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天の道を往き、総てを司る

天の道を往き、総てを司る

第一話

数百年前、地球温暖化によって南極の氷が溶け引き起こされた海面の上昇。
それとほぼ同時期に発生した大地震などの災害……天変地異により地球の約86%は海に覆われ、かつて大陸と呼ばれた地上のほとんどは海の底へと沈んだ。
この海域もかつては高層ビルが建ち並ぶ街だったのだろう……至る所に海面から突き出したビルが見て取れる。そのビルの影から巨体が飛び出し大空へと舞い上がる。
その巨体は機械の巨人だった全長は16m前後、全身を白で統一したその巨体の背中には赤と黒のツートンカラーに塗装されたユニットが装着されている。
ジェットエンジンが搭載されたユニットの左右から突き出しているのは赤を基調としたカラーリングの可変翼。
白い巨人は腰の後ろに装着されている巨大な銃――ビームライフル――を手に取り構えると警戒するように周囲を見渡し始める。

「ハァ……ハァ……ハァ……」

巨人の腹部にあるコクピットに収まっている少女が上がった息を整える。
青と白に塗り分けられたスーツとヘルメットを身につけた少女は目の前のモニターやレーダーを食い入るように見ている。
巨人の目に当たるカメラにより映しだされモニターに表示される光景は海面から突き出したビル街。
少女は手に握るレバーを傾け、巨人を海面ギリギリまでゆっくり降下させる。レーダーに反応があったのは降下し終えた直後だった。

「っ!?」

反応があったのは6時方向。丁度、真後ろだ。
すぐさまビームライフルをそちらに向けるが……其処にあるのは代わり映えしない海面から突き出したビルのみ。
ビームライフルを向けたままゆっくりビルへと近づいていき、レーダーが真上に反応を捉えたときには遅すぎた。

「えっ……?」

真上を見上げるよりも早く、コクピット内のアラートが鳴り響く。
そして、モニターには「あなたは戦死しました」の文字が表示される。

「えっ? ええっ!?」

「油断大敵だな、サリア」

真上から声が聞こえる。
ビルの屋上にはグレーに塗装された巨人がいる。背中には大小合わせて4枚の翼がありその頭部にはピンク色の一つ目が確認できる。
ガルーダと名付けられている巨人はゆっくり白い巨人の横に降下する。

「お前はセンスは良いんだが爪がまだまだ甘いな」

通信機越しに聞こえてくる苦笑混じりの陽気な男性の声にサリアと呼ばれた少女はヘルメットを取って頭を振り汗を飛ばす。
セミロングに切りそろえた金髪が印象的な幼さの残る顔立ちの少女、サリア・ファーレス。その表情には僅かに不満が浮かんでいる。

「あんな不意打ちやっておいて爪が甘いなんて……どうしろって言うんですか」

「不意打ちに文句言うところが甘いんだって。正々堂々なんて実戦じゃあり得ないぜ?」

「それはそうですけどぉ……」

ブツブツを不満を零しながら視線を逸らす。

「ま、今回のを反省して次を頑るんだな。さ、帰投するぞ」

そう言うとガルーダを操縦する男性、アキラ・ラドレスはスラスターを吹かしガルーダを飛び上がらせる。
サリアも自分の駆る機体、ヴァハガンダムと名付けられた機体を飛び上がらせ後に続く。
ビルが突き出ている海域の外には巨大な船、空母が大海原にその巨体を浮かばせていた。

「ノーチラス、聞こえるか。ガルーダ、ヴァハ着艦する」

『了解。着艦してください』

空母、ノーチラスの甲板にガルーダとヴァハガンダムが降り立つ。
そのまま艦の後部中央に設置されたブリッジの左右にある格納用ハッチへと向かう。
ハッチ内部は巨大なエレベーターになっており其処に用意されたメンテナンスベットに機体を固定させ、エレベーターを降下させる。
エレベーターの降下先はノーチラスの艦底部に当たる位置にある格納庫。格納庫につくとガルーダとヴァハを固定したメンテナンスベットが移動し壁際の所定位置に戻る。

『固定完了。整備班は作業に取りかかれ』

アナウンスが聞こえるよりも早く整備班が作業を開始する為にガルーダとヴァハの周囲へと集まり始める。
ヴァハの腹部、コクピットハッチが開き中からヘルメットを抱えたサリアが顔を出す。

「よっ! お疲れさん」

同時に声をかけられ顔を向ける。
其処に立っていたのは腰まである黒い長髪にいかにも人の良さそうな笑みを浮かべている同僚の少年、ゲイル・ライバート。
サリアは軽く手を振って答えハッチから飛び降りるように機体のコクピットの位置に設置されているタラップへと降りる。

