第3話 友との再会へリオポリス周辺で行われていた戦闘はあっけなく決着が付いた。コロニー内部へと進入していたジン4機が戻ってきたことで形成は一気にザフト有利に傾き出撃していた2機のドートレスと3機のメビウスは全機撃墜されアオヤギ級戦艦もつい先ほどヴェザリウスの主砲が直撃し轟沈した。 「潜入した部隊はどうか?」 「はっ、ガモフに帰投。連合の新型MS3機を入手したとの報告です」 その報告を聞きアデスは頷く。残りもすぐにクルーゼと共にこちらへと帰投するだろうと確信を持つ。 が、その確信は次の報告により一瞬にして崩れ去る事となった。 「ミゲル機帰投、中破しています!」 「ミゲルが機体を中破だと!?」 「隊長機、帰投、アスラン・ザラが新型一機確保。残りは失敗・・・ラスティは戦死したとの事です」 「なに!?」 クルーゼ隊でもトップクラスの実力を持つミゲルが機体を中破させら更に新型9機のうち5機も強奪に失敗、更にラスティが戦死と言う報告に耳を疑う。 中立のコロニーへと進入して連合の新型を奪うだけの作戦の筈が予想以上の損害だ。 「隊長機、帰還します。シールド損失」 「隊長までもか・・・機体の補給と整備を急がせろ。すぐに再出撃になるはずだ」 アデスはここまでの損害を与えられた憤りを押さえながら指示をだす。 クルーゼの性格からしてこのまま黙って残りの4機を見逃して帰るということは考えにくい、すぐにもう一度戦闘になると直感が告げた。 敵の戦力は帰還したクルーゼ達が恐らく把握しているだろうが・・・・・・問題はこちらの戦力だ。ジン1機が小破、1機が中破、2機が撃墜され残りの搭載数はクルーゼのシグーを含めて6機。 報告から考えるに敵にかなりの手練れがいると考えられる。 「たった6機でどこまでいけるのか・・・」 誰にも聞こえないよう小さい声でアデスは呟いた。 ヴェザリウス格納庫に並べられたメンテナンスベット。 その内の一つにへリオポリスでアスランが強奪して来た機体が固定されていた。PS装甲の電源を落としてあるため装甲は深紅ではなく灰色に戻っている。 コクピットでOSを操作しながらアスランはモルゲンレーテの工場で見たあの民間人の事を考えていた。一瞬だけで確認は出来なかったがあの顔には見覚えがある。 (キラ・・・いや、奴があんな所にいるはずが・・・・) アスランが思考にふけっている最中、格納庫が急にあわただしくなり整備員が忙しそうに駆け回っていた。 それに気がつきコクピットから外へ出る。 「何かあったのか?」 近くにいた整備員に声をかける。整備員は作業しながら答える。 「何かあったどころじゃねぇよ。ミゲルが機体を中破させられたんだと」 「ミゲルが!?そんな馬鹿な!?」 「そりゃこっちのセリフだっての。おっ、戻ってきたか」 ヴェザリウスのハッチが開き格納庫にふらつきながらもオレンジ色のミゲル専用ジンが着艦する。 その機体を見たアスランは思わず我が目を疑った。ミゲルのジンは左腕および左舷スラスターを完全に失っており修理には早くとも丸一日はかかるであろう損傷を受けていたのだ。 ジンのコクピットから出てきたミゲルは悔しそうに舌打ちし格納庫の二階へと向かって機体を蹴る。アスランはその後を追って機体を蹴る。 「ミゲル、どうしたんだ。お前があれだけの損傷を受けるなんて・・・」 「アスランか、どうしたもこうしたもねぇよ・・・・・後、一歩って所まで追いつめたんだがカウンターでキツイの一発貰っちまってあのざまよ」 アスランへ言葉を返しながら格納庫を出てブリッジへとあがるためにエレベーターへと乗り込み、それにアスランもそれに続く。 「隊長はブリッジか?」 「いや、隊長もシグーで出撃していた・・・・・・もうすぐ戻ってくる頃だと思うが」 二人がブリッジに上がったのとほぼ同時にクルーゼのシグーが格納庫へと着艦した。 へリオポリスの外壁を撃ち破ってコロニー内部へと飛び出したアークエンジェルはとりあえず適当な降りられる空き地へと降りていた。 開け放たれた右舷ハッチからアークラインに先導されストライクと3機のドラグナーが格納庫へと向かっている。 『適当なメンテナンスベットに機体を固定させて降りてきて』 クレアは外部マイクで4機に伝えるとすぐ近くのメンテナンスベットにアークラインを固定させる。 