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「アタシ、方向音痴なの、テヘッ」
それが何かチャームポイントのひとつでもあるかのように 照れくさそうに、でも、全然照れてないことこの上ない態度の 女性に、まま遭遇する。 フザケルナと言いたい。フザケルナ。言ってみた。 真の方向音痴とは、とても「テヘッ」込みでは語れないのだ。 すでに何度も足を運んだはずのクライアントのトコまで ある日突然、たどり着けなくなるのはまだしも あろうことかそのクライアントに 「今、迷ってる最中で目の前にこんな看板がありますけどわかりますか。 お手数ですが助けに気てください」と電話をし 救出されてしまうくらいにまでならないと 自らを方向音痴と語ってはいけない。語る資格がないのだ。テヘッ ひょんなことから池尻大橋まで行くことになった。 思わぬ展開で思わぬビッグネームなアーティストに会うことになったのだ。 テキトーな外注ブレーンなら構わず自分のオフィスに呼びつけるクセに 相手が大物になった途端に 俺の方から行かさせていただきます、な豹変ぶりだ。 さすが仕事のデキる男は違う。 我ながら感心しつつ池尻大橋の駅に着く。 そのビッグなアーチスト(以下Kちゃん)の事務所兼住居は 三宿のど真ん中、何の目印もないらしい。 一旦「着きました電話」を入れる。 ビッグなわりに気さくなKちゃんは、その通話状態のまま この俺をナビってくれた。有り難いアリガタイ。 しばらくは順調だったのだが K「マクドナルドの看板が見えますか」 デ「あぁ、ありますあります」 「その角の路地を左に折れてください」 「あ、はいはい」 ここが分岐点だった、あとから思えば。 実はマクドナルドの手前と奥にそれぞれ路地が存在したのだ。 Kちゃんは手前のつもりだったのだが、 俺は自信を持って堂々と奥の路地を曲がったのだった。 K「いい感じの遊歩道でしょう」 デ「あ~… はぁ」 ただの住宅街の隙間を縫う路地というか道幅の狭い車道だ。 何を言っておるのだ。遊歩道? デ「ドンドン行くんですか?(ウネウネ曲がっていて不安)」 K「そうそう。まっすぐに」 デ「道なりに?(ウネウネ曲がっていて不安)」 K「ええ、まっすぐに」 どうも会話が噛み合ない。が、決定的にズレてもいない。 デ「階段が見えてきました。 K「階段?」 デ「昇っちゃっていいですか?」 K「いや、ダメです。昇らずまっすぐ来てください」 デ「まっすく行くと階段なんですが… というか、階段にしか行きません」 この階段がダメと言うなら行き止まりなのだ。 K「今から迎えに行きます。取りあえず止まっててください」 またやってしまった。 いちいちお迎えが必要な43歳。来年1月で44歳。山羊座。O型。好きな色は緑。 生まれながらのVIP待遇だ。 方向音痴もここまで来たら世界遺産にでも登録されそうな勢いだ。 「デッパラさんの方向音痴を堪能する3泊4日」ツアーとか。 Kちゃんを待つ間ヒマなので、 昇っちゃイケナイと言われた階段を昇ってみた。 階段の先は、再び細い道路が続いていたのだが 確かに「遊歩道」としか言えないそれはそれは見事な 遊歩道が視界の広がった道路の左下に出現した。 「あ、これか」 俺が活動の拠点を関東に移して二年半になるが世田谷の住宅地には 全然用がなくて、せいぜいシモキタの芝居に足を運ぶくらいだったから あのうららかな「遊歩道」の存在など今日に至るまで その存在が頭の中になかった。致命的な知識不足だ。 すぐにマクドナルドまで記憶がさかのぼり「あっちだったかぁ」と 原因究明を完了させたのだが、あの曲がり角からすでに 5~6分歩いた勘定だ。戻るのも嫌だ。 とはいえ、今、俺が歩いている道と遊歩道までの間は 目測で15mほど。高低差3m。おまけに小川とフェンスで仕切られている。 ド根性で乗り越えられないでもないが 遊歩道を優雅に散策されていらっしゃる世田谷区民の皆様の ヒンシュクをバリバリに買うことは間違いない。 と、俺のケータイが鳴る。 K「今どちらです?」 デ「結局、階段昇っちゃいました。でも昇って正解。 遊歩道の意味がわかりました。今、その遊歩道に沿っている 土手の上の道を歩いています」 K「今、ボク遊歩道を駅に向かって歩いていますよ。 デッパラさん、どんな格好してます?」 デ「えっとハンチングを被って…」 K「あ。わかったかも。ボク赤い服を着てます」 ナルホド。見つけた。遊歩道の向こう側に赤い服。 デ「えっと、ソッチの方に降りる階段ってあるんですか」 K「いや、ないです」 デ「じゃあ、戻るしか?」 K「ですねぇ」 デ「これ、乗り越えちゃったらマズいですかね」 K「やややや、止めときましょうよ。 いいですよボクここで待ってますから」 とても人のいいビッグネームだ。 そして初対面からダメダメのワタシである。 さっきの階段のトコからさらに2~3分歩いて来てしまっていた。 合計10分近くの道のりをややダッシュ気味に戻る。掛ける倍だ。 おまけに折り返した辺りで俺のケータイが鳴り出した。 Kちゃんでわない別の人。クライアント。そして仕事の話。 ク「今、外ですか」 デ「そうです」 ク「電話してて大丈夫ですか?」 デ「えっと。今、遭難中なんです」 ク「あぁ、相変わらずやってますね」 大きなお世話だ。 幾多の苦難を乗り越えつつもどうにかKちゃんと巡り会え、 事務所にお邪魔することができた。 具体的な仕事の話というより雑談も交えながら お互いのやってきたこと、これからやりたいことなどを ざっくばらんに話す機会だ。すっかり意気投合。 飼っているワンコにも気に入られた。 「じゃあ、もうこれからは“デッちゃん”“Kちゃん”で」 という締めでオイトマすることになった。2時間以上話し込んだか。 玄関まで見送ってくれる。 「どーーもーー」 もちろん、最初の一歩から「来た道」と逆の方に 歩き出したのは言うまでもない。テヘッ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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