彼女は何から逃げたかったのか・・・
手に取ったときは、そんなに衝撃を受けなかった。 ただ簡単で飽きずに読み終えそうだったから、買ったまでだ。 2004年、千葉県に住む9歳の少女が沖縄で保護される。 少女は47歳の「お父さん」と行動を共にしていた。 47歳の男は、少女の知人で、家族でも何でもなかった。 保護されたとき、少女は「帰りたくない」と言ったという。 この話、あたしは全く知らなかったが、実は本当にあった事件だ。 結果的には、男が少女に性的行為を行っていたこと、家族から捜索願が出されていたことで、「誘拐事件」として男に実刑判決が下されて幕を閉じた。 「帰りたくない―少女沖縄連れ去り事件」は、この2人の奇妙な関係、2人の生い立ち、彼らを巡る環境、周囲の人々を克明に取材したルポだ。 どこでどうやって2人は出会ったのか、何故このような事件となったのか、刑務所にいる男や周囲の人々の証言を元に、2人の日々を再現していく。 それは、初めての出会いからさかのぼっていた。 47歳のバツ2の男と9歳の少女。 2人が出会ったのはコンビニエンスストアだった。 レジで順番に並んだだけの関係だったが、少女は男の後をついていく。 「おじさんはお腹が空いたから帰るよ」 「おじさんもひとりなの?だったら同じだね。あたし、家で虐待されているの」 孤独な2人にとって、お互いの寂しさを埋めてくれる相手は誰でもよかったのだろうか。 2人は、急速に距離を縮めていく。 男は処女への虐待をやめさせるため、何度も児童相談所へ足を運ぶが、少女は結局家へ帰されてしまう。少女が叔父と同じ部屋で寝ていることや体の痣から、少女があらゆる虐待を受けていることは明白だった。 「仕事なんてやめて一緒に遊ぼう」というめぐのために、男は仕事を辞め、生活保護を受け始める。生活保護で受けた金は、めぐが湯水のように使っていった。 やがて、めぐの外泊が目に余るものとなり、警察が介入し始める。はじめは始末書だけで済ませていた警察も、度重なる通報に「次に会ったら逮捕する」とする。 めぐと離れようと家を変える男だったが、引っ越し先は結局同じ町内。裁判によって初めて明らかになることだが、男はすでに少女に性的行為を行っていた。 孤独を埋めたいのか、性欲がうずくのか、男は再びめぐを求め出会ったコンビニで張り込みをする。 再開し、「温泉に行きたい」というめぐ。 この健康ランド行きが、沖縄への“逃避行”へのきっけとなることを、2人は知らない。 この事件のキーワードがあるとすれば「孤独」と「貧困」だろう。 男は父親の暴力の下で育ってきたが、ある時期を境に、自分が家庭内で暴力を振るうようになっていた。1度目の結婚で2人の子どもを授かりながら、生活から逃げ、若い女と不倫して離婚した。 その女と再婚するも、2年半で離婚し、派遣社員として働いていた。 めぐは父にも母にも捨てられ、幼い頃から性的虐待を受けてきた。 家は貧しく、門限もあり、ときには殴られるほど怒られる家庭は、めぐにとっては地獄に感じたかもしれない。 保護された後、めぐにどんなことがあったのか聞いた保護士に 「おまえもそれを聞いたらやりたくなるんだろ」と吐き捨てたと言う。 今回の男だけでなく、めぐは5歳くらいの頃から、近所の一人暮らしの男の家に入り浸っていたという。 めぐにとって、男は自分の体さえ差し出せば、孤独も物欲も満たしてくれる道具に思えたのかもしれない。 本当の親と暮らしていれば、もっと広い家で、叔父と一緒に眠ることなく生活することができていれば・・・彼女の人生はもっと違っていたのだろう。 結局、当事者のもう一人の少女の証言は得ることができなかった。 饒舌に自分の正当性を語る男とは裏腹に、少女はひらりと逃げてしまう。男に体を提供してまで、彼女は何から逃げたかったのか。彼女は男のことを、本当はどう思っていたのか・・・真相は闇の中だ。 気分転換で買った本だが、ついつい夢中になり、数時間で読んでしまった。 あまり奥が深くなく簡単な本だった。 しかし、事件はこの本とは裏腹に、ものすごく深く、濃い闇が渦巻いている。 そんな事件があったことを知るための本・・・そんな感じ。 孤独って、貧困って・・・怖い・・・