ラダーを使いフレイと共に機体から降りると丁度、ストライクとドラグナーがメンテナンスベットに機体を固定させているところだった。 アークラインの足下に降りると格納庫の入り口から数人のクルーがこちらへと駆け寄ってきているのが見えた。 「レナード少尉。無事だったか」 クルーの先頭に立っていたナタルがクレアに声をかける。 「ええ、なんとか・・・・そっちの被害は?」 「襲撃の時に艦長を含め主だった士官はほぼ戦死・・・無事だったのは艦にいたほんの数名だけだ。・・・・・その娘は?」 ナタルがクレアの脇にいるフレイに視線を移して言う。見たところ民間人のようだが・・・・・・。 「ああ、逃げ遅れたっていうから途中で保護したの。本当は此処のシェルターにでもいれてあげようと思ったんだけど・・・工場があれじゃね」 二人が話している間に機体を固定し終えたキラ達がコクピットからラダーで機体から降りてくる。 それを見たナタルたちは我が目を疑った。自分たちが開発した新型MSと手に入れたメタルアーマーから降りてきたのは15~6ぐらいの少年たちなのだ。驚くのも無理はない。 クレアは18だが彼女はーーーー軍服着ないで私服なのだがーーーー軍人、軍の機体に乗っていても不思議では無いが・・・・・・。 「子供が動かしていたのか!?」 少し前に通信で簡単な会話を交わし子供が乗っていると言うことを知っていたクレアはさほど驚かずに平然としている。 一方、自分たちが目の前にいる軍人たちにある意味でアイデンティティ崩壊級の衝撃を与えている事を知らないキラ達は物珍しそうに格納庫を見渡していた。 小さい頃・・・・・・特に男なら一度はロボットや戦艦などに憧れという物を持つ事が多い。さっきまでは無我夢中でそんな余裕はなかったがなんとか一安心つけるであろう現状になり4人は改めて自分たちが今いるのは戦艦の格納庫でさっきまで俗に言う巨大ロボットを動かしていたという実感を得た。 「天井高いなぁ・・・・当然だろうけど」 天井を見上げてキラが呟く。此処はMSなどの機動兵器を搭載する格納庫、天井が高くて当然だ。 ケーン、タップ、ライトの3人はというと機体の足下でそれぞれの機体を見上げている。 「こうして見ると・・・・ダッセェな、コイツ」 ケーンが先程まで乗り込んでいた機体、D-1を見てぼやく。頭部のレドーム、両肩からのびる砲身、寸胴な黒いボディ。 感性は人それぞれであるが少なくともケーンにしてみればこのD-1は十分に不細工のようだ。 ライトのD-3も白い機体で見た目、めぼしい武装が見あたらない事を除けば自分のと対して変わらない機体だがタップのD-2は重厚なその見た目と素人目でもわかる充実している火器。 キラが乗っていたMSも見た目はスマートな人型で自分の機体より格好良く見える。 (あっちにすれば良かったか) 今更いっても遅すぎる後悔を心の中で呟いた。 「おい、其処の4人組」 「「はい?」」 ナタルの呼びかけに4人は一斉に顔を向ける。 緊張感のかけらも無い4人ーーーー民間人だから仕方ないと言えるかもしれないがーーーーにナタルは軽い頭痛を覚える。 「話がある、こっちに来い」 命令口調のナタルに少し嫌悪感を覚えながらも4人はナタル達の方へと歩み寄る。 その途中、キラはナタルの横に立っている銀髪の18歳ぐらいの少女と目があった。 (綺麗な人だなぁ・・・・・) と素直にそう思っていると、その少女の脇に立っていた少女がキラ達の顔を見て走り寄ってきた。 「あなた達、サイの友達の!?」 「え・・・フレイ。アススター!?」 思わず名前を叫ぶ。 彼女は自分たちの一期下の学年だがサイの許嫁ーーー親が勝手に決めた話だけーーーでありミリアリアと同じサークルの仲間と言うことで面識があった。 それほど自分たちと親しいわけではないが状況が状況だけに顔を知っている相手に出会えたのが嬉しかったのか、キラに勢いよく抱きついた。 「おーおー、熱いねぇお二人さん」 「羨ましい限りで」 「時と場所も選ばずに抱き合いますか」 それを見たケーン、タップ、ライトの三人はいつもの軽口で二人をからかい・・・・・それに対し二人は同時に。 「「違うって!!」」 