デジャヴ

 なんでこんなに想い出に捕らわれるのだろう。それは、そんなにいい想い出だったのか?これから先、二度とそれを越えることが出来ないのか?確かに、過ぎ去った時間の中での出来事は他の何にも代え難いだろう。しかし、それを取り戻そうとでもいうのか?
 
 今日も私は旅に出る。かつて訪れたその場所へ。

 過去と同じ時間を未来に求めている。過去と同じ時間を未来に探している。果たしてデジャヴは起こるのか?あの時の笑顔。あの時の匂い。あの時の感触。でも、それはきっと私の意識の中で増幅されているだろう。なのに、それを取り戻そうとでもいうのか?

 今日も私は旅に出る。越えられない海が目の前に拡がっているのに。

 決して時間は遡らない。決して子供に戻ることを望んでいる訳ではない。決して幻想が見たい訳ではない。途切れた時間の続きをやりたかっただけ。でも、それは決して取り戻せない。

 ふと立ち止まって足下を見ると、成長の止まった大人が水面に写っていた。

Vaticano
写真:ローマ、バチカンを望む


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