「で、どうだった結果は?」

「解ってるくせに聞かないでよ」

「そりゃ失礼しました」

全然反省の色が見えない顔でゲイルが冗談っぽく言う。
毎度のやりとりなのでサリアは特に機嫌を損ねることもなくため息をつく。

「あ~あ、一度ぐらいは隊長に勝ちたいなぁ」

サリアのぼやきにゲイルが手を振る。

「そりゃ無理だって。サリアと隊長じゃ腕も経験も違いすぎだし」

あっさりとサリアの言葉を否定する。
彼の言うとおり、サリアとアキラでは実力が段違いだ。
サリアも何度か実戦を経験しているがアキラはそれと比べるのもおこがましい程に実戦を潜り抜けている。

「第一、目的はデータ取りなんだし勝ったら勝ったでいいけど負けても目的は果たせてるんだしよ」

「そうだけど……負けてばっかってのもね」

ゲイルの言うとおり、先程の演習目的はヴァハガンダムの可動データを取ることにある。
ヴァハは彼女たちの属している軍が開発した戦闘用のMSだ。
元々MSは作業用として開発された非武装の人型機動重機。天変地異により僅かに残った地上は完全に荒れ果て人々が生活するには過酷な環境となった。
大半の人々が海の上での生活を選択するのはある意味で必然だったのかもしれない。人々は海上に都市を建造し新たな生活圏を獲得した。
自然と海での作業が多くなり、とても人間では実行不可能な過酷な作業もあった。MSはそのような危険な作業を行うために開発されたのが始まりだ。
しかし、中には海上都市での生活に馴染めず……海賊となる者達も現れ、次第にMSを利用する海賊も出現した。
それに対する防衛手段として非武装の作業用のMSを装備換装や改造を施し戦闘用へとシフトさせてきた。
だが、元が作業用である以上戦闘力は決して高くはなく海賊相手に苦戦を強いられることも多々あった。
其処で純粋な戦闘用の機体の開発が急務となり、その試作1号機として完成したのがヴァハガンダムだ。

「やっぱ私じゃ乗りこなせないのかなぁ……」

そう呟きながらヴァハを見上げる。
ヴァハは整備員達により背中、胸部、肩、脚部の追加装甲の取り外しが行われている最中だ。
試作機としてヴァハに求められたのは汎用性だった。其処で開発チームは状況に応じた装備の換装システムを取り入れた。
元々MSの装備換装のノウハウはあった為、戦闘用の換装パーツ建造にはそれほど時間は掛からなかった。
今取り外し作業中の空戦装備の他に、火力に重点を置いた砲戦装備、水中での戦闘に対応する海戦装備の二つが製造されている。
この三つの装備換装によりヴァハは高い汎用性を得た。しかし、それ故にヴァハな飛び抜けた性能を持っていない。
つまりはパイロットの腕に非常に左右される機体なのだ。

「サリアのせいじゃねぇと思うけどなぁ……腕だって悪くないし」

ゲイルがフォローを入れる。
サリアの腕は決して悪くはない……むしろ、良い部類に入る。
伊達に試作MSのパイロットに選ばれてはいないのだ。

「単にまだ慣れてないってだけだろ? 気にする事じゃないって」

「はぁ……ゲイルのそういうお気楽な所がホントに羨ましいわ」

ため息混じりにそう言ってサリアは早足で歩き出す。

「おい、何処行くんだよ?」

「疲れたから部屋戻ってシャワーして寝るの。帰還したら起こしてね」

それだけ言って格納庫の出入り口の奥へと消えていく。
ゲイルは「やれやれ」と呟きながら頭をかく。

「ま、俺が気にしてもしゃーないか」

「お~い、ゲイル! 暇ならこっち手伝ってくれ!」

「あ~、了解っす!」

格納庫の一階からの応援要請に答え駆け足で格納庫の一階へと降りていく。



海上都市アトランティス。
世界各地に数十存在する海上都市の中でも規模の大きい都市の一つに数えられるその都市を支えている海底へ伸びる支柱の一つに数機のMSが集まっていた。
流線型のボディにゴーグル状のカメラを持ち、両腕がベンチ状のアームとなっているMS。ディープワングと呼ばれる作業用の機体だ。