三人にむかって否定の言葉を叫ぶ。キラは内心(そうだったらいいのになぁ・・)と思っていなくもないのだが。 「あ~、君たち・・・・。そろそろ行かないとバジルール少尉がキレそうなんだけど?」 なんだか漫才しているような雰囲気の5人にクレアが声をかける。 確かに、ナタルは今にも怒り爆発しそうな雰囲気である。5人はあわててナタルのほうへと駆け寄った。 「・・・・まず、お前達が何故、あの機体に乗っていたのか・・・経緯を話してくれると助かるのだが」 5人が来たことを確認したナタルが言う。 普通に考えれば民間人が軍の最高機密である機体に乗っているはずが無いのだ。どういう経緯で乗り込んだか知る必要はある。 ナタルの問いに5人はその経緯を手短に説明する。 「なるほど・・・状況からして、確かに仕方が無かった・・・・というべきか」 それを聞いたナタルが後ろにいるノイマンに声をかけようと振り向く。 それと丁度、同じタイミングで開け放っていたハッチから一人の作業着姿の女性がこちらにむかって走ってきているのが目にとまった。 「あれは・・・ラミアス大尉!?」 ナタルは思わず声をあげる。自分たち以外にも軍関係者の生存者がいる可能性は低いと考えていただけに驚きと喜びはます。 「バジルール少尉、よく無事で・・・」 「ラミアス大尉も、無事で何よりであります」 マリューとナタルが話している様子を横目で確認しながらクレアはキラ達に話しかけていた。 「通信で声を聞いたときになんとなく思ってたけど・・・・本当に子供だったのねぇ」 「子供子供って・・・・あんたもそんなに歳変わらなさそうに見えるけど?」 ケーンが言う。確かに18歳のクレアと16歳のキラやケーン達と年齢では大差ない。 が、何というかついさっきまで民間人だった彼らより軍人として様々な経験を積んできたクレアのほうが雰囲気では遙かに大人だ。 「まぁねぇ・・・・それ言われるとお終いだけど」 「アハハ」と乾いた笑いをこぼしながら苦笑する。 「そういえば・・・僕たちってこれからどうなるんですか?」 キラが思い出したように問う。 理由はどうあれ軍の最高機密を勝手に動かしたのだ。このまますんなりと帰してはくれないのだろうと、何となくわかっている。 それを聞いたクレアは押し黙る。普通に考えれば彼らはこのまま処置が決まるまでは拘束されるだろう。自分が保護したあのフレイという少女も同じく拘束される。 そう思うと少し気が引け、言いにくい。 「えっと・・・まぁ・・・ねぇ・・・」 答えに困っているとハッチのほうから大声で彼らの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。 「キラ、ケーン、タップ、ライト!!それにフレイも!!」 声のした方を向くと其処には息も絶え絶えの三人組の少年少女の姿があった。 「サイ、トール、ミリアリア!?なんでそんな所に!?」 タップが思わず叫ぶ。それを確認したクレアはちらっとマリュー達の方をみる。 全員、こめかみを押さえている。 「・・・確かに、頭痛くなるわよね。これじゃ・・・」 クレアもため息混じりに呟きこめかみを押さえた。 「ブリッジにいないと思ったら、みなさんこちらに集まってたのね」 不意に聞こえてきた声に驚き全員が声のした方を向く。 そこには紫色のパイロットスーツに身を包んだ金髪の男性が立っていた。 「・・・失礼ですが、あなたは?」 「おっと失礼。第8機構軍所属、ムウ・ラ・フラガ大尉だ。早速で悪いんだが・・・・艦長は?」 フラガの問いにナタルが重苦しい口調で答える。 「艦長ほか、主だった士官は先の戦闘で皆・・・・今はラミアス大尉がその任にあると思います」 「私が・・?」 ナタルの言葉に唖然とするマリュー。確かにフラガをのぞけばここで一番階級が高いのは自分だ。 しかし、技術士官にすぎない自分が艦長など・・・・・・。 「誰でもいいが・・・・乗艦許可をくれないかな?」 「え・・ああ、はい、許可します」 「さて・・・これから、どうするわけよ?」 「え・・・これからって?」 マリューの間の抜けた声にフラガは思わず肩を落とす。 「おいおい・・・・まさか、ずっと此処にいるつもりか?