旅立ち

 3年前の今日、私はイタリアでの独り旅の終盤をイタリアのヴェネツィアで過ごしていた。宿泊していたところは客室が15室しかない小さなホテル『Lisbona』。サンマルコ広場から近いのはいいが、建物の中は薄暗く不気味で、小さなベッドを置く場所以外はほとんど居住スペースの無い客室だった。さらに床は傾き、置き場所の無いテレビは天井から吊ってあった。(いま、いろいろ調べていたら、最近は綺麗になったという情報も発見!)まぁ、そこが世界の観光地ヴェネツィアであるにも関わらず、夜の7時にサンタ・ルチア駅前の公衆電話から予約が取れてしまうホテルなんてそんなものだろう。それでも、自分には充分すぎると感じる場所だった。
 既にお気づきの方もいらっしゃると思うが、私は20代最後の日をイタリアでの独り旅のなかで迎えた。その頃は、公私ともに「我が人生最大の苦難」の連続で、日常の生活の中では支えきれなくなった自分をなんとかするため、早ければその日にパスポートが新しく交付されるだろうという日の翌日の飛行機を予約して、殆ど身ひとつに近い状態で飛び出して行ったのだった。その時の自分には物事を正常に判断をする力など残っていなかった。
 しかし、そんな無計画な旅だったにも関わらず、なぜか出発早々からいろんな人が自分に近づいてきた。まずは、行きにミラノのマルペンサ空港でローマ行きへの乗り継ぎ線を待っていた時。人気の少ないロビーで手荷物のリュックを抱えてぼんやり座っていると、同じく独り旅らしき女性が話しかけてきた。話を聞くと、彼女は年に何度かローマにいるイタリア人のボーイフレンドに会いに来るらしい。イタリア語を習ったことのある私は、イタリア人に対する偏見はあまりない方だと思うが、彼女みたいな子が、遙々ここまで会いに来るのだから、きっとイケメンのプレイボーイなんだろう、と勝手にイメージを膨らましてしていた。しかし、ローマに着いた時に彼女を迎えに来たのは、背が低く、ちょっと頭も薄い「オジサン風」の男性だった。私は、その「オジサン風」に怪訝な顔をされながら2人を見送った後、また独りでテルミニ行きの列車の出るホームへ向かった。<続く>


Malpensa


『Hotel Lisbona』(ホテル・リスボーナ)
あれ、HPで見るとなんか綺麗で立派だなぁ。Via XXII Marzo 2153 Tel:041.528.67.74


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