「よしっと……こんなもんかな」

支柱の強度確認を終えたディープワングのパイロットの少年がふぅっと息を吐く。
マグナ・ルーヴィル。ヘルメットの下にはショートに切りそろえた茶髪が覗いている。
彼は作業用MSのパイロットをやっている。今回の仕事は数人の同僚と共に老朽化が進んでいたアトランティスの支柱の改修作業を行っていた。
海底に根付き、海上都市を支える大小様々の支柱は定期的に改修を行わなければ老朽化し錆び付いて最終的には折れてしまう事もある。
それを防ぐためにこうして作業用MSでの改修を行うのだ。

『マグナ、そっちは終わったか?』

同僚のパイロットから通信が入る。
どうやら向こうは担当分が全て終わったようだ。

「後一本残ってる。B-47の柱の簡単なチェックだけだし、俺だけで十分だよ」

『そっか、んじゃお先に上がらせて貰うぜ』

「おう」

通信を切ってディープワングを更に深く潜らせる。
B-47の柱は都市の外周部にある柱だ。チェックするべき箇所は海底に近い部分にある。
コクピットの深度表示が2800mとなった頃、海底の地面が見えてきた。

「えっと、確かこの辺だったよな……」

マグナはディープワングを止め、目的の柱を探す。
案の定近くにあった柱を見つけると機体を其処へ泳がせすぐに作業を始める。

「さてっと……ちゃちゃと終わらせますか」

見たところ老朽化が進んでいる箇所がいくつかある。
この程度ならまだ半年は持つがついでに改修しておくのも良いだろう。
ディープワングのベンチアームを開き、パックバックから作業用のサブアームをのばしマグナは作業を開始した。



海上都市は基本的に5つのエリアから成り立っている。
中央に立つ管制塔。その周囲に市街地があり更にその外周部に食物生産場、自衛軍基地、港、がある。
海上都市の基本設計型でありアトランティスもそれに準じた造りとなっている。
外周部にある自衛軍基地に設置された専用の港に空母ノーチラスが入港する。

「ノーチラス、船体固定完了」

「艦載機の積み降ろし急げ。開発部の連中がヴァハのデータ欲しがってるぞ」

ノーチラス、艦首部分が開き中からメンテナンスベットごとヴァハが運び出される。
試作機であるヴァハのテスト結果のデータを抽出し現在開発中の新型MSへとフィードバックする為に開発ブロックまで運ばれる。
それに続いて積み込まれていた他のMSも運び出されていく。
ノーチラスに乗り込んでいたクルー達も次々と退艦する中、ゲイルは居住区に宛われているサリアの部屋の前にいた。

「お~い、サリアぁ~? 着いたぞ起きろーっ!」

ガンガンと扉を叩く音とゲイルの大声が部屋中に響く。
ベットの上で眠りについていたサリアは怠そうに目を開ける。

「……五月蠅いなぁ」

枕に埋めていた顔を持ち上げる。
確かに起こしてくれと頼みはしたがもうちょっと方法を考えて欲しい。
ベットから降りて床に脱ぎ捨てていた青い軍服を着込んで、扉を開ける。

「ゲイルゥ~、もうちょっと静かに起こしてよねぇ」

重たい瞼を擦りながら部屋を出る。
羽織って袖を通しただけの軍服はボタンが留められて折らず白いランニングが見えている。
16歳にしては相変わらず寂しい胸元してるなぁと思いつつ口にはしない。
上着のボタンを止めながらサリアがブツブツと文句を言う。

「あんなに騒がしい起こし方しないでよ全く……」

扉越しにどうしろと言うのか……ゲイルは本気で考えたが止めた。
どうやったって無理だと一瞬で判断したのだ。

「んじゃ、俺が部屋に入って起こし……うごっ!?」

とりあえずいつもの軽口でも言っておこうと思い口を開いたとき、悲劇が舞い降りる。
ゲイルが言葉を言い終えるより速く、サリアの拳が鳩尾に剔り込んでいた。
無駄な力など一切入っていない。全身のバネを上手く利用して放たれた一撃だ。
格闘家として十分に世界を狙える必殺の右だと誰もが認めるであろう程の素晴らしい物だった。

「そんなの駄目に決まってるでしょうがっ! この変態っ!」

顔を真っ赤にしサリアは廊下を歩き去っていく。
後には白目をむいて悶絶し、横たわっているゲイルだけが残った。

「じょ……冗談……なの……に……」



軍専用の港が一望できる展望室にノーチラスを眺めている男がいた。
灰色の髪をオールバックにして纏めている男、グレン・ファーレス。この海上都市、アトランティスの代表を務める男だ。

