ぷ~くくくく、わからないよ~!」カルロスは坂を逆に走りだした。ジュリアが怒って追いかけていく。二人はすぐにカルロスの自宅の庭先の工房に飛び込んでいった。 むろん、ジュリアはカルロスに思いっきり抱きしめてもらったのは言うまでもない。 夕刻になり、遠くのイタリアの丘に夕日が沈むころ、ジュリアは自宅へ坂を降りていった。 自転車に乗った美少女の美しい黒髪がさわやかに揺れていた...。 今日は真理が見えた気がしたせいか、カルロスは遠ざかるジュリアが愛しく感じられた。でも、旅立ちが近いことがあることは、まだ話していなかった。心の変化によって、これまでの遊び半分の態度だったことへの後悔が生まれてきていた。
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Last updated
2008.07.14 23:06:46
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