外にいるザフト軍がこのまま仕掛けてこないとでも思ってる?」 「あ・・・」 「とりあえず、此処じゃなんだしブリッジで話そうぜ。」 「ミゲル達がこれをもって帰ってきてくれて助かったよ・・・」 ブリッジのディスプレイを見ながらクルーゼが言う。 ディスプレイにはヘリオポリスでの戦闘の一部始終が映し出されていた。 ミゲルのジンを倒すアークライン。ジン二機を圧倒するガンダムタイプ。工場から突如出現した3機のメタルアーマー。 「これがなければどういい分けしたところで・・・・・連合相手にジンを4機も破壊されたと笑いものにされるからな」 無表情のまま言うクルーゼ。しかし、その言葉にはこれらの兵器に対する彼の感情ーーー脅威と焦りーーーが含まれている。 正直言って連合のMSはほとんどが旧式のMSであるドートレスであり最新鋭機であるジンやシグーの敵ではない。しかし、これほどの機体ならば十分な脅威になりえる。早い段階で潰しておく必要がある。 「諸君、見てのとおり・・残りの5機はそのままにしておけん危険な物だ。出来れば捕獲し我々の戦力にしたいがそうも言っていられん・・・・我々は持てる戦力全てをヘリオポリスに投入し敵の新型機動兵器を破壊する」 その言葉に表情が引き締まる。 クルーゼ隊が全戦力を投入しなければならない局面などこれまで数えるほどしかなくクルーゼの口調から本気で潰すつもりであることもわかるからだ。 「しかし、全戦力といっても・・・残りは隊長のシグーを含めたったの6機です。これだけでコロニーに攻撃をしかけるのは・・・」 アデスの言葉を聞いたクルーゼはフッと笑い、アデスに返答する。 「いや、10機だ。」 クルーゼの言葉にアデスは疑問を持つ。 今、手元にある自軍のMSは6機しか無いはずだが・・・・・・。 「隊長、ジンもシグーも合計6機しかありませんが・・・・・・」 「アデス・・・MSはジンやシグーだけではないぞ?」 その言葉にようやくクルーゼの意図に気がついた。 そう・・・・・・彼は奪取した4機のMSを戦力として投入するつもりなのだ。 「あの4機を投入するのですか!?」 「嗚呼、データの吸い出しはすでに終わっているのだろう?」 「ええ・・・あと10分もあれば完了しますが・・・・パイロットは?」 「奪取してきたアスラン達にそのままやらせる。いいな、アスラン」 クルーゼはアスランへと顔を向け静かに言う。 「え・・・ああ・・・・了解・・しました」 クルーゼの指示にとまどいながらもアスランは返事を返す。 (しかし、これはチャンスだ)と心の中で呟く。あの工場で見かけた民間人・・・・・・彼がキラなのかそうではないのか、もう一度あのコロニーに行けばわかるかもしれないと。 「ですが、強奪したばかりの機体に乗せるなど・・・・」 「奪取した機体の戦闘データ・・・・・・ザラ議長の喜びそうな土産にはなる。それに・・・・」 「それに?」 クルーゼの口元がゆがみ笑みを作り出す。 「見たくはないか?連合のMS同士・・・・・しかも、ガンダムタイプ同士の戦いと言う物を」 アークエンジェル居住区。 キラ達はとりあえず其処で休むように言われたので下士官用の二段ベットが二つ並べられた部屋で休んでいた。 「これから、どうなるんだろうな・・・俺達」 トールが呟く。なんだかんだで此処まで状況に流されていた。 普通に考えて・・・・・・簡単には降ろしてくれないだろう。 「他のシェルターに連れて行ってもらうっていうのは・・・・ないのかしら?」 「駄目だな。コロニー内であれだけの戦闘があったんだ・・・今頃シェルターはレベル3で完全にロック。今から入り込めるシェルターなんてありゃしねぇよ」 フレイの言葉にライトが言葉を返す。 確かにモルゲンレーテの工場がほぼ全壊するほどの戦闘が起こったのだ。シェルターのレベルが最大にされていてもおかしくはない。 つまり、自分たちはこの戦艦の保護を受けるしかないのだ。 「この戦艦で保護してくれるんなら・・・とりあえずは安心・・・かなぁ・・」 「どうだろうなぁ・・・・・外にはまだいるんだろ・・・ザフト」 サイの言葉に全員が沈黙する。 外にはまだザフトがいるらしいことはマリュー達の雰囲気からなんとなく察することができる。 普通に考えればまた戦闘になるだろう。 