「……無事に戻ってきたようだな」

ふぅっと安堵の息を吐く。

「ただの演習でしたからね。それに最近は領海内に海賊も出ていませんし」

グレンの横に控えている秘書らしき男性が言う。
今回、ノーチラスが出航した理由はヴァハの演習データ取得の為でありそう危険な事はない。
それに男の言うとおり最近はアトランティスの領海に海賊も出現していない為、比較的安全ではある。

「そういう事では無いのだよ」

「……は?」

グレンの言葉に男は首を傾げる。
もう一度、港を見下ろす。丁度、ノーチラスから金髪の少女が降りてくる所だった。

(……サリアか)

サリアは上から感じる視線に気づいたのか顔をあげ展望室にいるグレンを見上げる。
その姿を認めたサリアはグレンを睨み付けると無視するかのように視線をそらし歩き去っていく。

「……ふぅ。帰るぞ」

「あ……はい」

グレンはため息をつき、秘書を連れて展望室を去る。
軍港を歩いていたサリアはもう一度展望室を見上げる……その視線は眺めるというより睨み付けているに近い。

「……ふん」

侮蔑するように鼻を鳴らし軍港を後にする。



軍港の隣のエリアに自衛軍のMSドックは存在する。
ドックには自衛軍が戦闘用に改良を施したネプチューンやイカロス等、アトランティスが所有するMSが所狭しとメンテナンスベットに固定され並んでいる。
それらのMSから離れた位置にヴァハは固定されていた。空戦装備は取り外され通常の白いボディを見せている。
ヴァハの右横には似たような頭部形状……額のV字アンテナに二つのカメラアイを持つMSが3機並んでいた。

「ヴァハの空戦データ……これだけ取れればフォルセティの分は十分でしょう」

ヴァハから抽出した模擬戦のデータを見ながら整備班の男が横でMSを見上げているアキラに言う。
アキラが見上げている赤いMS、フォルセティガンダムと名付けられた空戦用の機体にヴァハ空戦装備時のデータを参考にした基本データを打ち込んでいた。

「そうか。どれぐらいでコイツは使い物になるんだ?」

「そうですねぇ……データ移植とその他諸々。その後に一度動かしてバグ取りもしないと行けませんし……早くて二週間って所でしょうか」

「やはりそれぐらいはかかるか。なるべく早く頼みたいんだが仕方ないな」

ため息混じりにアキラが呟く。

「これでもかなり急いでやってるんですよ。今朝エーギルを完成させてすぐにフォルセティですからね」

整備班員の言葉に反応しアキラはフォルセティの横でメンテナンスベットに固定されている青いMSを見上げる。
両肩に巨大なシールドを持つ青い機体、エーギルガンダム。水陸両用機として開発されていたこれが完成したのは今朝方の事だ。

「フォルセティが終わってもまだ一機残ってるし……お陰で休日返上です」

「すまないな。今度何か奢ってやるよ」

「期待してますよ」

整備班員はアキラの言葉に笑みを浮かべ反応し、作業を続ける。
アキラはヴァハ、フォルセティ、エーギルをそれぞれ見上げた後に自分の機体の調子を見るためガルーダが固定されているエリアへと向かう。



アトランティス領海から少し離れた海底。
其処に三隻の潜水艦が身を潜めていた。中型級の潜水艦が二隻を大型級の潜水艦が一隻……大型の潜水艦ビックホエールのブリッジに黒い軍服を身に纏う数人のクルーがいる。
その一人、艦長の横に立つ20代前半の男は目の前にあるメインモニターに移るアトランティスの映像をじっと眺めている。

「あれがアトランティスか……話に聞くとおり随分と発展しているようだな」

男の言葉に艦長が答える。

「ええ、海上都市の中でも有数の巨大都市ですからね……今の戦力で落とせるかどうかは……」

「今回は偵察のような物だ。落とすつもりは無いさ」

艦長の言葉にそう返した男、オルト・ガーフィルはモニターに背を向ける。

「戦闘準備だ。MS出撃準備」

「了解。第一戦闘配備だ、MS出撃準備!」

艦長が指示を飛ばし、艦全体に戦闘態勢がしかれる。
ビックホエールが連れていた二隻の潜水艦がゆっくりと海面へ浮上しカタパルトになっている艦首部分を開く。
展開したカタパルト上には背中に2枚のウィングを持つ数機の黒いMSが発進準備を整え待機していた。
その黒いMS、イカロス。内一機のコクピットに乗り込んでいる黒を基調としたパイロットスーツを着込んだ少女がいる。

「遂に実戦……腕が鳴るってもんね」

少女、フェル・マーサカスは計器類を作動させイカロスのスラスターに火を入れていく。
自分が乗り込んでいる潜水艦の隣に浮上した潜水艦からはイカロスの意匠を残しつつ一回りほど大型化している後継機、ダークレイブンと他のイカロスが出撃している。

