365日、逢魔ヶ刻。

営業の部屋の様子がおかしい。
来客のようだが
メンバーの誰かを訪ねてきたのではないらしい。
加えて時折どよめきも聞こえてくる。
隣の制作室にいては、どうもよくわからないので
覗きに行ってみた。

大パフォーマンス大会の真っ最中だった。

いわゆる実演販売で商品は還元水の浄水器らしい。
途中からの参加となったが、この営業マンのスゴさは、すぐにわかった。
メンバー達の、とりわけ女性陣営からのツッコミや質問に
全部答えを用意していること。
十人近いメンバーの名前をあっという間に覚え
途中からは全員に対して名前で呼び掛けていたこと。
浄水器による還元水で炊いたという弁当を持参し
皆に振る舞うなど徹底的に「体感・体験」させていたことなど。
一流のショーだったのだ。
弁当だけじゃない。
９９ショップで買ったというトマト、
水道水、ボルビックなどの比較実験材料、レンタル料・契約に関する説明用パネルなど出てくる出てくる。

こーゆー時のいつもの自分の役回りとして
ちゃかし・まぜっかえしをする俺が
途中参加であったにもかかわらず
手腕に感心しつつグイグイ引き込まれてしまった。
こんなに売ろうと必死になって仕込んでるヤツになら
騙されてもいいと思った。

「俺、普段は千葉なんだけど取り付けに来てくれるかな」

途中参加にもかかわらず
とうとう一番最初に口火を切ってしまった。

どうせ関東の水道水のマズさには閉口してたのだ。
月々三千円未満なら気持ちよく騙されてやろうじゃないの。