「全然・・・安心できねぇな・・・・」 タップの言葉に場の空気が重くなる。 「・・・・あれ?」 何となく今いるメンツに違和感を覚えたミリアリアが此処にいる人数を数え始める。 一人、二人、三人、四人、五人、六人、七人・・・・・・・。 「おかしいなぁ・・・」 「どうしたんだよ、ミリィ?」 「ああ、なんか・・・一人足りなくない?」 「へ?」 ミリアリアの言葉にトールがメンツの数を数え始める。 確かに自分たちは八人いたはずなのに七人しかいない・・・・・一人この場にいないのだ。 「・・・おい、ケーンはどこいったんだ?」 『え?』 トールの一言でようやく気がついた。 そう、このメンバーでもっとも騒がしいケーンが見あたらないのだ。 「・・・・何処いったんだ、あいつ」 格納庫では整備員達が忙しく動き回っていた。 それも当然、いつ戦闘になるかわからないのだ・・・・・・モルゲンレーテの工場から無事なパーツなどを持ってこれるだけ持ってこなければならない。 「ストライカーパックはこれで全部か!?」 「大尉のメビウス・ゼロ優先で修理するんだよ!!他はまだ大丈夫だろ!!」 「アークラインとライフルのエネルギー配線チェックしたのかぁ!?」 「マードック軍曹!!来てくださいよ!!!」 全員が仕事に忙しく、他のことを気にかける余裕がない。 その中を一人、ケーン・ワカバがコソコソと誰にも気づかれないようにD-1へと向かって歩いていく。 コクピットハッチは都合良いことに開けっ放し・・・・・・これ見よがしにコクピットへと潜り込みハッチを閉じる。 『パイロット登場確認。出撃ですか?』 「ああ、ちょっくら緊急の用事でな。たのんますよクララちゃん」 『了解』 整備員の誰一人気がつかないまま、D-1は静かに起動した。 アークエンジェルブリッジ。 マリュー、ナタル、フラガ、ダグラス、そしてクレアはこれからの事を話し合っていた。 「では、外にいるのはクルーゼ隊だと言うのですか?」 「ああ、アイツはしつこいからな・・・すぐにまた仕掛けてくるはずだ」 クルーゼ隊といえばザフトの部隊でもトップレベルとして連合に知られる部隊だ。 そのクルーゼ隊が相手となればそれ相応の覚悟と戦力が必要になるが・・・・・・。 「現在のこちらの戦力は・・・レナード少尉のアークラインだけ・・か」 「ダグラス中尉、ストライクとD兵器は?あれらは戦力として数えないので?」 ナタルの疑問に答えるようにフラガが言う。 「おいおい、ストライクのOSデータみてないのか?」 「え?」 「此処にくる前にマードック軍曹に見せてもらったけど・・・・ありゃ、俺の扱える物じゃねぇよ」 フラガの意見に同意するようにクレアも口をはさむ。 「そうよね・・・私も見たけど、あれはあの・・・キラ君だっけ? あの子にしか扱えなさそうって感じ。それに、D兵器はパイロット登録制・・・動かしてたあの子達以外には使えないわ」 「なら、あの子供達を乗せて運用すれば・・・・っ」 「乗ると思うか・・・また?」 フラガの言葉にナタルは沈黙する。 普通に考えれば民間人である彼らが機体に乗り込んだのはやむを得ない状況だったからであり戦うためではない。 もう一度、乗ろうなどとは考えないはずだ。 「D兵器の登録解除はできないのですか?」 「登録解除は専門の機関でしか不可能だ。機密保持のための措置が裏目に出てしまうとは・・・」 ダグラスが難しい顔で言う。戦力を少しでも多く必要とする今の状況では機密保持のためのパイロット登録など邪魔でしかない。 「俺のゼロは修理中で使えなんし・・・・まともに使える戦力は」 自然とみんなの視線がクレアに集まる。 そう、彼女とアークライン以外に現状で確実に使える戦力は手元にないのだ。 「私だけ・・・って事ですか。仕方ないですよね・・・状況が状況ですし。私がなんとかしますよ」 苦笑混じりに強がってみせるが、言葉と表情にはやはり不安が混じっている。 敵の戦力・・・先の戦闘で何機が撃墜するなどしたが未知数には変わりないのだ。彼女一人で支えきれるとは考えにくい。 しばらくの沈黙の後、マリューが静かに重たく口を開く。 「やはり、ストライクとD兵器の力も必要ね・・・・」 「・・・パイロットは?