「フェル・マーサカス、イカロス出るぞ!」

2枚のウィングを広げ脚部のバネとスラスターを利用し大空へと黒い巨体を舞い上がらせる。
フェル機が発進すると同時に数機のイカロスが艦を飛び立った。
海中ではビックホエールの艦底部に設置されているハッチが開かれ其処から水中用MSネプチューンが出撃、アトランティスへと真っ直ぐに向かっていた。



領海内に設置したセンサーが未確認MS軍の接近を捉えたのはノーチラス帰還から十数分後の事だった。
自衛軍司令部のソナーと対空レーダーに十数のMS反応が映しだされている。

「何だ!? 何処のMSだ!?」

司令部に駆け込んだアキラがレーダー手とソナー手に問う。

「わかりません! 識別反応不明!」

「登録されているMSとは一致しません!」

「何だと……新型か!?」

「断定出来ませんが恐らく!」

上がってくる報告にアキラは舌打ちする。
十数機以上の新型MSを揃えてくる相手となると普通の海賊とは考えにくい。
他の海上都市が海賊を装って来たのか、海賊を利用して新型のテストを行っている連中がいるのか……考えればきりがない。

「総員戦闘配置! 住民の避難を急がせろ! MS部隊発進する!」

怒鳴りつけるように指示を出し、アキラは司令部を飛び出して格納庫へと向かう。
直後、アトランティス全体に緊急警報が鳴り響いた。



警報が鳴り響き、軍エリアの人間の動きが慌ただしくなる。
パイロットはそれぞれの機体に乗り込みドックに設けられているハッチから直接出撃していく。
サリアもパイロットスーツに着替えヴァハのコクピットへと飛び込む。

「空戦装備で出せますよね!? すぐに行きます!」

ヴァハの機体に空戦装備用のユニットが取り付けられる。
背中と胸部を覆うように追加装甲とジェットユニットが取り付けられ、脚部に追加スラスターが装着される。

『空戦装備装着したぞ! すぐに出ろ!』

「はい!」

装着が完了し、全てのシステムが正常に作動する事を確認したサリアはヴァハをハッチまで移動させる。

「サリア・ファーレス。ヴァハガンダム行きます!」

ジェットエンジンとスラスターを起動させ、ハッチから大空へと飛翔し先に出撃していたガルーダの編隊と合流する。

「サリアか」

「ゲイル? もう出てたの?」

ヴァハの横についたガルーダが開いた通信からゲイルの声がする。
どうやら自分より先に出撃していたようだ。普段はイマイチ頼りないがこういうときは非常に迅速だなと思う。

「敵さんは結構数いるぜ……オマケに新型っぽい」

「新型……って事は海賊じゃないって事?」

「知らないな。敵さんとっ捕まえて聞き出すっきゃないだろ」

「……そうね」

やがて、二人のMSのレーダーが迫り来る敵MSの反応を捉える。

「来た……っ!」

「無駄話は此処までだな。行くぞ!」



アトランティス全体に緊急警報が鳴り響いていた時、マグナのディープワングは支柱の改修作業を続けていた。
深度2800mの海中にまで警報は伝わらなかったのだ。

「これで最後かな……っと」

支柱の改修を終えたマグナはヘルメットを取り汗を拭う。
手慣れた作業とは言え、少しでも間違えば海上都市全体を危険に晒してしまう作業に違いなく非常に神経を使うのだ。

「さて、帰って一休みするか」

ディープワングを操作し、ゆっくりと浮上する。
暫くするとアトランティスから出るディープワングの編隊と出会した。
見れば各部が自分が乗っている作業用の物と異なっている戦闘用のディープワングだ。

「な……何だ?」

『おい! 其処のディープワング、緊急警報が発令されていたのを聞いていなかったのか!?』

マグナに気付いたのか一機のディープワングが接触回線で通信をかけてくる。

「き……緊急警報!?」

『知らなかったのか……とりあえず、今は危険だ。早くアトランティスへ戻れ!』

それだけ言うとディープワングはすぐに編隊へと戻っていく。

「と……とりあえず、ヤバイって事ね」

事情は良く飲み込めないがとりあえず危険だと言うことは理解できた。
このまま浮上して戻るのは時間が掛かりすぎる……この辺にあるのは軍用のハッチのみ。

「……使わせてもらうか」

マグナはディープワングをすぐ近くの軍用ハッチへと向かわせた。
其処で一機のMSとの出会いを果たす事になると知らずに……。


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