あの子供達が乗るとは思えないが・・・」 「私が・・・私が説得してみます」 そういって椅子から立ち上がるマリュー。 丁度、その時に格納庫からの通信がブリッジへと届く。鳴り響く通信機をダグラスがとり通信にでる。 「ダグラス中尉だ、どうした?・・・・何!?D-1が動き出しているだと!?」 『!?』 ダグラスの言葉にブリッジにいた全員が息をのむ。 D-1が動いている と聞けば当然の反応だろう。今は戦闘中でもないし彼らに話しもしていないのだから。 「何故、D-1が動いている!?」 『俺が知るわけないですよ!!あのリーゼントの小僧が乗ってない限り動かないんでしょ!?』 通信機の向こうからマードックの声が返ってくる。他にも整備員達の悲鳴のような声やD-1が歩行している足音なども一緒に聞こえてくる。 『駄目だ、出ちまいます!!』 「何!?」 ダグラスがブリッジの外へ視線を向けると同時に格納庫から飛び出すD-1の姿が確認できた。 格納庫との通信を切りすぐにD-1へと通信を繋げる。 「貴様!!何を勝手にドラグナーを持ち出している!!ケーン・ワカバ!!」 通信機の向こう側にいるケーンに向かって怒鳴りつけるダグラス。 すぐに通信機からケーンの声が聞こえてくる。 『んだよ~、そんなに怒鳴らなくてもいいじゃねぇか。ちょっと借りるだけなんだし』 「貴様・・・・っ!」 怒り心頭のダグラスは今にも握りつぶしそうな勢いで通信機を握り込む。 ナタルは通信をスピーカーに切り替え、ケーンに向かって叫ぶ。 「ケーン・ワカバ、すぐにアークエンジェルへ戻れ。今ならまだ許す・・・この状況での単独行動は・・・」 『大丈夫、大丈夫、すぐに戻ってきますって。んじゃ、そゆことで』 そしてケーンは一方的に通信を切り通信機からは雑音のみが聞こえてきた。 それにプツンと切れたダグラスは叩きつけるように通信機を元に戻す。 「あいつ!!今がどういう状況かわかっているのか!!」 「にしても・・・何処行くつもりだ? ザフトに行く・・・なんて事は無いと思うが」 「・・・・そのあたりの事は彼の友人に聞いた方が早いかもしれないわ。フラガ大尉、ダグラス中尉、一緒に来て」 マリューは二人を連れブリッジを後にする。 新型を操縦していた少年達に協力を要請するため、ケーン・ワカバの行方をつかむために。 ザフト軍戦艦ガモフ。 MSパイロット待機室で3人のパイロットスーツを着込んだ少年がドリンクを飲みながらくつろいでいた。 「おい、聞いたか?クルーゼ隊長・・仕掛けるつもりみたいだぜ?」 「ああ・・・しかも、俺達もでる事になるようだ」 ディアッカの言葉にイザークが笑みを含めた言葉で返す。 「マジかよ?」 「おまけに俺達には奪取した機体・・・・ガンダムタイプを任せてくれるってよ」 イザークの言葉にはさすがに驚く。 ガンダムタイプといえば15年前の戦争で活躍した連合最強・・・いや、すべてのMSの中でも最強と呼ばれるMSだ。 それを自分たちに任せてもらえる。MSパイロットとしてこれほどの名誉はないだろう。 「オイオイ、それって最高すぎねぇ?俺達がガンダムのパイロットかよ」 「ガンダム・・・・まさか、乗ることになるなんて思いもよりませんでしたよ」 ディアッカの言葉にニコルも同意する。 普段は大人しい気性の彼もガンダムに乗れると言うことがうれしいのか心の底から喜んでいるようだ。 MSに乗って戦うと言うことの危険さえも忘れてしまっているほど彼らにとってガンダムの名はあこがれであり一種の目標だったのだ。 「そういえば、奪取しそこねた5機のうち一機も・・・ガンダムタイプらしいですね」 「ほぉ・・・・そいつは面白い。そのガンダム・・・・俺が仕留める」 ニコルの言葉を聞いたイザークが自信を伺わせる表情で言う。 ガンダムを仕留めたとなればかなりの手柄になる。そして、手柄を立てれば奴を、アスラン・ザラを越える事が出来る 彼は内心でそうほくそ笑み格納庫に固定されている機体、自分が奪取したガンダムへと目を向ける。 「ガンダムでガンダムを仕留める。面白そうじゃない」 後編へ ジャンル別一覧
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